第8話 1974年5月

 勇はシチズンの時計に呪文を唱え、74年の4月にタイムスリップした。

 1ヶ月は何事もなく過ぎた。勇はアパートにひきこもって敵からの攻撃を凌いだ。

 送り犬って妖怪が都内のあちこちで目撃された。

 夜中に山道を歩くと後ろからぴたりとついてくる犬が送り犬である。もし何かの拍子で転んでしまうとたちまち食い殺されてしまうが、転んでも「どっこいしょ」と座ったように見せかけたり、「しんどいわ」とため息交じりに座り、転んだのではなく少し休憩をとる振りをすれば襲いかかってこない。ここまでは各地とも共通だが、犬が体当たりをして突き倒そうとする、転んでしまうとどこからともなく犬の群れが現れ襲いかかってくる等地域によって犬の行動には違いがある。


 また、地域によっては無事に山道を抜けた後の話もある。例えば、もし無事に山道を抜けることが出来たら「さよなら」とか「お見送りありがとう」と一言声をかけてやると犬は後を追ってくることがなくなるという話や、家に帰ったらまず足を洗い帰路の無事を感謝して何か一品送り犬に捧げてやると送り犬は帰っていくという話がある。


 昭和初期の文献『小県郡民譚集』(小山眞夫・著)には以下のような話がある。長野県の塩田(現・上田市)に住む女が、出産のために夫のもとを離れて実家に戻る途中、山道で産気づき、その場で子供を産み落とした。夜になって何匹もの送り犬が集まり、女は恐れつつ「食うなら食ってくれ」と言ったが、送り犬は襲いかかるどころか、山中の狼から母子を守っていた。やがて送り犬の1匹が、夫を引っぱって来た。夫は妻と子に再会し、送り犬に赤飯を振舞ったという。長野の南佐久郡小海町では、山犬は送り犬と迎え犬に分けられ、送り犬はこの塩田の事例のように人を守るが、迎え犬は人を襲うといわれる。


 海原組はデウカリオーンと名を変えて暗躍していた。敵だったはずの渡辺晴彦がデウカリオーンに雇われた。石原はあのとき、晴彦に射殺された。

「まぁ、奴はそれだけの人間ってこったな」

 ソファに深く腰掛け、海原が言った。

 晴彦は石原渚にビクビクしていた。もしかしたら、石原の血縁者かも知れない。

 晴彦は整形して顔を変え、名前も湊屋有起哉みなとやゆきやと変えた。


 5月3日 - 白泉社から少女漫画雑誌『花とゆめ』創刊。渚は夢中になって漫画を読んでいる。ソファに寝そべり足をパタパタ、お姫様みたくしている。


 蒲生は神奈川県警の刑事課警部に出世していた。

「久しぶりだな、ブレイブ」

 山下公園近くの喫茶店でコーヒーを飲んだ。

「どうせなら、飛び切りの美女とお茶したいものだ」

「贅沢なんだよ。フィクションの世界だと今年、日本は沈没するんだ」

「何の話だ?」

「去年の12月に映画になったろ?小松左京は天才だな?」

 見たかも知れないが、タイムスリップのし過ぎで記憶がおかしくなってるのかも知れない。

 店内では和田アキ子の『古い日記』が流れていた。『あの頃は、ハッ♪』今年の2月にリリースされたばかりだ。

 店を出て海岸通りを歩いてると川天狗が現れた!

 東京の小河内村では、多摩川にある大畑淵という大きな淵に住んでおり、人間に危害を加えることはなく、いつも岩の上に寂しそうに座り、物思いにふけっていたという。ある年の春に姿を消したが、その年の秋にまた姿を現し、その隣に1人の美しい天狗の娘が寄り添っており、彼女に膳椀を貸した者は、礼としてミミズが熱病の薬になることを教わったと言われている。また、大河内と氷川の境にある水根渓谷には山天狗と共によく現れ、曇りの日や雨の夜、振袖姿で傘をさし、激しい山崩れの音を立てたという。また、渓谷で人に激しい飛沫の滝を見せたり、激流の音を聞かせることもあるが、この際に道の畦に足を踏み入れて谷を覗き込もうとすると、真っ逆様に川に落とされてしまうという。


 神奈川県津久井郡内郷村(現・相模原市緑区)では川天狗は姿を現すことはなく、夜に人が川で漁をしていると、大きな火の玉が突然転がって来ることがあり、これが川天狗の仕業とされていた。このようなときは、河原の石の上を洗い清め、獲れた魚を供えるとこの怪異は失せたという。また人が川に網を放つと、川天狗も姿を見せずに網を放つ音を立てたという。誰もいないのに大勢の人声が聞こえたり松明の火が盛んに見えるものも、川天狗と呼ばれた。


 埼玉県秩父市や山梨県の道志川でも神奈川と同様の怪異がある。民俗学者・伊藤堅吉による山梨県道志村の村史『道志七里』によれば、道志村では川天狗が川に住んで魚を好み、怪火を発するとある。ある川で人が死ぬと、その川のそばにある3本のトチの古木から青い火の玉を発したという。また、道志川のクソマタ淵という場所で子供が釣りをしていると、川天狗が黒い坊主姿で現れ「子供! 子供!」と呼んだという。夜に人が釣りをしていると、川天狗が網をうつ音を立てることもあり、その怪異に遭うと絶対に魚が釣れなくなったという。静岡県でも川天狗は川での漁を好むといわれる。


 関東地方から中部地方にかけては天狗火と呼ばれる怪火が伝わっているが、神奈川県や山梨県の山間部では、この天狗火は川天狗によるものといわれている。 


「ブレイブ!斬っちまえ!」

 蒲生に囃し立てられ勇は川天狗の首を撥ねた。 

「でりゃー!!」


 5月9日 - 伊豆半島沖地震が発生。30人が死亡、102人が負傷。

 歌舞伎町の名物男で知られた北島七郎きたじましちろうの運転手だった倉田盛助くらたもりすけは、七郎が病没後に家族の力を借りて独立、麻薬ビジネスに手をつける。倉田は、海外で傭兵をしている叔父を利用して現地でヘロインを直接買い付けるルートを確立、帰還兵を乗せた軍用機を利用して品川に運び込む方法で、安価で質の高い麻薬『プルート』を売りさばき、『デウカリオーン』を率いる海原と並び麻薬業界の大物として、一大勢力を築き上げる。


 一方、世田谷近辺では警察組織の汚職が蔓延しており、まともな警官は働きにくい状態となっていた。私生活は乱れきっているものの、悪に屈しない正義感を持つ緑ヶ丘署の勇は、ある組織の胴元の車から押収した1000万を盗まずに全て署に届けた結果、同僚からつまはじきにされる。しかし勇のその正直さが評価され、特別麻薬取締局にスカウトされる。

「いつか、また本庁に返り咲きたいな」

 勇は優秀なメンバーを選出し、明智軍団を設立。風俗街にはびこっている『プルート』の供給の元締めを検挙することを目標とした。一方で、汚職警察官である勇の部下、二見英明ふたみひであきは、麻薬で台頭してきた倉田に目をつけ、早速賄賂を要求し金のなる木として倉田を保護しようとしていた。

   

 5月11日

 夜中に黒電話がけたたましくなった。相手は蒲生だった。倉橋警部が何者かに刺されて意識不明の重体らしい。倉橋は警視監から警視総監に出世した鈴木花吉の側近になっていた。

 勇は酒が入っていたこともありタクシーに乗って警察病院に向かった。

 蒲生と松永が待合室にいた。

「GS、アンカー……ボスは?」

 松永は特殊部隊(後のSAT)に所属していた。

 1972年9月5日に西ドイツでミュンヘンオリンピック事件が発生し、犯行グループによりイスラエル選手11名が殺害された。翌日の9月6日、警察庁は全国の都道府県警察に対して通達を出し、「銃器等使用の重大突発事案」が発生した際、これを制圧できるよう特殊部隊の編成を行う事とした。

 これに基づき、全国の機動隊に特殊部隊が設置された。これらの部隊は銃器使用事件をはじめ、ハイジャック事件など高度な逮捕制圧技術を要する事案に備えるため、耐弾・耐爆性能を有する装備資器材を有していた。警視庁機動隊では第一〜九機動隊および特科車両隊に特殊部隊を設置していたが、ふだんはレスキュー隊員や一般の警備に出動しているメンバーで、訓練といっても年に数回行なっているにすぎなかった。

『手術中』のランプが消えて、執刀医が険しい顔で出て来た。 

「先生……倉橋さんは?」と、松永。  

「手は尽くしましたが」 

 勇は声を震わせて泣いた。倉橋さんは初めて刑事としての自分を認めてくれた。

 病院から出ると、蒲生が驚くべき事実を話した。

「あれからいろいろ調べたんだが、川天狗は善玉妖怪で殺してはいけない妖怪だった」

 もしや、倉橋さんが殺されたのは川天狗の呪いなのだろうか。

「呪いは1ヶ月経たないと消えないらしい」

「まだ悲劇が続くってのか?」


 勇の捜査により、『プルート』の元締めとして倉田が捜査線上に浮上する。だが倉田は北島七郎のやり方を踏襲し、あらゆる方面を買収して証拠無しでは検挙ができない状態となっていた。さらに勢力を広げる倉田であったが、成功によって多くの恨みを買い、次第に追い詰められていく。さらに追い討ちをかけるようにフィリピン沖を飛んでいたヘリが墜落、倉田の叔父が死亡。ヘロインの密輸送手段も絶たれてしまう。二見は倉田が終わったと察するとすぐに手を切り、品川にある倉田の屋敷を家宅捜索して財産を奪っていった。これにより二見は倉田により深い恨みを抱かれるようになる。


 その後、勇の執念の捜査により、芝浦にある『プルート』の製造アジトを突き止め急襲。勇達は麻薬及び証拠を手に入れ、ついに倉田を逮捕した。逮捕後勇は倉田に対して、倉田に協力していた汚職警官を密告する取引を持ちかける。二見に深い恨みを持っていた倉田は密告に協力し、汚職警察官の一掃に成功する。

 

 5月15日 - セブン-イレブンが東京都江東区豊洲に第1号店を出店。

 阿佐ヶ谷にはケヤキ屋敷がある。樹齢400年、樹高40mものケヤキが40本もあったらしい。名主相沢家屋敷と屋敷林の跡を松永は眺めていた。

 戦災で焼失してわずかしかケヤキは残されていなかったが、素晴らしいと思った。

 闇夜に獣の咆哮が響いた。

 送り犬が松永に迫りつつあった。

 松永は新幹線並みの速度で送り犬から逃げたが、坂を下り切ったとき運悪くトラックが現れた。🚚

「うわぁーーー!!」

 

 5月28日 - カーペンターズが3度目の来日。3万人募集の武道館公演に38万通以上の応募ハガキが来る。

 勇は松永の墓の前にいた。

「GS、ホンコン……大人しくしてろよ?俺はこれ以上、仲間を失いたくない」

 大木はフサフサだった髪がツルツルと河童みたくなってしまっていた。時間ってのは残酷だ。

「アンカーは『プルート』を服用していたらしいな」

 蒲生がガーベラの花束を墓前に手向けた。

 松永が好きだった花だ。


 海原に雇われた、フランケンシュタインの仮面を被った刺客たちが緑ヶ丘の銀行を襲う。それぞれの役目を終えた刺客たちは仲間から射殺され、最後に1人だけが残った。仮面を外した男は渡辺晴彦で、銀行に預けられていたマフィアの資金を奪って逃走する。

 渚も潮も死んだ。


 緑ヶ丘署署長の萬屋杜夫よろずやもりおは、勇と共に組織犯罪撲滅に尽力していたが、これに蒲生が協力を申し出る。勇は蒲生との対話で彼の高潔さに改めて感銘を受け、彼をボスにするべく支援を申し出る。勇は堂々と悪と戦う蒲生こそが世間の求める真のヒーローであると考え、怪物退治の引退を考えていた。また、勇は和泉と結婚をして幸せな日々を送っていた。  

「警察も辞めようと考えてる」

「それで本当にいいのか?アンカーやボスの敵をと取らなくてもいいのか?」

 蒲生は緑ヶ丘署の屋上で、勇と向かい合っていた。

 和泉の気持ちは勇と蒲生の間で揺れていた。


 晴彦の犯行からマフィアの隠し資金が警察に露見し、各マフィアのボスが集まって対策を練る中、問題の張本人である晴彦が現れる。晴彦はマフィア弱体化の原因である勇の殺害を提案し、報酬として全資金の半分を要求して去る。

 海原は晴彦に腹を立てて懸賞金を掛けたが、死体の振りをして運び込まれた晴彦に切り殺されてしまい、晴彦は『デウカリオーン』を乗っ取る。

 勇は秘密裏に大阪に潜入すると、組の金庫番である実業家の鈴木房五郎すずきふさごろうを拘束して萬屋に引き渡す。司法取引に応じた房五郎の供述から緑ヶ丘署は多くの構成員を逮捕する。


 これが勇の力によるものだと悟ったヤクザたちは晴彦の提案を受け入れる。晴彦は東京に戻ると拘置所にいる二見の首の骨を素手で圧し折った。

 勇が晴彦に土下座して謝るときまで市民を殺し続けると宣言。更に鈴木花吉警視総監、政治家の江戸川修、蒲生の殺害を示唆し、仕掛けた罠で江戸川が爆殺、花吉が毒殺される。


 続いて晴彦は勇が開いた父、小五郎の傘寿の祝いに蒲生を狙って乱入するが、勇に阻止される。後日、晴彦は蒲生いう別の市民を新宿駅前で射殺し、更に大木長官の殺害を予告する。鈴木総監の葬儀式典で警官に扮した晴彦は大木を狙撃するが、大木を庇った萬屋が凶弾に倒れる。


 和泉も狙われ、追い詰められた勇は、蒲生に後を託して正体を明かそうとするが、翌日の記者会見で蒲生は自分が潜入捜査官だと発表する。さらにパンツを脱いで公然わいせつ罪逮捕されたムショにいれば狙われる心配がないという蒲生のアイデアだ。刑務所に護送される蒲生の車列を晴彦の乗ったジープが襲撃するが、ハーレーダビッドソンで駆けつけた勇との戦闘で襲撃は失敗し、生きていた萬屋により晴彦は逮捕され、萬屋は本庁への栄転が決まる。


 しかしその晩、蒲生が行方不明となる。勇は晴彦を尋問するが、彼から蒲生と妹のまりかが誘拐され、別々の場所で窮地に陥っていると聞かされる。蒲生救出を萬屋に任せ、勇はまりかの監禁場所に横須賀沖の猿島に急行するが、晴彦が教えた監禁場所は逆で、そこに捕らわれていたのは蒲生だった。勇は蒲生を連れて辛くも建物から脱出するが、直後に建物が爆発し、蒲生は顔の左半分に大火傷を負う。一方、まりか救出に浅草花やしき近くの廃墟に向かった萬屋は間に合わず、彼女は八つ裂きにされ、助からなかった。晴彦の部下で緑ヶ丘署警備課の梶原敏郎かじわらとしろうは一爆弾を爆発させ、緑ヶ丘署は壊滅。晴彦は留置場の房五郎を連れて逃亡する。まりかを失い絶望した蒲生は悪魔に心を売り渡す。


 晴彦はマフィアから礼金を受け取っていたが、もともと金に興味の無かった晴彦はその札束を貧しい人たちに寄付して、多摩にある古民家風アジトで房五郎の後頭部を銃で撃ち抜いて始末する。   

 同時刻に、ルポライターの船橋正輝ふなばしまさきは勇を尾行していた。

 船橋は、これを公表するためテレビに出演する予定だったが晴彦は船橋を勇の仲間だと思い込み、大木長官に緑ヶ丘病院を爆破されたくなければ60分以内に船橋を殺すように促す。病院には大木の娘、梨央りおが盲腸で入院していた。


 萬屋は緑ヶ丘病院の医者や患者に避難を命じ、テレビ局にやって来た船橋を保護する。船橋はなおも命を狙われるが、勇と駆けつけた萬屋の手で助けられる。  

 晴彦はまりがそっくりに整形して、蒲生の前に現れ復讐を焚き付ける。晴彦は緑ヶ丘病院を爆破し、緑ヶ丘郊外に向かうバスで逃亡する。


 バスから降りた蒲生はスナイパーライフルで、耳がよく聞こえないまりかをバカにした同僚OLを射殺。また幸せそうなアベック(現在はあまり使われないが、カップルのこと)に憎悪を抱き、車を運転してるカレを撃ち、車は道路脇に突っ込んだ。

 晴彦はテレビを通じて東京の支配を宣言し、従わない都民へ退去を命じるが、勝鬨橋とトンネルへの「サプライズ」をほのめかし、残りの道は渋滞で脱出はままならない。萬屋は1隻のフェリーを確保して囚人の移送を図るが、出港後、都民を満載したもう1隻と共に航行不能になる。晴彦は両方の船に爆弾を仕掛けた上で、互いの船の起爆装置を残しており、午前0時までに片方が爆破されればもう一方は助けると宣言する。


 晴彦の通話を傍受した勇は潜伏先の工場🏭を特定し、萬屋に伝えて急行する。「佃島にある石川島重工業です」現在は佃という住所になっているが、当時は佃島と呼ばれ、現在はマンションエリアになっている。工場の中では病院から行方不明になっていた医師らが人質となっていた。先駆けて突入した勇は、銃を持ったフランケンシュタインの仮面野郎の正体が縛られている医師で、ギャングが医師に化けている事に気付く。しかし特殊部隊の突入が始まり、勇は人質を守るために特殊部隊への応戦を余儀なくされる。やがて特殊部隊も晴彦の罠に気づき、遂に勇は晴彦を追い詰める。

「おまえのせいで多くの人間が死んだ。まりか、松永、そして倉橋さん」

「松永ってオッサンはクスリのやり過ぎで死んだんだ。自業自得だろうよ?」 

「貴様……」

「それに俺は倉橋って奴を殺ってない」

「貴様、往生際が悪いぞ」

 格闘の末、勇が晴彦を組み伏せている状態で0時を迎えるが、フェリーの市民と囚人たちは互いを殺す事を拒否し、爆発は起こらない。晴彦は失望しつつも自らフェリーの爆破を試みるが、間一髪で勇が起爆装置を弾き飛ばす。

 ビルから落下した晴彦は呆気なく死んだ。


 その頃、蒲生に呼び出された萬屋はまりかが死んだ建物にいた。蒲生は、忠告を受けていながらも部下の内通を放置していた萬屋を許さず、自分と同じ目に会わせるべく萬屋の息子、康文に銃を向ける。萬屋は妻と離婚しており、康文の今の姓は巴屋だ。現れた勇に対しても、愛する者を失った不公平さを嘆く。

「GS、出会った頃に戻りたいな?」

「もう、遅いんだ」

 蒲生はこめかみを銃で撃ち抜いて息絶えた。


 萬屋は、市民の希望であった蒲生が復讐鬼と化した事が知られれば、晴彦の狙い通り市民は絶望すると嘆くが、勇はその罪を被る事を決める。かくして勇は殺人犯として警察から追われる身となった。

 

 5月29日 - 大阪市営地下鉄谷町線の都島駅 - 東梅田駅間が開業。

畠山吉彦はたけやまよしひこは大阪に逃げていた。畠山は倉橋の部下だったが、倉橋は足が遅い畠山を「亀!おまえみたいのがいるから犯人に逃げられるんだ」と蹴飛ばしてきた。「昇給させないぞ」「給料分は働け」「休憩ばかりでなく仕事しろ」といった威嚇的な言動も度々あった。コイツを殺さない限りは俺に自由はない、そういう思いから倉橋を刺した。フードとマスクに身を隠していた。

 夜が深くなって来た。人の数が少なくなる。

 露天神社つゆのてんじんじゃってところにやって来た。誰もいない。フードとマスクを外した。不愉快で仕方がない。

 拝殿前の石柱には、大東亜戦争(太平洋戦争)で大阪駅方向から飛来したP-51による機銃掃射の跡が残されている。

 獣の咆哮が聞こえたので畠山は身を竦めた。

 大柄な野良犬がコチラを見ている。

「こっ、こっちに来るな」

 逃げようとしたが足がもつれて畠山は転んだ。

「あっ!」

 野良犬の正体は送り犬だった。

 送り犬はよほど腹が減っていたのか、畠山をミンチになるまで食べた。

 その様子を勇は見ていた。

 大阪に罪を帳消しにする魔法の石があるって噂を聞いてやって来た。

「カナシイナ、カナシイナ」

 そう呪文を唱えると送り犬の動きがピタリと止まった。

 勇はエクスカリバーでズバッ!と、送り犬を斬り殺した。

 

 

 

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