第40話これ、おかしですっっ!
麻衣とは仲のよい兄妹として幸せな日々を過ごしていた。
料理教室にも何度も通っていて腕も上がってきたように感じる。
ネットで調べたレシピの意味、適量の感覚はわかるようになってきたし、包丁さばきは上達しているので効果を実感していた。
麻衣が高校生になってから二ヶ月も経過して、新しい生活にも慣れてきている。
紬や愛羅との仲も深まっているようで、ついにお泊まり会をする日がやってきた。紬だけではなく新しい友達の愛羅も参加する予定である。
◇ ◇ ◇
三連休の初日となる午前に、愛羅が我が家に訪れた。麻衣がドアを開けると元気な声と共に部屋に入ってくる。
「おじゃましまーーすっっ!」
相変わらず派手な金髪とカラーコンタクトをしていて、色白な肌と彫りの深さから外国人の様にも見えた。生地の薄そうな長袖のワイシャツと太ももが、がっつり見えるデニム生地のスカートを着ていて、首にはシルバーのネックレス、両耳にはピアスが複数あった。
シャツやスカートといったジャンルは制服と同じなんだけど、ここまで印象が変わるか、と思うほどギャルっぽさが増している。愛羅のことを知ってなければ「友達になって大丈夫?」と疑問に思っていたかもしれない。見た目による偏見って怖いな。
愛羅は左の肩にかけているバッグの中に手を突っ込むと、小さな箱を取り出した。
「これ、おかしですっっ!」
羊羹で有名なメーカーの名前があった。
お泊まりするお礼として持ってきてくれたようだ。高校一年生とは思えないほど、しっかりした娘だなと感心してしまう。
「ありがとう。みんなで食べようか」
「はいっ」
短い会話を終えると、愛羅は麻衣と一緒にリビングのソファーに座った。今日は外に出ないで、お昼からすごろく系のゲームをするらしい。
楽しそうにおしゃべりしながら、テレビの電源を入れる姿が見えた。台所に移動してガラスのコップを二つ取り出す。よく冷えたジュースを入れた。
トレーに置くと、麻衣たちの所に戻る。
「これ、どうぞ」
「お義兄さん、ありがとうございます」
「ありがとうっ!」
二人にジュースを渡すと、お礼を言われてしまった。
テレビを見るとゲームのスタート画面が表示されていて、これからプレイを始めるタイミングのようだ。
「お義兄さんも一緒に遊びませんか?」
今日は休日だし、俺としては一緒に遊ぶのは問題ないんだけど、男が混じるってどうなんだ? 同性の友達と遠慮なく遊びたいんんじゃないのかな。そういった疑問を持ちつつ愛羅を見る。
「さんせーい! 多いほうがたのしいもんねっっ!」
すごろく系のゲームは、三~四人ぐらいで遊ぶと楽しめる。二人だと盛り上がりに欠けるので、愛羅の発言は説得力があった。無理矢理、一緒にゲームをするのではなく、お願いされて参加するのであれば問題はないか。
「じゃあ、俺も一緒に遊ばせてもらうね」
ソファーの端が空いていたので座ろうとして歩く。麻衣が今まで見たことがないほど、すばやく動いて埋めてしまった。逆に愛羅と麻衣の間が空く形となった。
ここに座って。
俺を見る麻衣の目が訴えかけている。
愛羅は嫌がっていなさそうだ。
少し気後れするが、ご要望に応えるとしよう。
コントローラーを手にしてから二人の間に座って、背もたれに体重を預ける。麻衣がすーっと横に移動して、ぴったりとくっついてきた。それを見た愛羅は、いたずらっ子がするような笑みを浮かべながら、同じように引っ付いてくる。
「二人とも?」
「いいじゃーんっ! みんな仲良し!」
「ですです。仲良く遊びましょう」
俺の意見なんて聞いていないといわんばかりに、二人はゲームを開始してしまった。もうキャラクターの名前を入力する画面まで進んでいる。
それぞれ下の何前を入力しているので、俺れもユウキと入力することにした。
日本列島のマップが表示され、全国を網羅する線路がある。その上に俺たちのアバターとなる列車が画面に表示されていた。最初の目的地は北海道だ。ちょっと遠くないか……!?
ゲームが始まりサイコロが振られる。麻衣は三、愛羅は五、俺は一といった具合に数字はバラバラだ。最初はみんな様子見ということもあって、相手を妨害する能力――カードは使わない。特定のマスに止まってお金を稼いだり特産品を買い占めたりと、地味だが順調に進んでいく。
幸運な出来事が続き麻衣の持ち金がドンドン貯まっていき、カードが購入できるマスに止まった。
テレビには特殊効果が発動するカードの一覧が表示されている。俺と麻衣は、このゲームの初心者なので、名前だけではどんな能力があるのかわからない。詳細を見ながら一つ、一つ確認していく。
「地方へ吹き飛ばす効果にサイコロを三つに増やす効果、さらに、うん……ち?」
なんだ。小学生が考えたようなカードは!! 年頃の女性に言わせるなんてセクハラだぞ!
「あーーそれねっ! 進路妨害できるカードだよ。誰もうんちに近づきたくないみたいっっ」
何が面白いのか愛羅がお腹を触りながら笑い出し、麻衣もつられて笑顔になる。
「そうだね。道にうんちが落ちてたら避けるよね」
「リアルで考えたらヤバイよねっっ!! うんち!」
「ヤバイね。面白いから、うんち買っちゃうね」
なぜか我が家に、うんちという言葉が何度も繰り返されている。しかも麻衣は面白半分で買った上にすぐに使った。
「麻衣がうんちだしたーーーっ!!」
おいおい、愛羅さんや。誤解されるような発言は慎んでくれ!
心の中で突っ込まざるを得なかった。
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