第38話効果がでるのは、この後だよ!

「えーと……」


 どうすればいいのかわからず、言葉に詰まる。動画を撮られるのは嫌ではないけど、どうしてこんな時にやってるんだろう?


「わたしたちのことは、お構いなくっっ!」

「そーだねー! どうぞ、どうぞ!」


 愛羅と紬がそんなことを言っているが、それどころじゃないだろ!!


 俺たちは店内で注目されまくっているし、高校生が夜遅くまで遊んでいるのも問題だ。保護者としてちゃんとしなければいけない。


「バカなこと言ってないでスマホをしまって。外でタクシーが待っているから、一緒に帰ろう」


 最初は麻衣だけを連れて帰ろうと思っていたけど、よく考えれば紬や愛羅も女子高生で、暗い道を帰らせるのは気が引ける。


 自転車があるなら別だけど、麻衣から聞いた話ではバスと電車を使って通学しているということだから、俺の提案は問題ないだろう。


「いいんですか!?」


 スマホをしまった紬はスクールバッグを持つと、うれしそうに俺の所に来た。ラッキーだと思ってそうだけど、それでいい。麻衣の友達なんだから遠慮なんてしなくていいんだよ。


「麻衣のお義兄さん、本当にいいんですか? うち、ちょっと遠くて……」


 控えめに言ったのは愛羅だ。タクシー料金がかかると言いたいのか。ほんと、見た目とは違ってしっかりしている。


「ここから遠いんだ」

「はい」

「だったら、なおさら送っていかないと。お金のことはきにしないいいから。行こう」


 笑顔を作って言ってみたけど、愛羅は戸惑っているようだ。このままだと何も進まない。テーブルに置かれた伝票を持つとレジに向かう。


 後ろから「えっ、えええっっ!?」といった声が聞こえるが、無視して精算をする。三人分で四千円ちょっとか。物欲とかないのでお金は貯まる一方だったし、たまにはこうやって人のために使うのもいいな。


「家族がお騒がせして申し訳ございませんでした」


 別に俺たちが悪いわけではないのだが、一応、店員に謝罪をしてから店を出る。麻衣と紬は愛羅の手を引きながら後ろを付いてきていた。


 見たことはないけど、いつもは麻衣が元気な二人について行っている感じだと思うので、今は立場が逆転していることだろう。たまには、こういう日があってもいいんじゃないかな。


 外に出てタクシーの前に立つと、後部座席のドアが自動で開いた。


「三名来るので助手席に乗ります」


 運転手は小さくうなずくと、助手席に置きっぱなしになっていた書類をゴソゴソと片付けだした。


 その間に麻衣たちを後ろに乗せて、最後に俺が助手席に座る。


「愛羅ちゃんの所から行こう」

「……ありがとうございますっ」


 頭を下げてから愛羅は住所を教えてくれた。意外といったら申し訳ないけど、高級住宅街の一角で確かに少し遠いが、車ならすぐにつく。


 運転手に行き先を告げてタクシーが走り出した。


 助手席に座っている俺は無言で外を見ている。後ろに座っている三人はスマホで撮影した動画を見ながら、話が盛り上がっているようだ。女三人寄れば姦しいというが、昔も今もこんな風景は何度も繰り返されてきたんだろうな。


「やっぱ、これはきいてるってっ!」

「えー。でも何も変わってないよ?」

「効果がでるのは、この後だよ!」


 なにを試したのかわからないけど、成果が出るといいね。そんなことを思っていた。


 しばらくして大きい家の前につくとタクシーが止まる。


「あっ、ついた!」


 ドアが開くと愛羅が降りたので、俺は助手席のガラス窓を下げた。


「今日はありがとう。助かったよ」

「いえいえ! こちらこそ、タクシーありがとうございましたっっっ!」


 頭を下げてから、愛羅は笑顔で去って行った。麻衣たちを守ってくれた愛羅には感謝しかない。ちゃんと家に送れてよかった。


 次は紬の番だ。住所を聞いてみる。


「次は紬ちゃんの家に行こうと思うんだけど、場所を教えてくれないかな?」

「家は車が入りにくいところにあるので、近くの道路で止めてください」


 気を買われたんじゃないかと思って麻衣を見る。


「本当ですから。お義兄さんお願いします」


 麻衣が言うなら本当なのだろう。

 それならいいかと思って、運転手に行き先を告げて再び出発した。


 愛羅が元気すぎたこともあって、後部座席は先ほどより静かだ。二人で何か話しているみたいだけど、俺のところまで声は聞こえない。


 再び外を見ながら、ファミレスでの出来事を思い出す。


 男の俺では気づけなかったが、女性はいろいろと大変なようだ。特に三人とも美人なので、今日みたいに男に絡まれるときも珍しくはないだろう。


 電車だって満員だったら痴漢にあうかもしれないし、同性から嫉妬されることもあり得る。


 贅沢だと言われて周りに理解されにくい、美人だからこその苦労。これから三人の人生に付きまとってくると思うと、少しだけ気が重くなっている。


 義妹ができたと浮かれていた俺はバカだったな。こんな悩みまででてくるなんて思いもしなかった。


 働きながらも子供のことを考えなければいけないなんて、保護者って大変なんだな。うちの両親はともかく、世のお父様、お母様たちの苦労を実感した日であった。


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