第37話てめぇ……!
仕事が終わると台所で晩ご飯を探す。麻衣は遅くまで友達とファミレスにいるので、一人で食べるのだ。冷蔵庫を開けてみるが何もない。料理をする気力が湧かないので、非常用に買っておいたカップラーメンを食べることにする。
ポットからカップラーメンにお湯を入れて待つ。
暇だったのでスマホの画面を見たら、時刻は夜八時だった。
麻衣は、まだ帰ってこない。夜ご飯も食べてくると言っていたから、心配する必要はないと思うけど……どうしても気になってしまう。
外は真っ暗だし、迎えに行こうかな。
三分経過したのでカップラーメンを食べながら、スマホを手にもつと麻衣にチャットを送る。
『今どこに居るの?』
麺を咀嚼しながら画面をじーっと見つめる。
返信は来ない。
普段なら即レスが基本なのに。
よくないことが起こっているんじゃないか。変な男に絡まれているんじゃないか。嫌な想像が脳内を巡る。父親と二人で暮らしていたときは、そんな心配なんてしたことなかった。
義妹ができると、こうも考え方が変わるんだな。内心で驚く。
義兄として自覚が芽生えてきたと前向きに思うことにしよう。
待っているときは、時間の経過が長く感じる。メッセージを送ってから数分しか経ってないのに、まだこない、まだこないと、あせる気持ちが強まっていた。そんなときだ。画面に入力中のメッセージが表示されて、ようやく麻衣から返信がきたのだ。
『どうしました? 駅前のファミレスです』
それならすぐに迎えに行ける距離だ。
『もう少しで帰りますね』
『夜遅いから迎えに行くよ。それまで待てる?』
『え、今から来るんですか!?』
『うん』
ここまで入力して気づく。友達と楽しんでいるときに義兄がくるだなんて、恥ずかしい。そう思ってしまうんじゃないかと。
やってしまった。嫌われたくないので慎重に行動していたんだけど……。
うざいと思われて嫌われたらショックで立ち直れない!
『迷惑かな?』
『そんなことないです! 紬や愛羅も来て欲しいと言っているので、待っていますね!』
よかった。どうやら迷惑ではなく、逆に歓迎してくれたようだ。待っているのであれば、さっさと家を出よう。
残っていたカップラーメンを急い食べると、スマホのアプリからタクシーの配車手続きを済ませる。洗面台で身だしなみをチェックして、財布を持って家を出た。
マンションのエントランスにタクシーが止まっていたので、乗り込んで行き先を告げると、十分後には麻衣がいるファミレス前に到着する。
運転手に「家族を迎えに行きます。すぐ戻ってくるので待っててください」とお願いしてからファミレスに入った。
「窓際席と言ってたけど……」
店内を歩いて麻衣の姿を探していたら、知っている声が聞こえたので視線を向ける。
「うざいんですけどっっっ!」
金髪でギャルっぽい見た目をした愛羅の後ろ姿が見えた。ぱっと見で、レイチェルを思い出してしまい懐かしい気分になるが、どうやらそれどころじゃないらしい。
高校の制服を着た厳つい男二人に、麻衣たちが絡まれていたのだ。愛羅が席を立つと、腕を組みながら睨みつけている。
「彼氏探してるんだろー? 親切な俺がなってやるって言ってるんじゃん」
店内でナンパか? 世の中にはアホな男もいるもんだな。常識がぶっとんでいる。
「うざっっっ。アンタみたいな男は興味ないからっ!」
弱気な姿勢を見せない愛羅はすごいな。
相手は体格がよいので、普通なら怖じ気づいてしまうと思うのに。と、感心していたら事態が急変した。
「ふざけるなよ!」
なんとナンパ男の方は怒りで我を忘れたらしく、店内だというのに殴りつけようと腕を振り上げる。さすがに愛羅もうろたえていた。これは止めに入らないと!
「俺の連れに何をするつもりなんですか?」
殴りつけようとしていた腕を掴むと、ナンパ男に話しかけた。ぐるりと首が回り、眉を釣り上げながら俺を見る。
大人になってからケンカなんてしたことないので、心臓はバクバクしていて、背中や脇には大量の汗が出っていた。逃げ出したい気持ちにかられるが、弱気な姿は見せられない。
俺は麻衣たちを助けなければいけない。
ここで頼れる義兄の姿を見せるんだ!
「てめぇ……!」
捕まれた腕を振りほどこうとするけど、何とか耐える。
ナンパ男は、もう一方の腕を使って俺に殴りかかろうとした。
「やめておけって」
後ろで静観していたナンパ男の仲間が、肩に手を置いて制止させた。
ここまでされて、ようやく冷静になったようで、俺を殴ろうとした男は周りをキョロキョロと見渡す。
店内の客はナンパ男を非難するような目で見ていて、中にはスマホで撮影している人もいる。制服も着ているし、この映像をインターネットに公開されたら、この二人は停学もしくは退学という処分を受ける可能性が高い。暴力事件にまで発展したら警察を呼ばれるだろう。
「ちッ」
掴んでいた腕から力が抜けるのを感じた。
手を離すと最後に俺を睨みつけてから、二人は店から出て行く。
あいつら反省してないな……。
「お義兄さん~~~!」
余所見をしていたら急に抱き着かれてバランスを崩しそうになる。
慌てて下半身に力を入れて耐えながら抱きしめる。
「大丈夫ですか?」
俺に抱きしめられながら上目づかいで見ているのは、麻衣だ。涙目になっている。殴られそうになったのを心配してくれたのだろう。
「俺は大丈夫だよ。麻衣たちは?」
「愛羅のおかげで元気です!」
「そっか。よかった」
お礼を言おうと愛羅を見ると、紬と一緒にスマホで俺たちを撮影していた。あの動きからして動画を撮っているのだろう。
………二人は何してるんだ!?
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