第36話麻衣がいいたいこともわかるっ!
お義兄さんと恋人になる。
意識しなかったといえば嘘になりますが、実現しないと思っていました。だって、兄妹ですから。
でも紬や愛羅は血がつながっていないので、問題ないと言っています。しかも大きくなってから家族になったので、恋心を抱いても普通だと、そんな話題で盛り上がっていました。
本当は私も二人みたいに楽しめればいいのですが、黒瀬さん、そしてレイチェルさんの存在が気になって明るくは話せそうにないです。
「お義兄さんにとって私は義妹でしかないからなぁ。美人な元カノや仲のいい女性の同僚もいるみたいだし、絶対に意識されないと思う……」
毎日接しているので、お義兄さんが私を異性として見ていないのはわかります。家族として仲良くなろうとは思ってくれていますが、一人の女性としては意識していないんですね。
今の関係が心地よかったので、変えようとは思っていませんでした。
でも、恋人になっても問題ないと、紬や愛羅に気づかされた今、物足りない、もっと欲しいという願望がどんどん膨れ上がっていきます。
「あーーーっ。麻衣のお義兄さんって、おとなだもんね」
愛羅が同意するように、腕を組んでうなずいていました。
過去に似たようなことを経験したのかもしれません。
「でも、そこがいいよね!」
「わかる~~~。おないどしは子供っぽいんだよね~~」
紬と愛羅がお互いに指さしながら笑っています。
大人の余裕、気づかい、知識、そのすべてが同じクラスの男子より上。二人の意見には同意できますね。私もうんうんと、うなずきます。
「だから、お義兄さんから見ると、私も同じように子供って見えちゃうんだよ」
兄妹としては成立するけど、対等の関係を築くのは難しい。これはどうしようもない事実で、頑張って早く成長するしか解決方法はないと思っています。
「どうすれば、いいのかな?」
二人なら新しいアイデアをくれる可能性がある。
そんな期待を込めて質問をしました。
「大人がぐっと来るような仕草をすればいいんじゃない?」
最初に答えてくれたのは紬でした。仕草、ですか。どんなのだろう。
「上目遣いとか?」
「あー、ありかも。麻衣、やってみなよ!」
ちょっと恥ずかしいんですが、こんなことでお義兄さんを意識させられるなら安いものです。手を合わせてから紬の顔を見上げます。
「私のお願い、きいてくれますか?」
「聞くよーーー!」
即答した紬は、なぜか興奮しながら私の手を取ってくれました。
「これは破壊力あるね! 男なら全員落ちるんじゃない!?」
興奮しているようで声が大きい。隣に居る愛羅は少し驚いてから、ニヤニヤと笑っています。
「愛しいお義兄さんにもやってみたら~~?」
好きな人にされたら、それは効果的でしょう。お義兄さんに言われたら私は腰から力が抜けて立ち上がれない自身があります。さらに耳元で囁かれたら鼻血をだすか、気絶するかもしれません。それほどの破壊力がありますね。
でも、相手が義妹としか思っていない、相手だったらどうでしょう。
多分ですが、よくて可愛らしいねで、終わってしまいます。悪ければ、変な物を食べたんじゃないかって心配されてしまうでしょう。
「そうしたら、紬みたいになるかな? 効果ないように思えるけど……」
「う~~~~ん。麻衣がいいたいこともわかるっ!」
腕を組んで眉間にシワを寄せた愛羅が言いました。紬には私の考えが伝わらなかったようで、話には加わりません。
「でもさーー。やってみないと、わからないじゃんっ! チャレンジ精神だいじだよっ!!」
「いやいや、失敗したら怖いよ」
「失敗しても失うものなんてないでしょっ!!! ちょっと恥ずかしいだけじゃない!?」
いやいや、失うものだってある……あれ? もしかして、ない?
だって悪くても変な物を食べたか心配されるだけで、嫌われるわけでも二度と会えない状態にもならないよね。むしろ、私を異性として意識してくれるきっかけになる可能性がある分、やり得かもしれない。
あれ、なんだかやる気が出てきたっ!
「愛羅の意見は正しいかも。確かに、失うものってないね」
「でしょっ、でしょっ!!」
花が咲くように笑った愛羅から勇気をもらえた気がしました。一日抱えていたモヤモヤとした気持ちが吹き飛び、空いた隙間はお義兄さんを攻略しようという気持ちで埋まっていきます。
握られたままの紬の手を逆に握り返して、二人を見る。
「私、頑張ってみる」
「おおお~~~~~っっ!!」
「応援する!」
愛羅は驚きの声を、紬は私の味方になると宣言してくれました。友達になれたよかった。そう思えたのと同時に、何かあれば二人に協力してあげたいと思う。
「よーーし。わたしたちも頑張って、いい男を見つけよっ!」
「そうだね! こうなったら、探すっきゃないね!」
目の前で二人がガシッと握手をして誓い合っていました。
その光景を見て、なんだか不安が膨れ上がってきます。大丈夫なのかな……?
と、心配しても男性とほとんど関わったことのない私では、具体的なアドバイスなど出来るはずもなく、「気をつけてね」と言うだけで終わってしまいました。
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