第35話めっちゃ恋愛してるじゃんっ!!

「私は男の人と付き合うのって、少し怖いな」


 彼氏の話で思い浮かべた男性は、お義兄さんでした。優しく頼りがいがあって、私の特性をちゃんと理解してくれている。何より聞いていて幸せになれる声をしているのは、お義兄さんしかいません。


 だからでしょうか。他の男性のことを考えると、お義兄さんより魅力的な人なんて居ないんじゃないかって思っていますし、粗暴な人ってイメージがあり、恐怖すら感じます。


 他の人なんて地球上から消滅してもいいので、お義兄さんとずっと一緒に過ごしたい。誰にも渡したくない。特に黒瀬さんを家に泊めてから、そんな独占欲がムクムクと育っているのを実感しています。義妹なのに変ですよね。


「あー。ちょっとわかる。男って乱暴なところあるし、臭いし、嫌な部分もあるよね」


 私の意見に同意してくれたのは紬でした。彼女の父親は厳しい方で、時代遅れな亭主関白な性格をしています。母親に暴力を振るうこともあると愚痴を言っていたこともあったので、そういった場面を思い出したのかもしれません。


 そんな家庭で生活していたら、紬のような考えを持っていても不思議ではありませんね。


「うーん。確かにそーいうところもあるけどっ! 私は彼ピほしいなっ! 刺激的な毎日がほしいっ!」


 目をキラキラと輝かせている愛羅の気持ちも、私はわかる。一緒にいると楽しくて、ドキドキして、たまに安心する。そんな異性と一緒にいたいという願いもあるから。それは紬も同じみたいで、首を縦に振ってうんうんと、同意していました。


「だったらさ、男を見極める目が必要だよね!」

「わかるーっ! ダメ男には捕まりたくないよねっ!」


 お義兄さん以外の男性なんて考えられない私と違って、二人はまだ見ぬ理想の男性を探したいようで、ダメ男の条件を話し合っています。


 興味がないのでパフェを食べることにしました。


「麻衣ーー! どーすれば、いいんだろうねー!?」

「ふへ?」


 流し聞きをしていると、急に話題を振られちゃいました。


 変な声を出しつつも、少しだけ真面目に考えてみます…………が、何も思い浮かびません。だって、男性のことなんて考えたことなんてなかったんですから。知識がないのは紬や愛羅と一緒です。むしろ二人に劣るかもしれない。


「誰とも付き合ったことないし、そんなのわからないよ」

「だよねぇ~~~」


 脱力した声で愛羅が言葉を吐き出すと、ソファーの背もたれに寄りかかりました。足を伸ばしてて少しだらしがないものの、他人に気を使いすぎず自然体でいられるのが愛羅のいいところ。不快な気持ちにはなりません。


「彼氏ができたら今みたいに遊べなくなるし、このままでもいいんじゃないかな?」


 高校になって新しい友達も出来たし、今みたいにおしゃべりするのが好きです。だから無理に環境を変える必要はないんだけどなぁ。そう思って提案してみたんですが、想像していたのとはちょっと違う反応が返ってきました。


「でたー! かっこいいお義兄さんがいる勝ち組の態度だーーっ!」

「そうだ! そうだ! 麻衣だけズルいー! お義兄さんを私によこせー!」


 なぜか二人とも私を責めてきます。確かにお義兄さんは理想の男性といっても過言ではないのですが、だからといって不満がゼロではないんですよ。余裕なんてないんだから。


「ズルいって、お義兄さんへの悩みだって多いんだよ?」

「気になる! どんな悩みがあるの!?」


 さっきまで笑いながらお義兄さんをくれと言っていた紬が、身を乗り出して聞いてきました。愛羅も興味があるようで、背もたれから離れると肘をテーブルに置いて、話を聞く体勢に変わっています。


 ついつい勢いで言ってしまいましたが、二人に話していいのか、どうなのか……悩んだけど、この気持ちを溜め込んだまま家には帰りたくないので、素直に話すと決めます。


「実は昨日から今日にかけてのことなんだけど……」


 泥酔した黒瀬さんを介抱したお義兄さんの話から、私が登校してからはずっと二人で家にいたこと。それに対して、モヤモヤとした気持ちがずっとあることを話すと――。


「うあーーーーっ! めっちゃ恋愛してるじゃんっ!!」


 と、愛羅がうれしそうに言い切りました。


 お義兄さんが魅力的なのは間違いないし、恋人になれたら嬉しいんだろうなといったイメージは湧きます。女性と二人っきりだと思うと、こう、胸がきゅーっと締め付けられる気持ちにもなりますが……恋愛、しているのでしょうか?


「でもお義兄さんだよ?」

「血がつながってなければOKじゃない?」


 愛羅が聞いたのは私ではなく紬でした。


「ありだねー! しかも最近、兄妹になったばかりでしょ。ほぼ他人だから! セーフ! 問題なし!!」


 他人から見たら知らない人と急に同居すことになった。そんな風に見えるみたい。言われるまで、考えたことすら有りませんでした。


 私の気持ちはともかく、紬や愛羅がそう思うのであれば間違いないのかも。そんな考えに傾いています。


 もしかしたら、私とお義兄さんが付き合う未来もあるのかな……? その事実に気づくと、急に胸がドキドキとしてきて止まらなくなってきました。

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