第33話返信……お願いします……

 スーパーから戻ってきてカツ丼を食べ終わると、仕事を再開する前にスマホを見る。ずっとチェックしてなかったから何か連絡が来ているかな? と、軽い気持ちだったから、件数に驚いてしまった。


「え……こんなに?」


 スマホのロック画面にはチャットのお知らせが数え切れないほど来ていた。友達は少ない方なので、こんなに通知が溜まったのははじめてだ。


 よくないこと、例えば海外に出張中の父さんやみきえさんがトラブルに巻き込まれたのか? はやる気持ちを抑えながらパスコードを入力してロックを解除。チャットアプリを立ち上げる。


「麻衣ちゃん……!?」


 なんとすべての通知は麻衣からだった。未読の件数は十五件。学校でのトラブルかと思ってトーク画面を開く。


『無事に学校に着きました。お義兄さんは何をしていますか?』

『お仕事中でしょうか? 寝ていた女性は帰りましたか?』

『何度もごめんなさい……お義兄さんが何をしているのか教えてもらえないですか』

『返信……お願いします……』


 などといったメッセージが来ていた。件数は以上だけど俺のことを心配? していることだけは伝わってくる。


『ごめん! 仕事に集中してて気づくの遅れちゃった。今お昼ご飯を食べ終わったところだよ』


メッセージを送るとすぐに入力中になって、返信が来た。


『お仕事忙しかったんですね! カツ丼は美味しかったですか?』

『うん。美味しかったよ。食べ過ぎてちょっと眠い』

『仮眠を取るといいらしいですよ!』

『なるほど。休憩時間も残っているし少し寝ようかな』

『いいと思います! 寝るで思い出したんですけど、ソファーで横になっていた女性の方は帰ったんですか?』


 聞いてくるのは二度目だ。どうしても気になるみたい。知らない人が家にいるという状態が嫌なのだろうか? 麻衣がそんなタイプだとは思えないのだが、実は俺の勘違いだったら問題だ。お昼近くまで家にいたと、素直に伝えるのはためらわれる。


『うん。麻衣ちゃんが家を出てから少しして帰ったよ』


 ちょっとだけ悩んだけど、実際よりも早く家を出たと伝えた。

 またすぐに麻衣から返信が来る。


『そうだったんですね!! よかったです!』


 文字からでも麻衣が喜んでいそうな雰囲気は伝わってくる。うーん。やっぱり知らない人が家にいるのは嫌なタイプなのかもしれない。俺もそっちのタイプだから感覚はわかる。ちゃんと紹介してくれれば別なんだけど、酔い潰れて会話すら出来なかった相手がずっと家にいたら、それは気持ちいいものじゃないだろう。


 と、ここまで考えて、時計を見ると麻衣は授業をしているはずの時間帯だった。俺とチャットのやりとりをできる状況ではないはずなのに、即レスするなんてどうなっているんだ?


『ちゃんと授業を受けてるの?』

『もちろんですっ! 教科書を読んでいます!』


 あ、やっぱり授業中だったんだ。学校にいることをアピールしたかったんだと思うんだけど、俺が心配しているのはそこじゃない……。ちょっと感覚がズレているなと思いつつも、指を滑らせながら文字を入力していく。


『え、じゃあなんで返信できるの?』

『…………隠れて、こっそりと』


 メッセージを読んで、机の引き出しの中にスマホを隠しながら必死に文字を入力している麻衣の姿がイメージできた。そんなことをしてしまえば、すぐに先生に見つかってしまうので、実際は違いそうだけどね。


 どう反応するか悩んだだけど、突っ込むのではなく驚く方を選んだ。そっちの方が、麻衣は授業中に遊んではいけないと感じてくれるだろうからね。


『え、えっ!?』

『自習の時間なので! ちゃんと勉強はしていますっ!』


 また即レスがきた。授業をサボってはいないとアピールしたいようだけど、逆効果だと思う。本当に自習なのかすら怪しいくらいだ。


 両親から麻衣を任されている立場上、勉強しなさいと強く言うべきなのかもしれないが、そんな気力は湧かない。自由にのびのびと、そして自分の特性を活かした生き方をして欲しいので、細かいことはどうでもいいと思ってしまうのだ。


 大人になったら気づくんだけど、高校生活の思い出って凄く大事なんだ。充実した生活を送れれば、変なコンプレックスを持たずに成長できる……と、俺は思っている。だから全力で遊びなさい。そんな気持ちを込めてメッセージを送る。


『息抜きはほどほどにね』

『はーい!』


 テキストの後にはハートマークのスタンプも送られてきた。兄妹間で送っているので、機嫌はいいですと伝える以外の意味はないだろう。


 俺は会話の最後に、頭を下げるパンダのスタンプを送るとスマホをデスクの上に置く。


「さ、午後の仕事に取りかかりますか」


 仕事の連絡内容を一通り確認してから、ヘッドホンをつけて集中モードに入る。作りかけのプログラムの完成を目指してキーボードを叩くのであった。

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