第26話マジで許せないよねっ!
チャイムが鳴って授業が始まりました。中学校に比べて学ぶ内容は難しくなりましたが、毎晩予習をしているので問題はありません。元々勉強は好きなので楽しく覚えています。運動が得な紬は勉強も出来るので、困っている様子はなさそう。
授業はトラブルなく淡々と進んでいき時間はあっと今に過ぎていきます。お昼を食べて授業をしたら学校は終わってしまいました。入学したばかりなので、終わるのが早いんですね。
放課後になると新しくできた友達と遊びに行く人たちもいて、みんな楽しそうです。
紬は朝話していた愛羅さんに、これからカラオケに行かないかと誘われていました。私との約束があるので断っていましたが、なかったらついて行ったんだろうなぁ。そう思うと少しだけ寂しくなってきました。
私は音に敏感ってこともあって、知らない人と話すのが少し苦手なんで、凄く性格がいい人でも声が不快に感じてしまうと耐えられない。そんな問題を抱えていない紬を少し羨ましく思うと同時に、醜い心を持っている自分に嫌悪感を抱いてしまいます。嫌な女。
「麻衣ー! そろそろ行こうー!」
愛羅さんと別れた紬が私の席にまで来てくれました。
さっきまでの考えを捨てて、気持ちを切り替えると席を立ちます。
「うん。行こう!」
お義兄さんと一緒に買ったスクールバッグを肩にかけて、教室を出ると下駄箱で靴に履き替える。紬と一緒に校舎を出ようとすると声をかけられました。
「紬~~っ! また会ったねっ!!」
後ろを向くと、別れたばかりの愛羅さんがいました。先に外に出たと思っていたのになんで!?
「隣にいるのは……涼風麻衣だっけ? よろしくっ!」
話したこともない私の名前を覚えているのにも驚きましたが、急に抱き着かれてしまいました。レイチェルさんといい、コミュニケーション能力が高い人は抱き着くクセがあるのかな……?
幸いなことに、愛羅さんの声は不快ではないので気分が悪くなるようなことはありません。レイチェルさんで慣れてしまったので、軽く背中を抱きしめてから体を離しました。
「初めまして。麻衣です。愛羅さんですよね?」
「あたしの名前覚えてくれてたの? マジかんどーなんだけどっ!!」
何が面白いのか愛羅さんは笑っていました。ギャルのイメージ通りで、テンションが非常に高い……。
「友達が急に彼氏とデートするとかいって、カラオケの予定がなくなったんだよねっ。紬たちはこれからクレープ食べに行くんでしょ? あたしも一緒に行きたいなー!」
えええ、ど、どうしよう!? 急にお願いされても決められない。愛羅さんと一緒に行くのも良いとは思うんですが、私とは趣味が合わない気がしているので、話が続くかが心配で悩んでいます。
せっかく初めての買い食いなのに気まずい思い出になったら嫌だなぁ。
「私はいいよー! 麻衣はどう?」
紬ならそういうと思っていた。
ニコニコと笑っている愛羅さんを見る。
今気づいたけど、ものすごく美人でした。レイチェルさんも綺麗だと思ったけど、愛羅さんも負けてはいない。美人か可愛いかの違いなだけで、二人ともモテそう。と、そんなことを考えている時じゃありません。一緒に行くかどうかです。
私一人だけだったら気まずい沈黙の多いお時間を過ごしそうですが、紬がいてくれれば何とかなると思う。いや、信じることにします。
「私も大丈夫。三人でクレープ食べに行こ」
「マジで! 映えるお店知ってるから、そこに案内する~!」
愛羅さんは私と紬の腕を取ると、引っ張るようにして外に出て行きます。……あの積極性は見習うべきかもしれません。
おすすめと言われたクレープ屋さんは、意外にも家の近くにありました。普段使っている駅の反対側にあったので、気づけてなかったようです。
「でさー。約束ぶっちして彼氏を優先するなんて、マジで許せないよねっ!」
ケラケラと笑いながら愛羅さんが文句を言っていますが、怒っている感じではありません。きっと、その程度では壊れない関係が二人にあるんでしょう。
「それわかる! 最近、麻衣も似たような感じだしね!」
「えっ!? 私?」
驚きのあまり大きい声を出してしまいました。
紬は何を言ってるの? 私に彼氏なんていないことぐらい知っているのに!
「お、麻衣は彼氏いるの?」
「いないっ! いないって!!」
出会ったばかりの愛羅さんに変な誤解を与えないよう否定すると、騒動の元凶である紬がニヤリと笑いました。誤解されたのを楽しんでいるんだと思います。
「音楽のお仕事。それとお義兄さんと遊ぶので忙しいんだよね?」
確かに昨日、遊ぼうと言われて断りました。MIXのお仕事が大変だからという理由で断ったんですが、朝一緒に登校しているときにお義兄さんとゲームをやった話をしたので、根に持っていたのかもしれません。
だからって、変な誤解を与えるようなこと言わなくてもいいのにッ!
相変わらず、紬は悪戯が好きだなぁ。
「え、音楽の仕事してんのっっ!?」
目をキラキラさせて愛羅さんがMIXの話に食いついてきましたが、きっと楽曲制作をしていると勘違いしているに違いありません。私は0から1を創り出すのではなく、1を10や100にする仕事をしているんです。
そんな期待した目で見ないでください。
「音を調整するお仕事だけど……」
「マジ? スゴいんだけどっ! どんな感じなのか知りたい~~っ!」
「だよね、私も麻衣の仕事見たいな!!」
逆に興味を持たれてしまいました。
愛羅さんに続いて紬も同じようなことを言っているし、逃げ道はなさそうです。
「……ちょっとだけだよ」
二人は大はしゃぎしています。これから家に来る流れになってしまったので、スマホを取り出してお義兄さんに連絡だけしておきました。
「あ、写真を撮ろうっ」
愛羅さんがクレープ記念写真を撮ると言ったので、私たちはぎゅっと集まって何枚か取ってから、私の家に向かうために歩き出しました。
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