第25話ロリコンやろーなんて気持ち悪くて無理無理!
「遅刻しちゃうから行くよ」
「はーい」
軽い返事をして紬が私の体から離れてくれました。ようやく歩き出せます。
夜までの予定が決まって安心したのか、紬が話す内容はネットで流行ってる動画や配信者に変わっていました。
MIXの仕事とお義兄さんの声を聞くので忙しく、ネットの出来事はあまりよく知らないのですが、どうやら未成年淫行で逮捕されたタレントがいるらしい。紬はファンだったみたいでショックを受けたと言っていますが……半笑いですね。
これは、言葉に出しているほどのショックは受けていないでしょう。少し話を盛っている雰囲気があります。
「そんな大人に捕まったらダメだよ」
むしろ紬は、そんなアブなさそうな男性に興味ありそうだったので、一応注意だけしておくことにしました。
「わ、わかってるって! ロリコンやろーなんて気持ち悪くて無理無理!」
と言っているものの本当かどうか、怪しいですね。じっと見ていると紬は顔をそらして歩くスピードを上げて先に行ってしまいます。置いて行かれそうになったので後を追っていくと、校門が見えてきました。
ジャージを着た男性の先生が、生徒に挨拶をしながら服装をチェックしています。平成ですらない昭和のような光景です。
校則という時代遅れなルールなんてなくなっちゃえばいいのに。
「あの人って体育の先生らしいよ。私たちのことをじろじろ見るなんて、ロリコンなのかな?」
捕まった配信者じゃないんだし、先生がロリコンなんてありえません……よね?
「バカなこと言ってないで早く行こ」
紬の手を取ると、先生に挨拶をしてから校門を通って校舎に入っていきます。
下駄箱で上履きに履き替えてから一緒に教室に入ると、既に何人かクラスメイトがいました。入学したてで互いに距離感が分からず、目があっても挨拶はしないで席に座りました。
私は一番前の窓際で、紬は真ん中の一番後ろという位置です。仲の良い友達と席が離れているのは少し寂しいのですが、同じクラスなので文句は言えません。
紬はもう新しい友達が出来たのか席の近い人と話しているので、校門の時に外したイヤホンをつけて雑音を消します。髪で隠しているので、遠目からはイヤホンは見えないでしょう。
何もすることがないので、窓から外を眺めます。
何人もの人が校舎に吸い込まれていく姿、先生に服装をチェックしている姿など、これから日常になるであろう光景がありました。
授業が始まるまでは静かに過ごせそうだと持っていたんですが、突然、ノイズキャンセリングを突破するような声が聞こえてきました。
「おっはよーーっ!」
ドアの方を見ると金髪にミニスカート、さらに色とりどりのネイルをしたギャルがいました。同級生の愛羅さんです。男女分け隔てなく声をかけるいい人なんですが、中学時代から素行が悪かったという噂が流れていて、ちょっと近寄りにくい雰囲気があります。
なによりノイズキャンセリングなんて関係ないというぐらいの大声が標準なので、音に敏感な私は苦手です。お義兄さんの声だったら、どんな大声でも歓迎なんですけどね……。
「ねーねー。有名な配信者が捕まったみたいだね! 知ってたー?」
愛羅さんは席に座ると隣にいる男子に話しかけました。急に話しかけられて驚いているのか、返事は出来てないようです。
紬の方を見ると好きな話題なので参加したそうにしていました。
「捕まったヤツが言ってたんだけど、男ってさー。やっぱ若い女の方がいいの?」
友達でもない相手が答えられるわけないのに、距離感がバグってますね。普通、そんなこと聞きません。
それにお義兄さんを見ていれば、年下というには不利になるといういことはすぐに分かります。私の事を義妹としか見てくれないのですから。
守るべき相手であって対等ではないんです。そのおかげで隙が多いので声を録音し放題という特典があるのですが、もう少し一人の女性と見て欲しいなぁ。
「ねーねー。そこんとこどうなの!?」
お義兄さんのことを考えていたら、紬が愛羅さんと一緒に男子に追求していました。何が起こったの……!?
私と一緒で愛羅さんは苦手だったはずなのに。その配信者って苦手を軽々と乗り越えてしまうほどの何かがあるんだ。何かすでに仲の良い雰囲気も出しているし、モヤモヤとした気持ちが少し湧き上がってきました。
友達を取られるそんな醜い心が私を侵食してくるように感じる。
私も会話に参加できれば良いと思うだけど、そんな積極性なんてなくて、見たくない光景に目を背けることしか出来なかった。弱いなぁ。私。
チャイムが鳴っても二人の会話は終わらず、担任の先生がくるまで続くこととなります。
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