第6話あ、初めまして!
二人の会話が落ち着いたところで、スポーツ少女が俺を見た。
「麻衣の知り合い?」
名前を呼ばれた麻衣は後ろを振り返りながら、俺を紹介する。
「うん。義兄さんだよ」
「あー! 例の!」
再婚した事情とかは知っているようで、何か納得した顔をしていた。
元気そうな笑顔を浮かべたまま、スポーツ少女は俺の前に立つ。
「初めまして!
頭を軽く下げて自己紹介をしてくれた。
礼儀正しい紬みたいな友達がいることに安心する。高校に進学してもボッチ生活にはならなさそうだ。いや、その心配は不要か。麻衣ほどキレイな女子なら周囲が放っておかないだろう。
「ご丁寧にありがとうございます。麻衣の義兄になった優希です」
よろしくね。と付け足してから、紬も一緒に誘おうと思いつき提案する。
「この近くに美味しいケーキを出すカフェがあるらしいんだけど、三人で行かない? もちろん、おごるよ」
「えー! いいんですか!?」
紬はチラッと麻衣を見る。
「お義兄さん、大丈夫なんですか?」
「あぁ、せっかく外に出たんだから、美味しい物を食べて帰ろう。麻衣も行くよね?」
「は、はい!!」
さっきまで気が引けるなぁといった表情をしていたが、少し強引な質問をすると承諾してくれた。
そう、それでいい。もう家族なんだから遠慮なんてしなくていいんだよ。
「お店は決めてるから案内するね」
もうすぐ女子高生になる二人を連れて、この辺で一番美味しいケーキを出すと言われるお店に入っていった。
◆◆◆
バイキング形式でケーキが食べられる店だ。
二人がはしゃぎながら選んだ結果、テーブルには色とりどりのケーキが並んでいる。この味美味しい! と、話しながら次々と食べていく姿を見ているだけでお腹がいっぱいになりそうだ。
女の子の会話に入るような無粋なまねはせず、俺はホットコーヒーを飲みながら麻衣と紬の会話を聞いていたのだが……。
「新しいお義兄さんがイケメンで良かったね!」
「ブッ!」
思わずコーヒーを吹き出しそうになってしまった。
テーブルにある紙ナプキンを数枚取ると口を拭く。
「顔は関係ないよ!」
「えー! そんなことないよ。あるでしょ! そこ大事じゃない!?」
「紬のイケメン好きは変わらないね……」
「そんなことないよ。むしろ、麻衣の方が審査厳しいでしょ! この前だって……」
「まって! それ以上は言わないの!」
チラチラと俺の方を見ている。恋バナらしき話を聞かれたくないのだろう。
家ではクールで物静かな麻衣が、砕けた口調を俺の前でも見せてくれて良かった。
友達を誘ってケーキをおごったかいがあるというものだ。
普段と違う雰囲気になっていることだし、仲良くなるためにこの話題には乗っかろうかな。
「麻衣は学校でモテるんだ?」
「そうなんですよ!! 卒業式にサッカー部の部長――」
顔を真っ赤にさせた麻衣が紬の口を塞いだ。モゴモゴしていて声が聞き取れない。
しばらくして軽く手を上げて紬が降参すると、ようやく麻衣の拘束から解放された。
「もう、言わないでってお願いしたでしょ! こうなったら紬の秘密ばらしちゃうよ?」
「ごめんだって! もう言わないから、それだけは勘弁して!」
笑い合いながらじゃれ合っている。
気心が知れた仲なんだろうなと思わせてくれた。
しばらく二人のじゃれ合いを見ていると、紬のターゲットが俺に変わる。
「お義兄さんは彼女さんはいるんですか?」
「優希でいいよ」
呼ばれ慣れてないこともあり、下の名前で言ってもらうようにお願いした。
「じゃぁ、私も紬って呼んでください!」
「分かった。じゃぁ紬さんの質問に答えるけど、彼女はいないよ。昔はいたけどね」
「えぇ! それは信じられないです!! ずっとフリーなんですか!?」
紬だけでなく麻衣までも目を大きく開いて驚いていた。
そんな意外なのか?
「そうだね。社会人になってからはずっと一人だよ。フリーランスの仕事が忙しくて遊ぶ時間がなかったし、そもそも出会いがなかったんだ」
付け加えるのであれば、今は麻衣のとの生活を優先したいから恋人を作るつもりはない。
「えー! そうなんですね! じゃぁ、私が彼女候補に……」
それは犯罪になる!
軽く受け流しながら断ろうと口を開きかけたのだが、俺よりも早く麻衣が動いた。
「紬、それはダメだよ」
「じょ、冗談だって!」
驚くほど冷たい声だった。
友達に発して良いものではない。
紬も驚いたみたいで慌てながら言い訳をしているが、あまり効果はないようだ。
無言で顔を近づけられてプレッシャーをかけられている。
「もう言わない?」
「た、多分?」
「…………」
なんでここまで機嫌が悪くなってしまったのか分からないけど、俺が原因で仲違いをしてもらっては困る。仲裁しないと。
嫌われてしまうかもしれない。そんな気持ちを抱えながらも口を開く。
「麻衣、そのぐらいにしたらどうだ?」
「義兄さんが言うのでしたら……」
素直に引き下がってくれたので安心した。
何事もなかったかのように二人は食事と会話を再開している。
切り替えの早さに感心しながらも俺はコーヒーを飲むのであった。
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