第7話当然です! 親友ですからッ!

 ケーキを大量に食べた二人とともに店から出る。


「今日はごちそうさまでした!」


 つむぎは礼儀正しく頭を下げた。まだ中学生だというのにしっかりしている子だ。俺が同じ年代だったときに同じ事が出来ていただろうか……?


「ありがとう。これからも麻衣をよろしくね」

「当然です! 親友ですからッ!」


 そうやって言い切れる若さが羨ましいと思いつつ、心が温かくなるのを感じた。


「それでは、失礼します!」


 これからテニスの練習をしに行くらしく、紬は手を振りながら走り去っていった。

 スカートがめくれそうなほどの勢いで、パンツが見えてしまうのではないかと心配になってしまう。


 俺が指摘するとセクハラになってしまうので、いつか麻衣が注意すると期待するしかなかった。


「俺たちも帰ろうか」

「はい」


 紬がいなくなったこともあり、麻衣のテンションは元に戻ってしまう。


 まだまだ距離があるな。

 そんなことを考えながら、一緒に並んで帰るのだった。


◆◆◆


 家に帰ると麻衣はすぐに部屋にこもってしまう。


 こうなってしまうと、ご飯の時間になるまで出てこないのだ。何をしているのか分からないが、集中しているようで声をかけても反応がないときが多い。


 一人になってしまったので、リビングのテレビで動画サイトの映像を垂れ流しながらソファーに寄りかかる。慣れないことをしたせいか疲労感が襲ってきた。テレビから流れる笑い声が子守歌に聞こえ、天井を見ながらまぶたが落ちてくる。


 ――人の気配を感じ、意識がゆっくりと浮上していく。


 目を開けると天井があった。


 顔を横に向けると、隣に麻衣が座っていて無言でスマホを眺めている。


 イヤホンをつけているので音楽を聴いているのか、話しかけてくる様子はない。顔をやや赤くしてぼーっとしていた。声をかけるのを躊躇ためらってしまう。


 時計を見ると時刻は17時。少し寝過ぎてしまったみたいだ。そろそろ晩ご飯の用意をしなければいけない。


 寝起きの重い体を起こして立ち上がると、キッチンに向かう。スマホでレシピを探しながら作る物を決める。今日はカルボナーラにしよう。


 アプリを立ち上げて麻衣にチャットを送る。


『晩ご飯はカルボナーラでいい?』

『はい! 楽しみです!』


 テキストの後に可愛いスタンプが送られてきた。話しているときと違って、親しみがこもっているように感じる。それがちょっと嬉しかった。


 さて、料理を始めるか。


 パスタを茹でるお湯を沸かしながら、冷蔵庫から玉ねぎやベーコンを取り出して切っていく。フライパンで炒めながら溶いた卵や牛乳、チーズを入れて温める。


 塩を入れてから沸騰したお湯にパスタを入れて、くっつかないようにぐるぐると回して時間になると取り出し、フライパンに移していく。味を調えながらソースを絡めたら完成だ。


 今日の晩ご飯はこの一品のみ。

 あまり料理をしたことがないので、レパートリーが少ないのだ。


 これからは料理を作る機会も増えるだろうし、ちゃんと学びに行った方が良いかもしれない。


『ご飯できたよ』


 チャットを送ってから配膳をしていると、イヤホンを外した麻衣がコップやフォークを出してくれた。


「ありがとう」


 お礼を言うと耳を赤くして、麻衣は顔をうつむけながら座ってしまう。


 照れてしまったみたいだ。あまりこういうのに慣れてないのかな?


 俺も座ると、食事を始める。


 カルボナーラの味付けは少し失敗していて味が薄かった。簡単な料理すらまともにつくれなとは……大人としてちょっと恥ずかしい。麻衣には、もう少し良いところを見せたかった。


「味が薄かったら塩やチーズを入れると良いよ」

「このままでも美味しいですよ。作ってくれてありがとう、ございます」


 薄い唇の口角をあげて微笑んだ。


 美少女が俺の料理を食べて美味しいと言ってくれる。


 気を使ってくれたんだと思うが、純粋に嬉しい。なんとも言葉にしがたい喜びが湧き上がってきた。


 親父がいなくなって、二人っきりの生活はどうなるか心配だったが、悪くないじゃないか。兄妹っていいものなんだな。再婚してくれてありがとうと、心の中で礼を言っておく。


 食事が終わり食器をシンクに運ぶと、一緒に片付けを始めた。特に会話などはなく、無言だ。


 俺が皿を洗って麻衣が乾いたタオルで拭く。一通り終わると棚に片付け作業は終わりだ。二人だとすぐに終わってしまうんだな。


「手伝ってくれてありがとう。助かったよ」

「このぐらいしかできなくて、ごめんなさい」

「まだ学生なんだし、大人に頼ればいい。謝る必要はないよ」


 頭をなでようと手を上げるが、女性は髪型が崩れるのを嫌がるという話を思い出す。途中で動きを止めると、ごまかすように自分の頭をかく。


「お風呂に行ってくる」


 恥ずかしくて一人になりたくなったので、ちょっと早めだが一日の汚れを落としに行く。


 脱衣所で服を脱ぎながら、ふと今日一日のことを思い出す。


 今日は買い物や義妹とその友達との食事。さらにはご飯を作るなど充実した時間を過ごしたと思う。親父が再婚する前は家でゴロゴロと寝転がっているだけだったので、大きな変化だ。


 満足感を感じながら、服を脱いで洗濯かごに投げ入れると、一つの問題に気づく。


 ……そういえば、洗濯は誰がするんだ?


 風呂を出た後に相談しよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る