第12話 状況確認を怠るな




「チッ、まだ残っていやがったか!」


 バラバラの腕に潰れた足、死体の損傷が激しく人数の把握が遅れた。頭だけでも数えときゃ良かった。


凍結束縛アイスバインド!」


 ・・・・確か、アイツが跳ね飛ばした男は回復魔法士か。背骨が折れて森へ飛んで来たと思ったが……成る程、森の中で自分に回復魔法を使いながら隠れてたって訳か。よりによって攻撃魔法も使えるヤツだったとは、しっかり確認しなかった俺のミスだ。


「だが、テメェはこれで終わりだ」


 カイルは男の両腕を凍結させ地面へと蹴り倒す。

仰向けにひっくり返った男の胸に足をの乗せ、身動きを封じながらカイルは詠唱を始めた。


「カイル! そこまでだ。」


「……へっ、神に祈ってる風にゃ見えねーが御加護があって何よりだな?」


「ふん、此方は全滅だ。そっちの一人くらい道連れにしたってバチは当たらんだろうよッ!」


男はカイルを睨みつけるとそう言い放つ。


「ふむ、非常に言いづらいが……こちらに被害死人はないな。カイル、こいつは拘束して連れて行く。今回の事はわからない事が多すぎる。」


「了解、ビエル団長。残念だったな、お前の魔法は届かなかったとよ!」


「ハッ、嘘だな! 俺の魔法は確かにあのデカいヤツの背中に刺さったはずだ! 俺はこの目で見たんだからな! 現にあの男はそこで倒れてるじゃないか!」


カイルはニヤつき勝ち誇る男の肩に手を回し、嫌味ったらしく耳元で囁いた。


「お前が放ったご自慢の魔法は魔法抵抗レジストされたんだよ、完っ璧になっ」



「……ア、アレス 早く治すっ」


 アレスは倒れた彼に駆け寄りすぐに回復魔法を使った。だが、やはり魔法抵抗レジストされてしまう。力無く倒れ込む彼の体の下には押し潰されたウルスが苦しそうに呻いている。


「やってますよ! だけど魔法抵抗レジストされちゃうんですよ。」


(まさか回復魔法まで受け付けないなんて・・・・・・聞いた事無いですよ、こんなの)


 見た所、外傷は擦り傷くらいで大きな打撲や頭を打った形跡も無い。恐らく極度の緊張から解放されて気を失っただけだろう。それにしてもいくら魔力量が多いといっても回復魔法まで魔法抵抗レジストするものだろうか?


「う〜ん、重っもーいっ! ちょっとアレス! 考え事する前にウルト出すの手伝ってよ!」


「あっ、はいはい! 今すぐに」


 うんうん言いながらも、なんとかクリミアと二人がかりでウルトを引き摺り出した。


「……潰れるかと思った 大変……ペッチャンコ……」


「はいはい、それは元からだからっ!」


 自分の胸を見ながら悲しそうに呟くウルトにクリミアは『魔力の丸薬』と水を手渡しながら言った。


 通常、魔力は食材などに含まれており体内に蓄積される。蓄積出来る量には個人差があり、沢山溜める事が出来る者は魔力量が多いと言う事になる。

 魔力は魔法を使うと消費する、魔力量が多い者は魔法の威力や回数が増える為、どこへ行っても重宝されるのだ。


魔法を使って魔力が極端に少なくなると、頭痛や吐き気などの『魔力枯渇症』の症状が出る。


『魔力の丸薬』 複数の食材から魔力のみを凝縮抽出した物で氷柱アイシクル一発程度と僅かだが魔力を回復する事ができ、魔法士なら大体が皆が持ち歩いている薬だ。


「それにしても、本当に何でも無いんだね〜。背中に刺さった様に見えたのに。私、やられちゃったのかと思っちゃったよー」


クリミアは彼の身体をペタペタと触りながら傷の確認をする。


「彼の様子はどうだ?」


拘束されたパカレーの兵士を連れ、此方に来たビエル団長がアレスに様子を伺う。


「はい、外傷は無さそうです。恐らく緊張からの気絶だと思います。暫くしたら目が醒めるでしょう」


「はっ?・・・・嘘だろ!? お、俺の魔法を本当に魔法抵抗レジストしたってのか!?」


パカレー兵士が驚き目を見開く。


「見た目といい・・・・化け物かよ……」




「で?アイツ……連れて行くんだよな?」


カイルは地べたにデーンと寝転がる彼の方を顎でしゃくる。


「勿論よっ! 彼は身寄りが無いんだから……孤児院の子達と一緒だもん。私がちゃんと面倒見るからっ!」


「また始まった……いつもの捨て犬や猫とは違うんですよ?」


「まぁ、それは兎も角。確かに、今後の彼の対応も考えねばならんな。流石にこの歳からの孤児院は難しいしな、言葉の問題もある。」


「この魔力量ですからね……魔法が使えるようになったらどうなる事やら。それに、まだ彼が何者なのかも分かってない。警戒は続けるべきですよ」


「そうは言うけどよ? 逃げたのに戻って来たんだぜ。加勢なんかしちゃってさ、良いヤツなんじゃねーの?」


カイルは僅かな時間ではあるが、一緒に戦った彼を悪く思えなくなっていた。


(言葉は通じねぇが、指示はまぁ……妥当だった。それに……大猪が偶然じゃなく、アイツが連れて来たんなら……)


「その辺りはもう少し様子を見なきゃわからんが、今は状況の報告が先だ。カイル、荷車は直りそうか?」


 散々攻撃を受け続けた荷車は原型を留めていない。辛うじて残った車輪がこのゴミの山が荷車だった事を物語っていた。


「ダメだ、使い物になんねぇ。薪には出来そうだが……あー、肉もダメだなこりゃ」


「えっーーー!? 折角のお肉がっ! ダメにっ? 団長……アイツ殺しましょう!」


「ヒィ!?」


あまりの迫力に兵士の顔が引き攣る。


「ダメだ、コイツは大事な情報源だからな。熊肉は残念だったが……」


ビエルは倒れた大猪を指先す。


「今は少しでも速く拠点へ戻らねばならん、持てる程度にしておけ」


「もぉー、荷車……それに馬までやられちゃうなんてっ、カイルさん、何とかして下さいっ!」


「無茶言うなよ、反重力アンティグラビティは魔力消費デカいし、軽くなるのはせいぜい5分くらいだ」


 内臓を抜いたとしても200kgはありそうだ。

5人で分ければ1人40kg程度で済むが、生憎そんな重い物を持てる者は居なかった。


「……仕方ないっ、持てるだけ、持ってく事にするっ!」


 クリミアはいそいそと大猪を解体し始め、他の者も手分けして戦闘の残処理を始めるのだった。

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