第13話 緑眼の娘



・・・・「Οοι Οκιτεε」

     おーい おきてー


突然、顔をグニグニと揉まれ俺は目を覚ました。

どうやら寝てしまったらしい。


って、そういや俺は氷柱に刺されてっ・・・・・ないな?


 慌てて背中をさすってみるが、血が付いたり穴が空いたりはしてないみたいだ。

あの少女も……無事みたいだな、良かった。


多分、イケメン辺りが上手くやってくれたんだろう。


「Κορακορα Μουσισινααι!」

 こらこら 無視しなーい!


女の子が、両手で俺の顔を挟んで目を合わせて何か言ってる。


(うわっ、目が緑だ! 宝石みてぇ〜)


20歳前半くらいか、髪の毛を後ろで束ねた活発そうな女の子だ。あぁ……そうそう、この娘、熊を捌いていた娘だな。


「あ、あの……へへっ おはようございますぅ」


こんな可愛い娘の予期せぬスキンシップにデレない男などいるだろうか?


ーー否っ!


今、心の中の俺が1000人規模で叫んだわ。

しかも、両手で頬っぺたを挟まれながら見つめて来るなんて・・・・も、もしかして……こ、こ、ここれはキッスをしても許される流れ!


「Γκενκιναρασασαττο Οκιρου!」

  元気ならっ さっさと起きる!


良いムードと思っていたら、急に両頬をパンッと叩かれ一気に現実に戻る。


「ですよねぇ〜」


 周りを見回すと、あれだけ散乱していた大量の兵士達の肉片は綺麗に無くなっていた。恐らく森に埋めたのだろう。残しておくと疫病が流行ったりする原因になるって聞いた事あるしな。


緑眼の娘が、立ち上がった俺の手を引き他の人達が集まっている場所へと向かう。


「Οου Οκιτακα!」 

  おぅ 起きたか!


イケメンが俺の肩をバンバンと叩き笑顔を見せる。

妙に馴れ馴れしいな。

嫌な気はしないけどさ、やはり一緒に戦ったからか? そうか、これが戦友ともか!


イケメンの側には、森に居た男が拘束されて此方を睨み付けている。


(生き残りはコイツだけか……)


大猪、圧倒的だったな。

不利だった戦況を一気にひっくり返すとか……。


で、その大猪の成れの果てが目の前にある事が、なんだか感傷を深い。


(「盛者必衰のことわり」ってか……)


大猪はすっかり毛皮と部位に分けられ陳列されていた。



「凄い! 凄いっ! 力持ちっ!」


クリミアが大猪の肉を毛皮に包み背負う彼の周りをぴょんぴょん飛び跳ねる。


荷車が壊れたせいで大半の肉を諦め、ガッカリしていたクリミア。そんな彼女を見て、彼はなんと100kg近い肉を担いだのだ!


「あ、あり得ない・・・・・」


唖然とするアレス。


「……魔法……反重力アンティグラビディ?」


「イヤイヤ、言葉が話せないんだから魔法は

使えねぇって話だろ……だよな?」


「この体だ、熊並みの力があっても不思議じゃない。彼の事は……今は後回しだ、行くぞ」


 ビエルは捕虜となった男を連れ森の道を歩き出した。他の者も自分の荷物にくを担ぎ、捕虜の男を取り囲む様に歩き出す。

彼は少し遅れながらもちゃんと着いてきている。

逃げたりはしないだろうが、一応隣にはウルトが付いてる。


(ただ、彼が本気で逃げようとしたならば……止められる手段が浮かばないがな)


魔法も効かない、力も魔力もデタラメだ。

そんな彼を止める術があるだろうか?


(しかし、もし彼を第三魔法騎士団こちら側の味方に出来れば……)


不安と期待を抱きつつ、ビエル達 第三魔法騎士団は駐屯地がある街に向かうのだった。



フゥー フゥー フゥー


俺は今、猛烈に後悔してるっ!


 荷車が壊れ、荷物が運べ無いのは見てすぐに解った。それを物凄くガッカリした顔で見ている緑眼の娘を見て、(俺がバーンと担いだらカッコ良くね?)と思ってしまったのだ。


「フッ!」


大猪の毛皮に半分程の肉を包み担ぐ。

100kgくらいか? バーベルと違い持ち辛い所為で少し重く感じるが担いでしまえばこっちのモノだ。

ノッシノッシと歩く俺の周りを飛び跳ねて喜ぶ緑眼の娘。驚きに目を見開く小柄な男の子。皆んなが驚きの目で見てくれる!


(おぉ…注目されるのは、悪くないな!)


筋トレしていて良かったと、ドヤ顔で肉を運ぶ事30分。


ーー俺はもうバテていた。


・・・・そういえば……あと、どれ程歩くのかは……知らなかった……な・・・


「……κανμπαρε ……κανμπαρε」

……がんばれー……がんばれー


やる気の無い掛け声を聞きながら小休止を挟み歩いてゆく。


「おいっ、見えてるからな? 自分の荷物にくは自分で持ってくれ!」


油断すると金髪の少女がちゃっかり俺の背中に自分の荷物にくを引っ掛けてくる。


一歩一歩踏み出す度に太腿が痙攣し出した頃、目の前に石造りの街並が見えてきた。


俺達が来たのが見えたのか、門から兵士らしき人達が此方へ向かって来るのが見える。


「あ"ぁ"ーやっと……着いたぁ・・・・」


その場に荷物を放り出し、膝から崩れ落ちる。


「Ιοουκοσο Ιαμαχε」

ようこそ イアマの街へ


緑眼の娘はこちらを振り返って笑った。

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