第10話 起死回生



「ビエル団長! 壁が、崩れてきますっ!」


 魔力を通常よりも多目に使い生成する土壁アースウォール氷柱アイシクル程度なら問題無く弾く。

だが、それを見たパカレー軍はすぐさま、突風ブラスト氷柱アイシクルを乗せる混合魔法に変えてきた。


 氷柱アイシクル突風ブラストの推進力を掛け合わせる『混合魔法』。通常の倍近く速度を上げる事で貫通力が増す。


 摩擦抵抗により氷柱アイシクルの耐久性が落ちると言う弱点もあるのだが、小石程度でも高速で撃ち出せば板くらい簡単に貫通する事を考えればメリットの方が高い。


「ムゥ、これは不味いな」


 崩れる土壁アースウォールの内側から更に土壁アースウォールを生成してゆく。壁と壁の間に一定の空洞を作る事によって貫通力を抑える。 


 (しかし、これは……壁を維持するので精一杯だな。)


クリミアとウルトが反撃してくれてはいるが、向こうは十人規模の分隊、恐らく回復魔法士もいるだろう。


「アレス、だ?」


「は、はいっ! あと七人ですっ! 三人は同期コネクトで眼球を破壊する事に成功しています! 回復魔法を使っても直ぐには再生は不可能です! ……ただ、こちらの負傷者の回復も考えると魔力の余裕が……すいません」


「いや、良くやった。あと七人か……」


やはりアレスの同期コネクトは対人戦に有利だ。

今はまだ、視界を奪う程度だが回復に時間がかかるのは相手が戦線離脱したのと同等の効果がある。


 ……しかし、このまま戦闘が長引けば、人数の少ない此方が不利だ。考えたくもないが……相手が小隊規模で動いているなら増援もあり得る。


(カイルのおかげで、相手の攻撃を分散させるまでは良かったが……それでも攻撃が途切れない。詠唱のタイミングをズラしてるのか……なかなか練度が高い)


俺の土槍アースジャベリンは攻撃範囲の調節が可能だ。

固まった陣形を取る相手は格好の相手なんだが…絶え間なく土壁アースウォールの発動をしていては、そちらまで手が回らない。


(アレスの同期コネクトの事もある、やはり盾役は必要か……)


「ねぇっ! ウルト大丈夫? 頭から血がッ!! アレス早く回復魔法を!」


壁ここから斜め後方2mにウルトが居る。

荷車が倒れた時に負傷したようだが、反撃する程度には余裕はある様だ。


「気持ちは分かりますが、今、ここからは動けませんよ!」


「シュバーッて行って、パーっと回復してきなさいよ!」


「僕に死ねと!?」


 回復魔法は対象者の近くに居なければ効果が無い。何故なら傷の箇所や深さによって、止血、再生、活性など魔法の効果を変える必要があるからだ。回復魔法士には医学の知識も必須なのだ。


「……来なくていい……出来れば……一生」


「僕そんなに嫌われてたんですかっ!?」


落ち込むアレスの肩に手を置く。


「アレス、土壁アースウォールを少しずつウルトの方へとずらしてゆく。合流したら回復を頼む」


「はぁっ、分かりました。……団長、その後は……」


「その後は、全員で森の中へ入り散開! ゲリラ戦にて敵の足止めを行う。アレス、お前は城に戻って報告を頼む」


「そ、そんな? 僕も最後まで戦いますよ!」


「何言ってるのよ、回復魔法使ったら魔力切れるんでしょ! 戦力にならないんだから団長の指示に従いなさい!」


「クリミアさん…」


「アレス、最初に言ったな? 『自分の命が最優先』だと。今、俺達が全滅すればサーシゥ王国がどうなるか分からん。誰かがこの異常事態を知らせなきゃならんのだ、分かるな?」


「ーーくッ! わかり……ました?……えっ?えーー!?」


アレスは今日、のを初めて見た。



 防戦一方のあちらより、森の中の俺達の方が脅威度が高いと判断したのか、攻撃がこちら側に片寄って来た。


(これであの少女も何とかなるかな)


 そのおかげで、コッチは人を気遣う余裕が全く無くなりましたがね! 


……よく考えたら余裕なんて元から無かったわ、今は側にイケメンが居るだけ心強い。


とは言っても、森の中で魔法が使えない俺に出来る事なんて・・・


ーー反復横跳びくらいしか無いんですがねっ!


木を中央に盾と位置取り、サイドステップで左右からひょこひょこと身体を見せ付ける。


そして来た魔法を躱す! 躱す! 躱すッ!


「あ、スッゲェ怒ってる」


反復横跳びには挑発効果もあったらしい。凄いムキになって魔法を撃ってきた!

このまま魔力を存分に消費して欲しい所だ。


反復横跳びをしながら、道を挟んだ反対側の森に目を向ける。


「よしっ、後はタイミング7割、運3割ってとこだな!」


俺は地面に落ちてる拳大の石を何個か拾う。そして相手に向かって投げつけ始めた。


昔は野球少年だったんだ、コントロールには自信ある!


ーードゴッ


石は兵士に当たるが軽鎧に阻まれ落ちる。

やはり軽鎧には防御魔法を掛けている様だ。


「σονναμονκικανεεζο!」

   んなもん効かねぇぞ!


「これで良いんだよ!奴等の気をこっち森の中引きたい。なんとかしてくれ」


「Σικατανεενα!Αισικουρου!」

    仕方ねぇなッ!アイシクル!


何度も俺は石を投げる!


ダメージが無いのは分かってる。


が、それでも俺は投げ続けた。


なかなか俺達に魔法が当たらない事に郷を燃やしたフェイスガードが森の中こっちに向かって詠唱し始める!


ーーあの野郎ェ、森ごと俺達を燃やすつもりか!?


「くそっ、間に合えッ!」


体のバネを意識して大きく腕を振りかぶる。


ーーうおぉぉ!!


思い切り右腕を振り抜き石を投げ込む!


腕を振る速さに指先に血が集まりジンジンと痛む。


石は弾丸の如く真っ直ぐに・・・・


フェイスガードのすぐ横を擦り抜けて反対側の森の中へと消えていった。





渾身の一撃を外した俺を見て兵士たちは馬鹿にした様にニヤける。


(はっ、いつまで笑っていられるかね?)


ーーブモオォォオッ!!


聞こえるは終焉の咆哮。

突如、兵士達の背後から灰色の砲弾が襲いかかる。


そう、最後に俺が投げた石は森の中に居た大猪に向かって投げたものだ!


 『戦闘を知らない俺が出来る事』なんて出来るヤツに頼む事くらいしかない。咄嗟に思い付いた策だが上手く行った。

 俺は此処に来るまでに間隔を開けて冷凍熊肉を落として来た。勿論、あの時会った大猪を誘導する為にだ!


そして、兵士に向かって投げた複数の石に紛れて冷凍熊肉も一緒に投げ、彼等の周辺に肉をばら撒いた。


 熊肉を追ってきた大猪は急に攻撃され興奮状態になる、そこに熊肉を独占している奴等を見つけたなら……


「当然、そいつらを攻撃するよな?」

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