第9話 乱入と共闘
〜カイル視点〜
「
森の中を駆け抜ける。
時折、道に向かって適当に魔法を放つ!
当てる必要は無い、相手の戦力を分散させるのが目的だからな。
「おおっと、残念…外れだッ!」
相手の魔法は木陰に隠れてやり過ごす。
が、中々にキツい。
元々俺の役割は斥候だ、森に潜み相手を撹乱するのはお手の物……とは言っても、殆どが大猪や赤熊などの害獣を誘導したり足止めしたりするのが精々だ。
偶に山賊の連中を相手にする事もあるが、練度の高い兵士の相手はそうそう有るもんじゃ無いーーが、そんな弱音を吐いてる場合じゃねぇな。
(団長の
このまま時間稼ぎしてもジリ貧だ。
何か状況を打破できる方法が必要だ。
取り敢えず何人かの足を凍らせる。
(相手の攻撃が緩めば団長も攻撃魔法が使えるかもしれねぇ。)
その時だ、反対側の森に潜むアイツを見つけたのは。
「ーーなんでまだこんな所に居る!? 逃げたんじゃなかったのかよ……」
おいおい、頼むぜ。戦況は不利で打開策も浮かばない、その上お守りじゃ、全滅待った無しだ。
団長は『自分の命が最優先』だと言った。そりゃそうだ、今回はお偉いさんの警護じゃねぇんだ。今はこの現状、「《何故か他国の軍隊が領地内に侵入している》》って事を報告する事が優先だ。それには誰か一人でも生き残る必要がある。
(頼むから、そのまま隠れとけよ)
だが、何を思ったかアイツはパカレー軍に向かって駆け出した!
「なっ、馬鹿かアイツは!?」
訳がわからねぇ? なんでそこで突っ込む!? まさか俺達の為に戦おうとしてるのか? 確かにアイツの魔力量は化け物級だ。
だが、それならあの場から何か魔法を……そうか! 言葉も知らねぇアイツが魔法を知ってる訳が無い!
いくら魔力が多くても知識が無ければ魔法は使えない。簡単な魔法は幼少期に大抵は親から教えられる。その後は自分の使いたい魔法系統の学校に入ったり、師に付いて魔法を学ぶもんだ。
恐らく「忌子」のアイツには魔法を使える知識は無い!
「あぁ! ちくしょうめッ!」
俺は…俺は手の届く範囲は助けるって決めてるんだよ! くそッ。
「ーーアイシクッ…あ?」
魔法を打ち出そうとしたカイルの目に映ったのは、体があり得ない方向に折り曲がりながら、こちらにぶっ飛んでくるパカレー軍の兵士だった。
◇
「はっ、ボーッとしてる場合じゃ無い!」
予想以上の威力に驚きながらも、同じく驚いて固まっている兵士の腹を踏みつけ、もう一人の回復役を探す。
「いた、確かフェイスガードの後ろのヤツだ」
俺が吹っ飛ばしたのはヤツらの最後尾、未だ俺が乱入して来たのを気づく様子は無い。蹲っている奴らは無視して回復役の男へとの距離を縮める。
「Να、ναννταομαεχα?」
な、何だお前…
気付いた時にはもう遅い! 俺の右腕は男の襟首に食い込んだ。
「ーーおぉぉッ!」
そのまま腕を引っ掛け
ーー地面に向かって叩きつける!
「グブゥ・・・・ッッ」
男は口から泡吹いて動かなくなった。
(右フックのつもりだったんだが……距離感が良くわかんねぇ。が、兎に角これで回復役の二人は潰した。後は何としてでも逃げなきゃな)
流石にここまで暴れると気付かれる。倒した兵士の目の前に居たファイスガードの指揮官は驚きつつも俺に向かって魔法を唱える。
ーーッ!?発動が早い!
俺は咄嗟に地面に伏せた。直後、そのすぐ上を熱風が通り過ぎた。
「アワワ、アチチチ!」
後転しながら距離を取る。
(まさか火が飛んでくるとは思わなかった!いや定番っちゃ定番か)
このまま森へと逃げ込みたい所だが、此方に気付いた何人かが詠唱を唱えるのが見える。
「やばいやばい!」
目で逃走経路を探していると、森の中のイケメンと目が合った。
ーー不思議な感覚だ。
言葉も通じないのに、何となくイケメンが考えてる事が解る気が……する。
恐らくイケメンにも俺の考えが解ったのだろう、僅かに頷くのが見えた。
「頼むぜ、イケメン!」
「ΜακασεροΤσουραρα!」
まかせろ アイシクル!
ーーボッシュッ
魔法が発動すると同時に、俺はイケメンが居る森へと駆け込んだ。イケメンは放たれた火魔法に氷魔法をぶつけて相殺させやがった!
(器用な事を! コイツ実は凄いヤツなのかもしれない)
森の中に転がり込んだ俺は、木陰に身を隠し息をつく。いつの間にか隣にイケメンが立っていた。
「Νανιιαττερου?νιγκεροιο!」
なにやってんだ にげろよ!
「なぁ、イケメン。そろそろなんだ……」
「Ναννταττε?」
なんだって
「俺の予想が正しけりゃ……そろそろ援軍が来るはずなんだよ」
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