169話 お姉さん?とデート??

 すまない。他に言葉が出なくてもう訳ないが本当にすまなかった!


 メアさんが悲鳴を上げてから数分後。状況を理解した彼女は額が地面につかんばかりの勢いで必死に頭を下げてきた。


「だ、だいじょ、大丈夫!別にそこまで痛くないれすから」


 メアさんが気にしすぎないようにと平気なフリを試みるも口を動かす毎に咬み傷が痛み上手く誤魔化そうとするも上手くいかず、頬の噛み跡は手で見えないように隠せたが肝心の方は失敗し余計メアさんに罪悪感を抱かせてしまう結果となってしまった。


「ほんとにそんな気にしないで下さい。自分も散々迷惑かけましたし。現に昨日は背負われっぱなしだった上にそのまま朝まで爆睡。そのせいでお家にまでお邪魔までしてしまってます、し。うぅ…」


 昨日の事を振り返って言葉にすると呟く毎に罪悪感と羞恥心が蓄積され、最後には顔を覆ってしまいたくなる衝動に駆られた。自分の失態に嘆いていると突然メアさんはクスクスと笑みを浮かべた。


「そうだな。帰路で君を背負ったのはお互い様だが街へ帰っても一向に起きる気配がない程に完全に熟睡され、当然住みかなど知る由もないから仕方なく何処の宿に預けようと奔走するも私の定めなのか昨日に限って君を預けられる宿が一件もなく、仕方がないのでまだ出会って数日の間柄の君を自分の部屋まで連れて帰らねばならなかった出来事に関しは確かに迷惑をかけられたと言い切れる出来事だったな」


 いつの間にか意地の悪いものへと変わっているような気が…


 「だから償いがてら色々案内させてもえないか?冒険者の成り立てということはまだこの街に来たばかりなんじゃないか?

 ええ、そうですね。まだ訪れて数日程度でこの街の事はほとんど知りませんのでお願いします。

「ええ、任せなさい!」


 自信満々に胸を張るその姿は思いのほか今までで一番笑顔のように映った。

 ***


「ここは…」

「薬品専門店です。冒険者を生業とするのならこれからよくお世話になる所の一つでしょう」


「ところで坊主、お前さんその頬の傷どうした。噛まれたのか?」

「え、ええまぁ」

「何噛まれたんだその傷?それで済んでるあたりモンスター関連とかじゃねぇだろ?新しく買ったペットにでもやられたか?」

「そ、そんなところですかね。あははは」

「もしかしてそっちの姉ちゃんにやられたものだったりしてな。寝起きに浮気現場を見られて噛まれたんとかだったり…なぁんてなっ!あっはっはっはっ!」

「あははは、そんな馬鹿な」

「だよな、冗談だ冗談。あっはっはっはっ!」

「あんまりからかわないで下さいよ。あははは」


 わ、笑えねぇ!!浮気云々以外は『朝』だの『寝起き』だの何でそんなピンポイントに当ててくんだよ!?もしかして本職は占い師だったりしませんかねこの人!?


 けどよ、だったらなんで横っ面に太華を咲かせてんだ?


 はい?太華?


 店主のその一言を聞いた瞬間にメアさんは切りきれんばかりの勢いでサッと顔を逸らした。


 俺は最初なんの事かわからなかったが店主が「ほれほれ」と横頬を叩き、釣られて右頬に手を当てると日焼け後のようなひりっとした痛みが走りここに来て店主が言いたかったことがようやく理解できた。


「はっはっはっ!あんま姉ちゃん怒らせねえようにしなよ。女は怒らせると一番怖えぇ生き物だからよ。特に姉ちゃんみたいな綺麗な人だと尚更な。ま、あんちゃんも遊びたがりな時期だとは思うけどよ、馬鹿するにしても女遊びするにしても程ほどにしておけよ坊主」

「………後学の為にその言葉は胸にしまっておきます」

「そうそう、追っかける尻は一つにしておいた方がいいぞ」


 なんだろう、回復薬とか扱ってる店に来たのは初めてだけどなんていうかノリの感じが武器やのおっちゃんって感じが強い気がするんだけど気のせいだろうか?


「それにしても坊主、随分綺麗な姉ちゃん捕まえたもんだよな」


 まだこの話題引っ張るの?


「それで今日は何を見に来たんだい?」

「今日は単純に何があるのかを見に。自分冒険者に成り立てなのに綺麗で美人なお姉さんにその辺の必要な知識もご教授してもらおうかと」

「………」

「そうか、上手い事デートにこぎつけたな坊主!」


 店主はそう言いながらバンバンと背中を叩いて来る。というかそう言うのはメアさんに聞こえないとこでこっそり言うべきだと思うんだけど。まあデートうんたらとかじゃないから別にいいけど。


「そうですね。綺麗なお姉さんに教えてもらえて僕は運がいいですね」


 幸運値マイナスなのに確かに不思議である。痛た!


 自分の置かれている状況を疑問に思っていると不意に背後から頭部を小突かれ、振り向くと何故かメアさんがジド目でこちらを見ていた。


「そういう言葉を誰にでも軽々しく使っているといつか痛い目に遭いますよ」

「別に誰にでも使っているわけでは…しかもいつかでなく現在進行形で痛い目に遭ったような気が…」

「何か言いましたか?」

「先輩冒険者の格言は胸に響いて大変ためになりそうだなぁと」


 これはあれだな。授業料という奴だな、うん。


「…勘違いするな私。年下から見たら年上は基本割増しでそう見えるんだ。けど私と彼ってそんなに歳離れているのか?」


 なんかぶつぶつ言い始めたぞ?昨日までの疲れがまだ溜まっているのか?


「あのメアさん、そろそろ本来の目的お願いします」

「ああ、すまない。それではまず基本的なものから説明していくか。ポーション、定番中の定番だな」


 異世界ものでお決まりのやつだな。


「そう言えば使った事ないですね」

「………」


 なんだろう、なんだかメアさんが呆れているような目を…


「本当…なんだろうな。君はあまり嘘をつくようなタイプには見えないしな。普通はここでポーションを所持しているからといって慢心して警戒を怠ったり、無謀に突撃したりするなと警告しておくところなのだが…」

「あはははは」

「君にはせめて一つは所持している事から教えないといけないようだな。時折自分の力を過信してそういった所持品を揃えるのを怠る者のいるようなのだが」

「俺の場合は単純に懐のお財布事情が理由です。メアさんと会う前日に身内によって財産全てが吹っ飛ばされるという悪夢がありましたもので」


 まあ吹っ飛んだのは住処だったのだが。


「そ、そうか。それは…大変だったな。ああ、そうだ。昨日は君が気を失っていたので渡しそびれて今まで忘れていたのだが…コレを」


 メアさんは腰に携帯しているポーチから目当ての物を取り出すと俺の手にそっと手渡した。渡されたのは一つの茶色の布袋で思いのほか重みを感じられた。


「結構ずっしりしてますね。かなり入っているんじゃ」

「かなりの量をギルドに持って行ったからな。ギルド側も驚いていたよ。特に今回は怪我人が大勢いたのもあって大変助かったとの事でいくらか上澄みしてくれたみたいだな。私の分はもう引いてあるから有難く貰っておくと言い」

「そうですね、今度受付の人にもお礼を言わないとですね」


 大河は袋から伝わる重みを喜ばしく思いながら体質的にこのような事が起こる事を不思議に思いながらも頬を緩ませた。けれど同時にこういう事があるとまた別でその幸せ税的な感じで近い将来に頭を抱えるレベルの不幸が訪れそうだなと思いながら、こういう幸せをしっかり噛みしめられない生活が基準となりつつあることに心の中で涙するのだった。









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