99話 王妃の帰還(後編)

 先頭には鎧に身を包み身長180cm程の隊長と思われ、心なしかやつれている様に見える兵士が1人。そしてその後方に薄桃色で菊の華紋様の着物に身を包んみ伊達兵庫の様に金髪の髪を後ろに束ねた煌びやかな女性とそれに続くメイド服の侍女が数名。更にその後ろに10人ほどの兵士が後進のように後を歩いていた。


 城の作りや服装なんかから中世の感じが強かったからてっきり王妃様ってのはドレスに身を包んだ女性みたいなイメージだったんだかまさかの和服の着物。これだと『王妃様』というより『奥方様』といった感じの方がしっくりくるな。けれどあの髪色。姉王女の様な黒髪ではなく金髪であるが故に服装に少々違和感が…


 10mくらいの距離に近寄ると戦闘の男は立ち止まり後方の着物の女性が近づいてきた。


「陛下、ただいま戻りました」

 

「ああ、ご苦ろ…お疲れ様。それと今は知り合いしかいないからそんなにかしこまらなくてもいいよ」


「そのようですね。随分と久しく感じます。エルノアとクラリスも」


「「お久しゅうございます、お母様」」


「少し見ない間に随分と…そんなに変わってなかったわね」


「お母さま!そこは嘘でも『とても立派に成長しましたわね』というところでしょう?」


「姉上も私もそういったプレイは求めていませんよ?」


「うふふふふ、御免なさい。貴女たちが可愛いものだからついからかっちゃった。うふふふ」


「も~」


 リーリアさんから聞いていた時点で高飛車で傲慢なイメージは抱いていなかったが予想していたよりおっとりしていると言うか、穏やかな感じの人だな


セレーネメイド長も久しぶりね。元気にしていた?なにも変わりはなかったかしら」


「いえ、実は国に関わることでご報告せねばならない事がございます」


 この間の仮面の男の件だろうか?殆どの住民がパレードに夢中で気付かれる事はなかったみたいだが確かに王国側にしてみればあれだけの城壁で守られているにも拘らず敵の侵入を許してしまったのだから大事件か


「あら、そんな凄い事があったの?」


「ああ、実はな…」


「赤ちゃんが出来ました」


 王が先程までの気の抜けた表情から一転、少々重々しい感じで話を切り出そうとした時、思いもよらないセレーネのその一言によってその場の全員が時間が止まり、一時の静寂が訪れた。


「まあまあ、それはおめでとう!それでそれでお相手の殿方はどんな方なのかしら?私も是非友人としてご挨拶申し上げたいわ」


「そんなの…決まっているじゃないですか」


 そう言うとセレーネは少しだけ頬を朱に染め、潤んだ瞳で愛おしそうに国王へ視線を向けた。


「…メイド長よ、何故私の方を見るのだ?」


「嫌ですわ陛下。いえ、ルブノス。そんな事分かり切っているではありませんか」


「…言いたい事はあるがその前に仮にも一国の王たる余を呼び捨てにするとはどういう了見なのだメイド長よ」


「普段はそんなことに気になさらないのに突然どうしたのですか?そして何故そのようなよそよそしい呼び方をなさるのですか?」


「私には先程から君の発言内容が全く理解できないのだが」


「そんな!あの時私に言ってくださった言葉は嘘だったのですか!?」


「どの事だが全く記憶にないんだが?」


「そんな…私の居ぬ間に陛下が…私の夫が親友のメイドセレーネと浮気していただなんて…うぅ~あんまりだわ!」


「………」


「仕方がなかったのです!所詮一メイドにすぎない私に陛下の誘いを断ることなど」


「………」


「アナタ!アナタは私とセレーネ、どちらを選ぶんですの?」


「そうです!ちゃんとどちらか決めてくださいまし」


 な、なんだ…この茶番は?


「いや、まあ普通にシャルディア王妃を選ぶのだが」


「そ、そんな。全くためらうことなく捨てられるなんてあんまりです!」


「そうよ!そんな簡単に決断してしまうなんてそんな軽い気持ちで貴方は浮気をしたというの!」


「選べと言ったのはシャルディアであろう?それとそろそろ辞めにしないか、この茶番劇」


「はぁ~相変わらずノリが悪いですね陛下は」


「そうですよ、私が帰ってきたお祝いにせっかく面白そうなシチュエーションをセレーネが提示してくれたというのに肝心のあなたがそれでは盛り上がりに欠けますね」


「お祝いというのであればもっと別の物でよいだろう」


「あら、私は楽しかったですよ?」


「そうそう、愛する妻の幸せの為ならば身を削って体を張るのが真の夫というものです」


「文字通り削られているよ…精神的なものがゴリゴリと」


 目の前で繰り広げられるやり取りを見て大河は理解した。タイプは違うがそれでもこの会話しているだけで人の生気と削り取っていく感じ。この人はシャルディアれっきとしたクラリスやエルノアの母親なのだという事を弄られて『もう勘弁してくれ』みたいな感じで溜息を吐くルブノス国王を見ながらしみじみと感じるのだった。

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