100話 女王様は歓喜する(前編)

「はいはいはい、帰ってきたばかりなんだからそれくらいにしてやれ」


「あらマルグレアにブライト、ミクスとリーリアも。貴方たちも来てくれたの?嬉しいわ」


「まあな」


6集まるなんて懐かしいわね。あら?そちらの男の子は初めて見る顔ね?」


「ああ実は…」


「イマムラ・タイガ!ただの居候です!」


陛下に下手に喋らせたらまた『婿殿』とか言いって場が混乱しかねないからな


「まあ、そうなんですか。私はてっきりなのかと思いましたわ」


何言ってんの?会って早々に何言ってんのこの人!?とても高貴な身分のご婦人の口から出たものとは思えない単語がさらっと混入されていたのですが!?この方本当に国の頂点に立たれている王妃様なんですか?実は王妃様そっくりの偽物さんだったりしませんか?


「大丈夫です、自分は明日には王都を出ようと思っているので」


「は、初耳なのだが!?」


「す、すいません。急に決まったことで」


「あたしの武器の修理も完了したから、そろそろボチボチクエストをこなしていかなきゃならない。大河には短期間の間に最低限教えられることは教えたし、冒険者としてやっていくなら一から始めるためにもあそこに送った方がいいと思ってな」


「ということは場所は…」


「ああ、始まり街・リボーン」


 大河は数日前にある程度自分の身の上をブライトたちに話した上でこれからどうすればいいかを尋ねていた。ブライトたちは王都拠点としてやっていくには付近のモンスターの強さやクエストの難易度的にも今のタイガのレベルで冒険者をやっていくの厳しい…というよりそもそも受けられるまともな依頼が殆どないだろうと指摘した。なので色々と危険リスクを承知で王都で冒険者活動を行うか、他の地で冒険者活動を始めるかの2択を迫られていた。


 他の地でスタートするのであればリーリアやマルグレアが転移魔法で送ってくれると言われたため、これまでのことを考慮して大河は新たな地で一転、冒険者活動を始めることを決めた。


「そ、そうか。寂しくなるな」


「報告が遅れてしまい申し訳ありません」


「いや、いいのだ。できればずっといてもらいたかったが」


何故かは…考えないようにしよう。うん


「そ、そんなー!私と姉上を新たなる頂に連れて行ってくれるのではなかったのか同士よ!?」


「ちょっと何言ってるのかわからないですね王女様」


なんだろう。よくわからないけどちょったスッキリするな


「お父様、私たちにも旅に出る事をお許し下さい」


「その件はこの間無理だと話したであろう」


「お母様、お父様が意地悪します」


「お母様からも何とか言ってくださいませ」


「そう言われてもね~」


コレがタイガ王都を出る事を許可されているのに私達が駄目だなんて納得いきません」


「そもそもタイガ君はうちの子ではないから許可など必要ないだろう」


『今はまだ』とか意味深な言葉使わないで!未来永劫『まだ』のままでしょうから!!


「でも私たちの奴隷ですよね」


「ちょっとまて、何の話だそれ」


さらっとなんてこと言ってんだこの馬鹿王女。この母にしてこの子ありってか?なんて怖い血筋なんだ…


「うぅ~、お母様~」


「そんな顔をしないで。何か他のことで…」


 ふとシャルディア王妃と大河の目が合った。するとシャルディアはおっとりした表情から何かを考えこんだ表情で真剣にこちらを見つめだした。


え?何?


「陛…


「何だ?」


「貴方が城への滞在や娘たちとの接触を許可しているということは


「ああ、その解釈で大丈夫だ。私は彼を信頼している」


その信頼とやらは一体何処から湧き上がってくるんですかね?


「そう…」


 先程まで穏やかを通り越してどこかふわふわした雰囲気を纏っていたのが一転、無言で真っ直ぐに向けてくる視線のそれは元々の顔つきのせいか軽く睨んでいる様にすら見えた。ただ見つめられているだけなのに大河の背中にヒヤリとした感じが走った。


勿論その視線に怒りや憎しみなどが込められていない事は分かってはいるが、美人な上に元々目つきが鋭いのこともあり、微笑んでいたさっきまでと比べ真顔になっているだけで普通の人を怯ませるだけの迫力があり、大河も先程のギャップも相まってその表情に息を飲んだ。


「そう……なら大丈夫ね」


 自身の中で何かを納得してから王妃の表情がやんわりとしたものに戻り謎のプレッシャーから解放され大河はほっとした。


「ねえ、タイガさん」


「な、なんでしょうか?」


「よかったら貴方の冒険に娘たちを一緒に連れて行ってもらえないかしら」


「………」


王妃の口から飛び出した突拍子もない申し出に大河の脳内は一瞬でフリーズした。


イマ、コノオカタハナンテイイマシタカネ?トンデモナイハツゲンナキガシマシタガ、ボクノキキマチガイデショウカ?


「申し訳ありません王妃様、どうやら最近耳の調子が悪いものでして。お手間をかけさせてしまい恐縮ですがもう一度お聞かせ願えますでしょうか」


「よかったら貴方の冒険に娘たちを一緒に連れて行ってもらえないかと尋ねたのよ」


一緒?王女を?王女を?…誰が?俺が?


「タイガさん?」


「!」


考えろ…何とか上手いい訳を考えるんだ。そうしないと冒険者生活が始まる前から詰んでしまう!


「一国の王女様が旅立たれるというのに私のような経験の浅すぎる者では護衛はおろか足手まといにしかなりません。ですのでもし旅立たれるのであればもっとしっかしとした実力の方をお供に付けたよろしいかと」


「大丈夫よ、リボーンはモンスターアベレージも低いし、そんなに心配はいらないわ」


「ですが万が一という場合もあります」


「この子たちは戦闘経験はないけれどそれぞれ魔法や化学器具を扱えるから大抵の事態には対応できるはずよ」


俺要らなくない?


「…それでしたらわざわざ自分なんかと一緒でなくともよいかと」


「流石に娘2人だけというのもね…だけど王都から出せる兵士は各地にほぼ出し尽くしてますし、私に付ける護衛ならまだしもこの子たちにとなると信頼面の問題がね」


俺にもその信頼が足り得ているとは思えないのですけどね


「自分は最近冒険者になったばかりの新米でして、王女様の邪魔になる事はあってもお役に立てることはないかと」


「そんなに謙遜しなくてもよいのですよ。仮にもブライトたちの指導を受けているというのであればある程度戦闘技術は身についている筈です」


ここだ!ここしかない!お願いしますマルグレアさん!どうにか俺を役に立たない新米だと訴えて下さい!


 大河は後方のマルグレアの方を見て必死に目で訴えた。大河の心情を悟ったマルグレアは小さくokマークを作って意思を伝えた。


「実はな、そいつは…」


「うむ、その子はなら充分だろう。なあ、マルグレアもきっとやっていけるだろうと言ってたもんな」


「あ、ああ。そうだな」


 ~すまない~


 自信満々に笑うブライトの横でマルグレアが申し訳なさそうにする表情からそんな感じの言葉が伝わってきた。


ブライトさんのアホぉ!!アホ!アホ!アホオォォーー!!空気読んでくださいよ!!


 大河の焦る気持ちなど知る由もないブライトは大河の方に顔を向けると親指立てて『ちゃんと推薦しといたからな』とでも言わんばかりの表情でにかっと笑った。


あ、あの満足げな顔でドヤ顔を今すぐにでも張り倒したい!


「ほら、ブライトたちが太鼓判を押す出のであれば大丈夫だわ。もっと自分に自信持って!」


「ワァ〜アリガトウゴザイマス。トッテモウレシイデス」


おかしい…本来なら励ましのありがた〜い言葉の筈なのに感動とは別の意味で涙が出そう。いやいやいや、まだ諦めるな。きっと何か他に方法がある筈だ何か…!


 諦めかけた時、大河の脳裏にある一つのことが思い浮かんだ。


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