98話 王妃の帰還(前編)
大河がブライト達から指導を受ける事1週間。慌ただしく目まぐるしい日々もあっという間に過ぎ去っていった。そして大河も迷いや葛藤を抱えたまま朝を迎えていた当初とは違い、体に蓄積された肉体的疲労を感じながらも爽やかな気分で朝日を迎えることができるようになっていた。そして今日も身支度を整えて食堂へと向かった。
「おはようござ…て、ええぇ!?」
「ああ、お、おはようタイガ殿。今日もいい天気だな、はっはっはっ」
彼の言った通り確かに本日は雲一つ無い晴れやかな晴天ではあるが対照的にルブノス国王の顔は曇っていた。目元には薄っすらクマが出来ており、何か呪いでも掛けられたかのようにゲッソリとした感じでやつれていた。
「な、何があったんですか?」
「んん?別に何もないぞ。私はいつも通りだというのに可笑しなことを仰るな。アハハハハハ」
「そ、そうですね。よく見るといつも通りの陛下ですね。疲れてるのかな、アハハハハハ」
陛下の隣にいたエルドに『あまり追及しないでほしい』みたいな感じで軽く頭を下げられたので、ルブノス同様乾いた笑いをして見なかったものとして流すことにした。
「あれ?王女様方はまだなんですね。昨日あれだけ楽しみにしていたものですからてっきり朝一番に来て今か今かと待っておられるものかと思ってましたが」
「ああ~、恥ずかしながら母親が帰って来るのが楽しみ過ぎて夜に眠れず朝方になってから眠ってしまっているみたいだな」
遠足前の小学生かな?もしかして陛下も…いや、流石に寝不足だけじゃなさそうだなあの疲労感漂う感じは。それになんとなくだがこれから事に憂いている様に思える
大河がルブノス国王の異変を気にしていると最近見慣れた面々が扉を開けて入ったてきた。
「あれ、ブライトさんたちどうしたんですか?今日は休みだと言っていましたし、てっきり会わないのだと思っていたんですが」
「私が呼んだのだ。一緒に朝食でもどうかと思ってな」
「陛下、相も変わらぬご健在ぶりに嬉しく思います」
「一週間前に会ったばかりであろう。というかここには私達しかいないのだからそのかしこまった喋り方はやめてくれ」
「そうだな、正直やっていて気持ち悪いしな」
「はっはっはっ!堅苦しいのは身体に悪いからな」
「陛下と親しい間柄ではない俺らは心臓に悪いっすけどね」
「ブライトさんたちと陛下は随分親しい間柄なのですね」
「ああ、古くからの友人なのでな」
「というかそっちこそもうちょっと気楽にしたらどうだ?私らしかいないんだから」
「いや、流石に…」
ルブノスはチラッと大河の方に視線を向ける。
「別に俺でしたら気にしませんよ」
寧ろ砕けた感じの方がこちっも助かる
「そうか、それならお言葉に甘えてそうさせてもらうよ。はふぅぅ〜」
背筋をピンと伸ばしていた姿勢からテーブルに顎を置き、手をだらーんとぶら下げ、まるで空気の抜けた風船のように力を抜き、まさに完全脱力体勢ならぬ堕落体勢となり、先程までのあったであろう威厳的なものは吹き飛ばされた。
「本当にON・OFFの落差が激しいな」
「国務がベリーハードからね」
「大変だな。しかしそれはお前が奮起している何よりの証拠。いい事だ」
「まあ、今くらいは一国の王である事を忘れて寛ぎなさいな」
「ありがとう。けど僕を気遣ってくれるのならこの立場を変わってもらえないかな?僕が国王とかがらじゃないにもほどがあるんだけど」
気を抜いているとはいえすごいこと言いだしたぞこの国王
「ああ〜なんてことでしょうか。国の中でも限られた者しかその座には着けぬというのに、その地位を個人の私的な理由で放棄しようとは。我らが王様ながらなんと嘆かわしいことか」
マルグレアさん、言っていることはまともだけど言い回しの小芝居臭が…
「確かに私的と言えば私的だけどさ」
「そもそも私のような一般庶民に過ぎない者にどうしてその座を受け継ぐことができましょうか」
「マルグレア、君は仮にも侯爵夫人であり最上級の冒険者なんだよ?どう考えても一般庶民ではないからね?そもそも僕は本来王になんてなれる立場でも器でもなかったんだし、それがマルグレアになったところで大差なかったでしょう?寧ろ君みたいな力があり、国民からの名声を多く集めている者が国を率いる事こそが本来あるべき形であり、今すぐにでもこの座を退いて譲り渡す事こそが僕が今一番にすべき仕事だと思うんだ」
「偉く御大層な建前は置いておくとして本音は?」
「のんびり野生過ごしたいので変わって下さいお願いしま…「断る」…ですよね〜」
「仮にお前の言う通りだったとしてもそんな堅苦しい地位に身を置くなど考えただけでも寒気がする。自由な時間も限りなく0になりそうだしな」
「うぅ~、リーリアやミクスでもいいんだよ?君らだって国民からの支持率とかならマルグレアとかと大して違いはないだろうからさ」
「む、無理です!私なんかじゃとても務まりませんよ!」
「…度を越した冗談…よくない」
「みんな即答…はあぁ〜。もうちょっと考える素振りくらいしてくれてもいいと思うんだけどな」
正直この会話の内容を国民に聞かせるだけで晴れて王の座を失脚できるような気もするが
大河がなんとも言えない気持ちでやり取りを見つめていると4人の中で唯一名前を挙げられていないブライトが名乗りを挙げた。
「国を導くのも大変だな。ふむ、ならば私が数日だけ変りを務め…」
「「「それだけは絶対に駄目(だ)!!!」」」
大河とブライトを除くその場にいた全員が必死に否定の意思を示し、ブライトは良かれと思っての事だったにも拘らず猛反対の様相に戸惑った。
「な、何故だ!?というかどうして皆してそんなに全力で否定するんだ!?」
「当たり前だこのアンポンタン!いくら下の連中が優秀でも上が無脳だとどうなってしまうのかなんて深く考えなくてもわかるだろう」
「面倒臭いからと自分の仕事を丸投げするだけの飾りの王様ならまだいいでしょうが、内容が理解できていないに拘らず安易な気持ちで簡単に
「その結果、楽をするどころか仕事が何倍、何十倍にも増量された上で結局後始末に追われるのがオチだろうからね。僕を気遣ってくれた心遣いだけは受け取ってその他は聞かなかったことにするよ」
「むむむ、そうか…色々と引っかかる点はあるがお前がそう言うのであれば仕方ないか」
一通り話をし、朝食が運ばれてきた頃、地鳴りのような音を響かせて近づいて来る足音が聞こえてきた。
「「お母様~!!」」
「お、おはよう2人とも」
「おはようございます父様!母様は!?お母様はもう戻られましたか?どちらにおいでですか!?」
「ああ~、楽しみにしていたところ悪いけれどまだ到着していないよ」
「…そうですか」
「残念です」
王妃がまだ来てない事に露骨にがっかりする王女姉妹。因みに落ち込む2人の後ろにはいつかのように引きずられてズタボロとなっている2名メイドの姿あった。
「まあ、直に来るだろう。とりあえず2人とも着席しなさい。メイド長、後ろの彼女らに
メイド長は哀れな犠牲者の介抱に。そして陛下は娘の目の前だからか脱力モードから正常モードにチャンジしていた。
「ああ、母様。母様」
「早くこれらないかしら」
人に迷惑をかける変質者に比べればマザコンなんて可愛いものだと思うけれど、なんていうかアイドル追っかけのストーカーみたいに見えるな。今のあの2人は
「王妃様ってどんな方なんですか?」
「どんなか、うーん……そうだな、少し変わっているがいい奴だぞ」
「………」
ブライトさん自体が結構変わった人だからな~。自覚無しの同族か、それともブライトから見ても特殊なブライトさん以上の変人か。或いは一周回ってブライトさんから見たら変人と思えるほどの超真面目な常識人か。出来れば最後の方であれば有難いけど…他の人にも聞いてみるか
「あの…リーリアさんにから見て王妃様はどんな人ですか?」
「そうですね…高い知性と教養を持ち、王族でありながら誰に対しても分け隔てなく接してくださる方ですね」
う〜む、わかりやすく見事なまでの褒めっぷり。少なくとも説明からあの人が人格者って事は間違いなさそうだな。けれどだとしたら一体何故陛下は…
「そうなんですか。やっぱり素晴らしい方なんですね」
「ええ、それはもう…」
「それで性格とかはどんな感じの方ですか」
「………」
「………リーリアさん?」
「と、とても個性的な人ですね」
明らかに言葉を濁しているな。これまで指導を受けて来た感じ、常識人ぽいリーリアさんがそういう言い方をするという事は
情報を纏めると人格は素晴らしいけれど何か大きな問題点があるらしい
「あ、来ましたわ!」
エルノアが叫んだその先には人組の集団がこちらへ向かって歩みを進めていた。
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