97話魔力肺起動と魔力放出(後編)
タイガが新たな力に歓喜している中、リーリアは大河が無事自身に流れる魔力を感知出来たことに安堵していた。
(よかった。どうやら第一段階はクリア出来たみたいですね)
時代が進む毎に化学同様発展してきた魔法だが、そもそも人が魔法を使えるようになるためには3つの必要条件があった。
1つ目はその身に魔力を有していること
2つ目は自身の身に有している魔力を感じ取る事が出来ること
3つ目は魔力を体外へと放出できること
通常上記の3つが可能になってはじめて魔法を扱えるようになるかどうかが判明する。例えその身に魔力を宿していても認識できず、魔力を扱えないがために魔法を使用できない者たちもいるため、大河が必要なハードルの一つを乗り越えられて安心していた。
(これで後は…)
「それではそろそろ次のステップに進みましょうか」
「確か次は魔力放出でしたよね。どうやるんでしたっけ?」
「………魔力放出…は、体内魔力…掌、に…そして、放出」
「えっと…手に魔力を集約させてそのまま放てばいいんですかね?」
「ええそうよ、手からこう…”シュッ”って出す感じ」
「バ~カ、変なこと吹き込んでじゃねーよ。魔力の放出ていったら”バーン”だろうが」
「馬鹿な会話はそれぐらいにしとけ二人とも」
「魔力の間隔は人それぞれ、自分の間隔を強要するのはよくありませんよ」
「タイガ、とりあえず最初は何も考えずにやってみろ。何となくでいい。難しいかもしれんが自分んが良いと思った感じに素直に従ってみろ」
「は、はい」
(具体的な指示というか、指針みたいなのがないとやりずらいな)
「…とりあえずやってみますね」
言われた通り大河は正しいかどうかわからないまま、何となく手に魔力を集中させて軽く吐き出す感じでやってみた。すると青色の何かが掌からマッチの火のように小さく揺らめいて吹き出ていた。
(で、出た!これが…)
「成功ですねよ!?」
感じ取れてはいたがまだ目視できなかった自分の中に宿った魔力というなの新たな力。それを実際に確認することが出来て大河は喜んだ。
「はい、おめでとうございます」
(これならスキルを解除出来れば初級魔法くらいは扱えそうですね)
「やったじゃないタイガ君」
「は、皆さんのお陰です。ありがとうございます」
皆がタイガの成功に喜んでいる中、マルグレアは一人浮かない顔をしていた。
「ああ、喜んでいる時に水を差すようで申し訳ないんだが、ぶっちゃけいうと失敗だわ
「え?」
「普通の奴が最初に行ったのであればそれぐらいのもんだし、初めてにしてはよくやったと言いたいとこなんだけど、タイガの魔力量を考えると放出されている魔力が少な過ぎる。本来なら今出しているソレの軽く10倍ぐらいは出せないと成功とは言い難いな」
「そ、そうですか」
「とは言っても少量とはいえ魔力を体外に放出することには成功したんだ。初めてにしては上出来だ。後は慣れ、それから意識というかイメージの問題だな」
「イメージですか?」
「ああ、魔力を扱う上では自身のイマジネーションが魔力コントロールに直結すると言ってもいい。例えばさっきこの2人が言っていた『シュッ』とか『バーン』とかもこいつらが魔力を扱う上での重要な感覚であり、魔力放出の際の一種のトリガー的要素になってる」
「魔法を使えるようになる為に必要な最後の工程であり、最も難しい部分とされています」
「とりあえず今度は私に向かって魔力が届くようにイメージしてやってみろ」
「マルグレアさんまで届くようにですか?」
「そうだ。そしてその際にちゃんと届くようにさっきよりも魔力を強く押し出すことと。その為に魔力の流れを早めるように意識して掌により魔力を集約させること。これらを明確にイメージしてやってみろ」
「そうだ、カエルが水を吹き出すみたいな…」
”ゴオォーーン!!”
「痛ったー!」
「そんなチンケなイメージで初心者が魔力を飛ばせるわけないだろう。そうだな…敵に襲われそうになってるのを想定して相手を体ごと吹っ飛ばすイメージで『放出』って叫んでやってみろ」
「え?でもこれって呪文を唱える必要はないんじゃ?」
「確かになくても放出すること自体は可能だ。ただどんな魔法でも詠唱は兎も角、呪文を口にするのとしないのでは威力が変わる。口にする言葉が発動のトリガーみたいな要素となってイメージに大きな影響を与えるというか、呪文を口にした方が単純に術者のテンションも上がるからな。無口でやるよりも成功しやすい筈だ。とりあえずやってみろ」
イメージ。掌に魔力を集中させてマルグレアさんまで届くように一気に噴出するイメージ…そして敵、敵…
敵をイメージした瞬間大河の脳裏に昨日対峙した仮面の男、魔王軍副魔将イビルザード浮かんだ。大河は反射的に後ろに下がった。
「どうかしたか?」
「い、いえ。何でもないです」
(落ち着け、まずは呼吸を整えよう)
「すうー、はあ~」
大河はマルグレアをイビルザードと仮想し、彼女に言われた通り襲われそうになっている状況を想像した。その瞬間防衛本能から全身の血が湧きたつのを感じた。それと同時に今までには軽やかに循環していた全身の魔力が呼応するように急速にその流れが加速していった。そして…
「放出!」
「ちょっ、大丈夫!?」
「凄い勢いで後ろに転がってったな」
「だ、大丈…うっ!」
「どうしたの」
「ちょっと手と…腕が」
先程までは初めての魔力起動により軽く赤みががっていた皮膚が薄っすらと青白くなっており、腕から掌にかけては紫色に変色していた。
「恐らく一度に多量の魔力放出を行った事によって大きな負荷がかかったのだろう」
「腕はさっき始めたばかりの魔力循環を一気に急速に早めたせいでしょうが、手の方は現在のセーブラインを超えた魔力を集めすぎ、尚且つそれを一気に放出。どちらもタイガさんの限界以上を易々と超えて行ってしまったため二重で負担が大きかったんでしょうね」
「とりあえず治療するぞ」
「
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「手の調子はどうだ」
「お陰様ですっかり元通りです」
「それは良かった」
「それにしてもびっくりしたわね」
「あれだったら俺が言った通り水鉄砲のイメージでよかったんじゃないか?」
「今回に関しては何も言えんな。すまんタイガ」
「いえ」
「俺にも謝罪しろよ!」
「だが大抵の者はイメージ不足だったりと色々な理由で失敗する者が多いのでな。ハッキリ言って失敗すると思っていたんだ。悪いな」
「無視すんなよ!」
「ですが正直どうコントロールすればいいかイメージが湧きません」
「これに関してはイメージどうこうではなく感覚の問題だ」
「感覚…ですか」
「さっきのパンチと一緒だ。言っただろう、どんなに強い力を持っていてもそれを使いこなせるかどうかは本人次第だと。何度も放出を繰り返しながらお前が自分でベストと思える間隔を探すしかない」
「そうですね」
「まあ力の調節は難しいものだが、調整だけなら積み重ねていけばなんとかなる。複合的なものでもないからその内両方とも身に付けられるだろう。なにより今回のことでタイガは魔術師として向いていることも分かったしな。少なくともこのせっかち2人組よりは」
「ちょっ、それどういう事だよ!」
「そうよ!しかもこいつとセットになんかしないでよ」
「んだとこのクルクルパーマ!」
「何よこのギザギザヘッド」
「止めろ馬鹿ども。そういう短慮なところが向いてないと指摘しているんだ」
「…自分だってすぐ人の事殴る癖に」
ゴオォーーン!!
「~~~っ!!」
「何か言ったか?」
「な、何でもねーよ!」
「はあぁ、今回色々実験的な意味もあってお前らにそれぞれ役割与えてやらせてたんだよ。まあ、重視ししてたのがミクスとタイガだったのは確かだがお前らもお前らもでそれぞれ見てたんだよ」
「何か意図があってやってんだろうなとは思ってたけど私達に関してはただ楽しんでただけでしょう」
「まあ、楽しませてもらっていたのは確かだったが」
「ほら、やっぱり!」
「だがお前たちには台詞がなくなったら一切喋らないようにと指示していだろう」
「そんな事!?」
「そんなの瞑想の時とかに嫌ってほどやってんじゃん」
「お前の言う『そんな事』が出来ていなかったのはどこの誰だ?それに瞑想にしたって両者ともじっとしているのが苦手だから長続きしない上に対して集中できていないだろう」
「だからってわざわざこんな事までしなくても」
「別に今のは魔術に限った事だけの話じゃない。想定がの事があるとすぐ慌てふためいて冷静さを失うところとか思考が短慮過ぎるところかな」
「ブライトだって単純思考してるんですけど?あっちの方を何とかしなよ奇行含めて」
「奇行はもう手遅れだろうから知らん。だがコイツの場合は単純に見えても今までの経験則から即決したり、色々考慮した上での行動だ。単純に見えるのは単に魔術を殆ど使えないから選択の幅が狭く、毎回解決方法が力技とかに偏っているからだろう」
「うぅ~何か納得いかない」
「大体、武術メインのブライトと魔術をメインとしようとしているお前らとでは必要な要素がまるで違うだろうが」
「くっ!」
「それにお前たちの言っていた事が正解だったとしても今日のやり取りを見ていた限りでは、お前ら2人がタイガと比べて落ち着きがまるでないのは確かだ」
「そんな事ないわよ」
「終始平静を保とうと静かにしていたタイガと場の沈黙に我慢できず叫び散らす2人。どっちの方が役目を全うしていかは一目瞭然だったと思うが?」
「分かった、分かりました。私がまだ未熟でした。でもこのギ・ザ・男・よりは私の方が上だからね」
「よくそんな勘違いができるなこのクルクルパーマは。冗談はその髪型だけにしてくれ」
「何よ」
「何だ」
「やめろ、やめろ。ドンリグの背比べは。って事だからお前には魔法を扱う素質はあると思うぜ。結晶魔石の方が出来たらお前でも習得できそうな魔法を教えてやるよ」
「ありがとうございます」
それから大河は1週間ブライトたちから魔法や武術などの指導を受けたのだった。
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