166話 やはり彼女は不運に好かれている(前編)

 明かりが無い部屋の薄暗さに月明りの光が差し込まれ部屋を照らす。その光に当てられて薄っすらとしか見えなかった彼の顔が肉眼で捉えられる程に露となった姿を見て私は愚痴を溢す


 どうしてこうなった?


 肉体以上に満身創痍の状態となり上手く思考が回らない頭で色々と自信を納得させる言い訳を見つけようとするも見つけられず溜息を溢れる。そしてあえて再び同じ言葉を言おう


 どうしてこうなった?


 数時間前。ギルドを出てから一時間。彼女、ナイトメアはギルドの入口横でまるで銅像のように只々その場に立ち尽くしていた。背に抱えた彼を返す手がかりが消えたため思考放棄に陥った彼女は無心となる事を無意識に選択していた。


 できることならばそのまま大河が目を覚まし問題消滅となるまでそうしていたかった彼女だが、元々の目立つ風貌でずっと立ち尽くしているものだから注目を浴びないわけがなく、雑踏の中から増加し続ける視線が彼女を現実へと引き戻させることとなってしまった。


 しかし思考が戻ったことによって直面するのは当然背中の荷物大河。彼をどうするかといった問題が突きささる。悩む。悩む…が、答えは出ない。時折彼女の中の悪魔が


『~だからいいじゃない?もうそこらへんに置いっても問題ないでしょ。どうせどこでも一緒なんだから』


 といった感じで彼の不法投棄を囁いて来る。正直その誘いに乗ってしまえるのならどれだけ楽だったか。出会って数分程度の間柄ならその選択肢も実行可能だったのかもしれない。


 けれど僅か2日とはいえ濃過ぎる経験の中で共に助け助けられを繰り返し、苦難を乗り越えた間柄となってしまった今現在、その辺に放置してその場を去る無慈悲な行動は彼女にはとれなかった。


 なので彼女の選択肢は『近くの宿泊可能な所に彼を預ける』の一択となった。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「誠に申し訳ありませんが本日は全部屋満席となっております


「ソ、ソウデスカ」


 宿泊所に着いて部屋を取ろうとしたが空き部屋がなく早々に後にする事となった。


 まあ宿は他にもあるし他をあたるか


 切り替えて次の宿泊所へと足を運び出したナイトメア。けれど彼女の体質のせいかここでも不幸の運命がナイトメアを翻弄する。


「すみません。今日はお部屋が全て埋まっておりまして」


 ここもか…


「すまんが全部使用中だ。他を当たってくれ」


 ここまで満席が続くとは珍しいわね


「先程来られた方が最後の一部屋を…」


 ま、まあまだ他にも宿はあるし………


 けれどその後訪れた所でも同じくお断りをされ続けた。


 何で!何でこんなにいくつも回っているのに部屋の空きが一つもないの!?私がいくら不幸体質だからってこんな事ある!?…そういえばこの子も似たような感じだったけどまさか本当に私とタイガの不幸がかけあわさっているとか?にわかに信じ難いけどこの現状だと…けど、だからってこんな事有り得る?


 目の前で告げられる非現実的な現象の連続に呪詛を吐き捨てながら歩みを進めるが訪れる度に同じビデオテープを巻き戻して再生するかのようにほぼ同じように断られた続けた。そして…


 こ、ここが最後の…いや、これだけ回ったんだ。空き部屋の一つくらいきっとある筈よ。そもそもこれまで全て満席だったんだから寧ろここは一部屋も埋まってなかったとしても不思議じゃない!だからきっと大丈夫!それにここってリボーンだと豪華で結構値が張る分そこまで宿泊者は多くない筈。手持ち分だとギリギリだけどこの子だけならなんとか…


 最後の望みをかけてその施設の扉を開いた。中に入ると外見に劣らぬ煌びやかな内装が施されており、並べられた美品などからも質の高さが窺えた。


 よし、このレベルならやっぱり部屋の空きはきっとある!


 自身に言い聞かせるようにしながらフロントへと足を運ぶ。すると一人の男性がこちらに問うてきた。


「いらっしゃせお客様。わたくし当ホテルの従業員をしております、ホフマンと申します………えぇっ、本日はどのようなご用件で?」


「ヘヤハアイテイルヨナ?」


「…本日はかなりの団体様がお泊まりになりほとんど埋まっております」


 こんな時に団体なんて。本当につくづく…


「まあ、一部屋だけ空きが御座いますが…本当にお泊まりになさるので?」


「モチロンソノツモリダガ?」


「はぁ、そうですか」


 ナイトメアの服装などから訝しげな視線を送るが疲弊していた彼女にはその視線の意図を理解できなかった。


「ちなみに当ホテルの宿泊費用がいくらかはご存知でしょうか?」


「一泊十万〇〇くらいだったと思うがそれがどうかしたか?」


「いえ、失礼。それではまず料金の支払いを…」


 ホフマンが渋々ながら〜しようとしたその時だった。ホテルの部屋の扉からいくつもの指輪や装飾品を見に纏った20代くらいの男が両脇に同世代と思わられる女性を侍らせながらゆっくりと入場した。その姿を確認するやいなや受付にいた彼は素早く青年の元へと駆け寄って行った。


「これはこれは〇〇様、ようこそおいで下さいました」


「うむ、出迎えご苦労。部屋は勿論空いているよな?」


「空きはあるのでございますが…」


 〜ながら邪魔者を見るかのような視線をナイトメアに向ける。〇〇がその視線に気付き事情を察すると口角を吊り上げた。


「ところでホフマンよ、先程小耳に挟んだ情報によれば本日は盛況のあまり宿代が3倍以上になっていると聞いていたのだが本当か?」


 何だ、その話?そんなデタラメな話し…


「ええ、そうなのですよ。勤務している我々としては誇らしいことではありますがあまりに宿泊希望のお客様が多く、そういった形でお越しくださるお客様を制限せざる得ない状況となっておりまして」


「ふん。元々ここの値が安すぎたのだ。これだけ外見も内装も立派に作られた物であれば繁盛云々を除いても値を10倍くらいに吊り上げて当然のものだ」


「そこまで評価してくださるとは大変恐縮であります」


「ほれ」


 〇〇は懐に手を偲ばせると一つの袋を取り出しホフマンに手渡した。彼は中身を確認すると驚きのあまり目を大きく見開いた。


「ま、〜様!金額をお間違えではありませんか!?」


「先程申したであろう?ここの相場はそれくらいが妥当、と」


「し、しかし本当に10倍も払って頂く必要は…」


「我輩に一度出した金を引っ込めろと?そのような卑しい行為を本当にさせるつもりか?」


「い、あの…ですぎたまねを致しました」


「きあぁっ!〜様、太っ腹!」


「素敵ですぅ〜」


「ふん、この程度当然だ。ところでホフマンよ、アレは何だ?」


 汚物でも見るような目で人差し指をナイトメアに向けて付きける。


「はぁ、実はご宿泊希望のお客様だったのですが当店の費用を正しく把握しておられなかったみたいでして」


 よくもまあヌケヌケと…


「客?今そなた客と申したか?あの服装から風貌にいたる全てが場違い甚だしいとしか言えない見すぼらしい者らがここを利用しようとしていだと?ふん、サービスの質は最高だが比例してジョークのレベルは低いようだな」


「キャハハハハハ!モルド様ったら。本当の事もそんな風に言っては失礼ですよ。本当の事ですけど」


「貴女も変わらないじゃないの、ウフフフ」


 モルドらはそのままナイトメアらを見下しながら奥の方へと向かって行った。その直後ニヤニヤとした表情を隠しもせずにホフマンが近づく。


「誠に申し訳ありませんが満室となっしまいました。ですので他の宿泊先をお探しいただけますでしょうか」


 結局後にすることとなり、ホフマンの下卑た笑みだけが脳裏に焼き付く結果となってしまった。









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