162話 VSラブコング4

 ラブコングの豪快な返しを食らった大河は吹き飛ばされて後方の木々に力なく前のめりに倒れ込むように崩れ落ちた。


 うっ、よりによってあのタイミングで失敗するなんてこれも幸運値のマイナスのせい、あのクソ神に関わったせい………いや、この言い訳はさすがにずるいか。これはじゃなく、だもんな。


 そう、元々碌に成功してなかった事を考えたらこれは偶々でも何でもない当たり前の確立通りの事が現実になった。ただそれだけの事だもんな


 強烈なダメージで薄れそうになる意識の中で賭けに敗れた事による敗北感と共に大河の心に諦めの色が浮かび始めてしまっていた。


 師匠らに色々教えてもらったのにこのざまとはな。けどまあ、やれるだけの事はやったよな、俺。だったらもう…


 ダメージの蓄積によって視界がぼやけて精神的にも崩れかけていたその時だった。霞がかった大河の視界に驚きの光景が目に入った。なんとナイトメアがラブコングと対峙していた。痛めた足を引きずりながらも大河の方へと向かわせないようにと彼への道を塞ぐような形で立っていた。


 そうだった、今は一人じゃねーじゃねーか。勝手に沈むなんざ許されねえ。簡単にあきらめるわけにはいかねえ!ここまで道中散々世話になっておいて助けられっぱなしで終わって言いわけねぇだろおぉ!!


 先程まで動かなかった体が彼女の襲われそうになっているという状況を目の当たりにした瞬間、沈みかけていた気持ちを吹き飛ばし体中の血を沸騰させる勢いで全身に力を込めて気を向いたら倒れそうになるボロボロの体を奮い立たせて起き上がらせた。


 そして立ち上がると一目散に彼女の元へと走り出した。必死に駆けつけようとするその瞳にはラブコングの攻撃を凌いでいるナイトメアの姿が映る。一見捌けている様に見えるものの道中で魅せられた体捌きと比べて明らかにキレが無い。万全の状態であればあの凶暴化した獣が相手でもかわすと同時に勢いを利用してカウンターを放っていそうなものだが今の彼女には追撃どころかかわし続ける余裕さえない。


 やっぱり今のあの状態のメアさんにヤツの相手はキツ過ぎる!


 改めて状況を見て不利と判断した大河は近づきながら足元にある石を拾うとラブコングの頭目掛けて投げつけた。


 大河の事が頭から抜けていた奴は投じられた石を横っ面にまともに貰った。そして視線が石が投げ込まれた大河の方へと向けられた。その表情から大したダメージは与えられなかったがそれによってラブコングの意識をナイトメアから自分へと切り替える事には成功した。


 だが当然その行為は自身が攻撃の的となる事を意味しており、大河を捕捉したラブコングは大河目掛けて一直線に迫って来た。


 よし、乗って来たな。ならひとまず距離を取る!


 自分に狙いを変えた事を確認した直後ナイトメアから引き離す為に逆方向へと走ろうとするも思うように足が前にです絡まって転倒してしまう。後ろを振り返るとラブコングはすぐ側まで迫りながら拳を振り下ろそうとしていた。大河は咄嗟に前へと飛んだ。それとほぼ同時に拳は振り下ろされ大河はなんとか攻撃を回避し、転がった勢いを理止して起き上がった。


 大河は肩で息をしながら必死に思考を巡らせた。


 さて、どうする?メアさんから引き離す事にしは成功したがどうやってこいつを倒す?立ち上がったはいいが正直体はいよいよポンコツ寸前だ。それにそれを抜きにしたってバーニングフィストですら効かないとなると俺の攻撃でこいつを倒すのなんて。今だってコイツの攻撃をギリギリ避けるのでやっとだってのによ………いや、待てよ。


 焦りで気持ちが覆いつくされそうになっていたその時だった。大河がある事に気が付く。


 …ギリギリ避けるのが、やっと?さっきまでだってかわすのが精一杯だったってのにダメージで明かに動きの衰えた俺がギリギリながら奴の攻撃を凌げている?


 現状の矛盾に疑問を抱いた大河は繰り出される連撃の中でかわしながら相手の様子をじっくりと観察した。


 やっぱりだ。明らかにさっきよりも動きが鈍い。さっきまでは素早くてスムーズだった連撃の繋ぎ目が今は遅く緩慢に見える。


 しっかりと捉えていた。そうしていると三発目を振り終えたラブコングのふらつく姿を大河の瞳はしっかりと確認した。


 足元がおぼつかない。肩での息遣いや顔色の悪さから複合的なものの可能性もあるが多分俺の攻撃は効いていないというわけではなさそうだ。相手が未知である以上長引かせると何があるかわからない。もう一度勝負を賭けるのならここしかない!


「おおおぉぉ――!!」


 意を決した大河は自分を鼓舞すべく叫び声を上げありったけの力を込めて蹴り出した。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「お前は踏み込みが甘い」


 それは修行中にマルグレアから唐突に言われた言葉だった。


「そう、なんでしょうか?」


 正直大河自身は十分に踏み出していると思っていただけに彼女の言葉をすんなり受け入れられずにいた。


「自分で気付いていないか。まあ拳が伸びきる前に止めたりかわしたりしてるから仕方ないか。そして正確に言うのなら『踏み込みの判断が甘い』だ」


「『踏み込みの判断』ですか?」


「ああ、そうだ。お前は踏み込んで来る幅が毎度同じだ。私が獲物を持っていてもいなくてもな」


「あっ」


「流石にこう言えばわかるか。まあしかしこれはブライトとばかりやらせてしまった弊害とも言えるな。体で覚えた感覚でそのまま動いてしまっている。そのせいで適切な距離で戦えていない。基本中の基本ではあるが間合いの把握は大事な事だ。攻撃でも防御でも。自分の射程距離を理解しつつ自分が最も力を発揮出来る位置。それを戦闘中になるべく素早く見極めろ」


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 そうだ間合いだ。あの時の事を教訓にすべくあれからなるべく武器所持の場合を除いた一般の体格の相手への踏み込み方を練習してきた。体が大きくリーチのあるあの人は例外としてきた。けれど今の相手はその例外だ。


 これまでの大型の敵が現れなかった事に加え体の疲労もあってそのままの感覚で踏み込んでしまっていた。だから最適な位置取りポジショニングができず相手との距離が若干開いた状態のため突き出した拳が伸びすぎた状態となりベストから遠ざかり、威力が落ちて手応えが甘かったんだ。


 だからこそコイツにはいつもより少しだけ深く…


「グォオオッ――!!」


「踏み込む!」


 そうだ。こういう時こそ試されているのは、勇気!


 大河は今あるありったけの力を拳に込めて叫ぶ。


ファイヤアー 点火‼」


 大河は左拳でラブコングの左頬を打ち抜いた。


 手応えあった!そして、ここだぁ!!


 振り抜いた直後大河は左腕の放出を辞めると同時にすぐさま右腕を点火させ火を纏った。


バーニングフィストォ火の正拳ダブル!」


 大河の右拳が襲い、ラブコングを吹き飛ばした。相手が倒れた事を確信した大河は力抜けてその場に前のめりに倒れ込んだ。































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