158話 羞恥再発(後編)

「ちょっ!さっきなんてことないとか言ってませんでしたっけ!?」


「イ、イッテナイ!」


「いや、言ってましたよね?」


「イッテナイッタライッテナイ!!」


 く、口調が完全に崩れてる…というかそんなに動揺しないで!そんな態度されるとこ、こっちまで…


 大河の問いかけを口火に両者一気に羞恥が膨れ上がったのだった。


 道中平然としていたナイトメアだったが、彼女とてアクシデントのせいで数時間前は大河とは一緒の空間にいるだけで只々恥ずかしくてしょうがない状態であった。


 しかもそんな状態から恥を晒した相手におぶられなければならい始末。怪我の状態からして仕方のない事だと頭では理解していてもその心の内は今すぐにでも逃げ出してしまいたい程だった。


 けれどここまでの道のりで相手の大河あまりに気にしないようしていたため、最初は心臓が破裂しそうな程の緊張状態にあったナイトメアもいつの間にか羞恥心は鳴りを潜め、自分を背負わせってしまっている罪悪感の方が優っている状態へとなれていた。


 しかしそんな通常の精神状態を保てていたのも大河がアクシデントの件を含めて自分の事を特に意識していなかった為である。当然そのストッパーが外れれば彼女の中に眠っていた羞恥心が蘇るは必然だった。


「ウゥ~、ヤットワスレカケテイタノニ」


「あ、あの。そんなに動揺しないで…」


「サッキマデウロタエテクセニヨクイエルネ。ダイタイワタシハハダ…ハダカヲミラレテイルンダゾ!?シカモマダアマリジカンモタッテイナインダヨ!?ドウヨウスルナッテホウガムリガアル!!」


 で、ですよね〜アハハハハ…


「ダイタイワタシヨリモキミノホウガドウヨウシテルジャナイカ!?ドウクツヲデルマエハナントモナイヨウナカオヲシテイタクセニ」


「あの時も内心では結構動揺してましたよ。けどその時はまだ罪悪感と贖罪の気持ちが強く先走ていていたからでして。だけど段々落ち着きついて思考が正常になるとともに現状の気恥ずかしさを覚えたといいますか」


「ソコハオトコナラバセイシンメンデダマッテタエルベキデショウ!?」


「何ですかその無茶苦茶な理屈は!?しかもその黙っていた口を強引に開かせたのは何処の誰ですか!?そもそもメアさんだってさっきまでは平然としてたでしょう!?何で突然…」


「ソ、ソレハ…キミガアマリニキニシテイナイヨウスダッタカラコッチモキニセズニイラレタンダ。ナノニ…」


「それは…た、だって…」


「ダッテ…ナニ?」


「感触が…その、生々しくて」


 大河の言葉の意味がわからず?顔を浮かべるナイトメアにこれ以上ないくらいの警戒心をMaxの状態で恐る恐る質問する。


「あの、メアさん。すごく。すごく、すごく、すごく、すご〜く聞きにくい質問で正直俺の口から聞いてもいいか判断しかねる事なのですが…」


「わかったからとっと内容を話してくれ」


「今メアさんが身に着けていらっしゃるローブの下に何を着けていますか?」


「ナニッテ…………」


 大河に指摘されて反射的に自身のローブの中を覗き込むと彼女は今まで気付けなかった自身の異常事態にようやく気付いた。何故ならそこには本来あるべきもの、クエスト前は身に着けていたなくてはなならない物がなくなっていた。そしてそれに気付くと同時に彼女の表情は真っ青になった。


 ここに来て大河が質問の意味が『貴女は今服を身に着けていますか?』といった本来であるれば絶対に聞かれる事などないであろう類の問いであることを理解し、同時にそんな事を指摘されてしまった事とそんな裸に近い状態で年下とはいえ異性である彼に密着度の高い体勢である状況に途方もない程の羞恥が全身を駆け巡った。


「~~~!!」


 声にならならない悲鳴を上げた直後、これまで大河に寄りかかるように前のめりとなっていた態勢を上半身を起こしつつ若干背中を反るようにしてできる限り彼との間に空間ができるよう全力を注いでいた。


 少々無理をしているような体勢に思えたが彼女が体を話してくれたことは大河にとっても精神的に助かったため何も口出しせぬまま再び歩き出した。そしてそのやり取りを皮切りにピタリと会話は止み、そこからはまたしても無言の時間が訪れた。


 足を進める事で僅かながら聞こえてくる足音や砂利が飛び散るなどは微塵も耳には入って来ず羞恥、葛藤、罪悪感。色々な感情が渦巻く中での沈黙に二人はただただ疲弊していった。


 そんな永遠にすら思える長い長い道のりもようやく終わりを向かえ、目的地である頂上への到着と同時に倒れ込むようにして両手と両膝を地面に付いた。


「トウチャクソウソウソコマデタオレコムトハ、ソコマデワタシノタイジュウハオモカッタトイウコトナノカナ?」


「そうですね。俺は所詮まだまだ駆け出しのひよっこ冒険者なうえ子供ですからね。女性とはいえ大人一人を背負って登るのが俺の限界だったみたいです。まあ、あくまでメアさんの体重が世の女性の平均値以上故に負荷がかかって疲れが加速した可能性もありますが」


 一休みしようとしていた直後、狙っていたかのように開口一番に飛んできたその言葉には彼女なりの精一杯の仕返しが込められていることは大河もすぐに理解したが彼自身もこれまで諸々疲労からようやく解放された状態ニ水を差され、通常時より怒りが上昇傾向あったこともあり、普段ならば『ソンナコトナイデス~』と、適当に返したであろう台詞をあえて彼女と同様に嫌味のこもった挑発混じりの返答をぶつけた。


「ナッ!ワタシハソコマデオモクハナイ!ソレニワタシハキミトホトンドカ…ナンデモナイ」


 この手の誤魔化すパターンが多いなメアさん


「それよりもアレを見てみろ」


 指で指し示られた先には他の植物とは明らかに違う感じの花がまるで宝箱のように奥の崖近く咲いていた。


「あっ、もしかしてあれが依頼されていた代物ですかね」


 近づいて確認するとそれは文字通り全体が桜色ので覆われたチューリップのようなものでそれらが10本程生えていた。


「これってどうやって採取するんですか?そのまま引っこ抜いても?」


「ソコマデトクベツナテジュンガヒツヨウナイ。タダネッコハキヅツケナイヨウニキヲツケロ」


 ナイトメアの指摘通り根は勿論、全体に傷が残る事がないように地面をほぐして一本丁寧に取り出した


「これでさっそく…」


 そのまま採取したサクラソウでナイトメアの足を治療しようと駆けよろうとした、その時だった。大河は突然強烈な悪寒を感じてすぐさま交代しながらその発信源となった方角へと向き直った。


 それは地鳴りの音を響かせながら一歩一歩大河らの方へと近づいて来た。そして道を登りきると漆黒の体毛で全身を覆った怪物がその姿を現した。







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