159話 VSラブコング

「アレハモシカシテ…ラブコング?」


「ラブコング!?随分とメルヘンチックな名前ですね!しかも仰々しい見た目と可愛らしいネーミングがこれでもかといくらいに一致していないんですけど!?」


 ラブコング。この辺り一帯だと他のモンスターとは一線を画する腕力を持ちで一度暴れ出したら手を付けられなくなるとはいわれてる危険生物。しかし普段は物静かで滅多に自分から襲いかからないとも言われている。けれど気になるのはあの体毛の色。本来ならもっと…しかもなんなの?あのコングから放たれる異様な感じは!


 ナイトメアが通常とは異なる姿に疑問を抱いていると同時それからただ漏れてくる圧力に気付いた大河もすぐさま向かい合い臨戦態勢をとる。


 この漂うオーラとひりつく威圧感。間違いなく強敵だ………!そうだ、メアさん!!


 大河は身動きの取れないのナイトメアの身を案じてすぐさま彼女の元へと駆けつけようとした。そんな大河の姿がラブコングの視界に入った。するとその目に彼の持っていた薬草が目に留まり、すると~したように咆哮を上げた。


 そのあまりのけたたましさに大河もナイトメアも即座に耳を覆ってガードした。そして方向が止むと同時にラブコングは怒りの表情を露にしながら大河目掛けて襲いかかって来た。


 俺の方を見た瞬間激昂し襲いかかって来た!?何故だ?もしかしてこのサクラソウか!?


 ナイトメアの元へと駆け寄ろうとしていた大河だったが標的が自分である可能性を考えて彼女とは逆方向へと後ろに飛んで距離とを開いた。すると飛んだ大河の方へと方向転換して再び彼に詰め寄ろうとする動きを見て大河は自身に向かって襲いかかろうとしていると確信を得た。


 有難い。メアさんにはモンスターが現れたとしても背負いながらでも戦えるって言ったけどこのクラスのモンスター相手だと流石に話が別だ。


 大河は左手に持っていたサクラソウをポケットに差し込んだ。コングは怒りをぶつけるように握りこんだ右拳を突き出し、大河は左に飛んでそれをかわした。


 風切り音からもその破壊力が伝わってくる。見た感じ近距離型のパワータイプで間違いなく一発が一発が重い。


 かわされた直後コングは連続で襲いかかり、大河は次々と繰り出される攻撃を皮一枚でかわしていった。


 ここに来た時はかなりの疲労感があったように思えたけど精神的なのが大半を締めていたようだな。まあ今回のクエスト以前からの蓄積されていたものがかなりあったから絶好調とはいかないけどある程度は動ける。これなら…


 コングは唸り声を上げながら高々と拳を掲げると大河目掛けて振り下ろした。大河は先程と同じくバックステップでそれをかわす。


 確かに攻撃力は高いけどスピードはこちらに分がある。このまま攻撃を回避しながら隙を見て攻撃を…


 そんな風に相手の力量を分析していたがコングの拳が地面に激突した瞬間に亀裂が走り、それによって地面が割れた影響を受けた木々がなぎ倒された。


 想定以上の破壊力を目の当たりにして一瞬呆然となり固まってしまった大河。しかし目の前の敵がそんな隙を見逃してくれるわけもなく、すぐに態勢を立て直したラブコングが大河めがけて突きを繰り出す。反応が遅れた大河は回避は間に合わなかったものの咄嗟に腕を滑り込ませた。


 よし、これでガード…


 なんとか防いだ。そう思った大河だったが次の瞬間予想を超える拳からのエネルギーに後方の木々を数本へし折りながら体ごと吹き飛ばされてしまった。


 りょ、両手でガードしてこの威力かよ。腕がへし折れると思った。腰は…何度かぶつけたけどなんとか大丈夫そ…


 ところどころダメージはあるものの致命的外傷となっていない事に安堵したのも束の間、早くもラブコングの追撃が飛んできたのですぐさま地面を蹴って後方へと飛び、振り殺される拳をかわした。


「タイガ!!」


 左側から狼狽の声を上げて叫ぶナイトメアに『大丈夫』と言わんばかり大河は笑ってみせると同時に『こちらに来るな』という意思表示も込めて彼女に向かって右手で静止してみせた。


 隙を突かれて一発貰っちまったがこれならまだ戦える。確かに強いがスピードはまだこちらに分がある。こんどはこっちから!


 自ら開けた距離をラブコング襲ってくるよりも速く自身で潰し接近した。


 とりあえず一発!


 射程距離まで踏み込んだ直後大河は最短且つ一番攻撃が当たりそうな腹を狙って拳を打ち込んだ。


 しかし打ち込んだ側の大河の拳と手首からかなりの衝撃が走った。


 固っ!痛っ!


 今度は頭を伏せる事でギリギリで回避し、次の攻撃が繰り出される前に距離を取る。


 あぶっねえ、また吹っ飛ばされるとこだった。にしてもなんて硬度…いや、それだけじゃねぇ。硬さに加えてあの巨大の重量のせいで拳がめり込まなかった分、流さなくなったパワーで手首に負荷がかかっちまった。


 僅かながら後ろに退かせられた事と打ち込んでから攻撃が飛んで来るまで間があった事を考えるにまるで効いてないわけでないだろうがボディー攻撃を続けてもコッチが先に折れる。そうなるとやはり狙うのは…


 そう思い至ると大河は眼前に立つゴリラの顎を真っ直ぐに見つめた。


 体格差的に狙うのは少々リスクがあるがスピード差に加えて何度も攻撃をみさせてもらったからタイミングはある程度掴めてる。


 また今度あいつの右の攻撃が来た瞬間にかわすと同時に踏み込んで、最高の一撃バーニングフィストを打ち込む!


「「ファイヤアー 点火‼」」


 決意を固め全力を出す為大きく集中力を高めると、それを察知したラブコングが大きく雄たけびを上げてこれまで以上に威圧感を強めて大河に襲いかかって来た。


 大河はカウンターの要領で大きく突き出された右拳を掻い潜ってかわし相手の懐へと入り込んだ。


 大河が自分の懐に入ったことに気付いたラブコングはすぐさま左拳を振り回してきた。大河が拳を突き出し始めた瞬間とラブコングが振り払おうと攻撃してきたのはほぼ同時だった。


 際どい!だけど、こっちの方が速い。迷わず振り切れ!


バーニング、フィストォー火の正拳!」


 大河の攻撃は見事にラブコングの顔面を捉え、攻撃を中断させた。


 勝ちを確信した大河だったが目の前の光景に呆気に取られた。


「グッ…グォ……」


「えっ?」


 嘘、だろ?


 倒したと思っていたラブコングは未だに倒れる事なく目の前に立ちはだかっていた。そしてそれを理解する前にラブコングの拳が大河の体を捉えていた。





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