156話 冗談

「モウシデヲウケイレテオイテナンダガ、モンスターガアラワレテモホントウニダイジョウブカ?」


 洞窟を抜けてしばらく林の中を歩いている時に突然ナイトメアが質問を投げかけた。


 ワタシハイマモジドオリアシデマトイトナッテイル。ソンナワタシヲオブリナガラモシモンスターガアラワレタトシテタイオウデキルノカ?」


「それならなんとかなります!………多分」


「イイキッッタチョクゴニナゼソンナニギモンケイニナルンダ?」


「ええっと、普通に行けば大丈夫だと思います。けれど何事にも限度があるといいますか、異常事態イレギュラーは話が別といいますか」


 既にこんな状況になってる時点でこの先もこういった事が起こる可能性は充分にあり得る。


「タシカニコノサキニハワタシデモキビシイモンスターガウヨウヨシテイルイカラナ。ソコニサラニイレギュラーマデクワワッタラドウナルノカソウゾウモツカナイ」


「………」


 待って、それ思いっきり初耳なんですけど!?流石にそれだと全然話が変ってくるのですが!?というか貴女でも厳しいのうようよしてるって…それもうメアさん抱えているのとか関係なく無理ゲーじゃないですか!?


 驚きのあまり即座に振り返って色々と言いたいことをぶつけようとしたものの、唐突に告げられたショックによって喉まで出かかった言葉は発生まま大河は固まってしまた。そんな唖然とした表情を浮かべる大河を見てナイトメアはクスッと小さく笑い声を上げた。


「イマイッタコトハジョウダンダ。ダカラソンアカオヲシナイデクレ」


「………じょう、だん?」


「スマナイ、ショウショウカラカイタクナッタノデナ。ユルシテクレ」


(じょうだん?上段?ああ、冗談か。…冗談?この人が!?)


 大河は驚きすぎて目が点になりそうだったが既に前を向いて歩き出していたため、大河の顔を見れないナイトメアは彼のそんな気持ちなど知る由もなく、そのまま話を続けた。


「シカシホントウニイイノカ。サッキノコトバジョウダンダガ、コノサキニモキホンオトナシイトハイエヒトニオソイカカッテクルモンスターモイル。ドウチュウノモンスターヨリハヨワイガワタシヲカカエタママデホントウニダイジョウブカ?」


「…先程の発言は嘘なんですよね」


「アア、サッキモイッタヨウニホントウニジョウダンダ。ドウクツデハダ…ハズカシメヲウケタノデスコシシカエシシテヤリタクナッタダケダ」


 あの時の事は即刻忘れるようにと言ったのはそっちじゃありませんでしたっけ?…まあ、こっちがやらかしたのは確かなので言えないですけど。だけどまあ、こんなしょうもないやり取りができるくらいに互いに壁がなくなって仲になれた、って事だよな。


 けどまさかあれだけ見事な剣捌きを行っていたいた人がまさか女性だったとはな。しかもあんな綺…ブルブル!それはさっさと忘れよう。


「それなら大丈夫だと思いますよ。道中で出てきた敵と同レベルかそれ以下なら対処は可能です。なにせそれよりヤバい相手と人を背中に乗せながらの戦闘を経験した事がありましたから」


 まさかあの時の経験がこんな形で生きるとは。人生ってなにがおこるかわかんないもんだな。


「セントウノケイケンガアマリナイトイッテイタワリニハズイブントトクシュナジョウキョウカデノケイケンヲモチアワセテイルンダナキミハ」


「それは俺も思います。積むのならもうちょっと普通の経験でいいんですけどね」


「フ、トキニソレヲエラベナイノガジンセイトイウモノダヨ」


 この人も色々あっただけあって哀愁漂うというか、メアが口にすると随分重みが変ってくる言葉だな。


「ダガソノカンジンノモンスターダガ…」


 そこで言葉を切るとしばらく辺りを見渡したまま黙り込み、中々話を再開しそうにないナイトメアが気になった大河は自分から口を開いた。


「どうかしたんですか?」


「イヤ、ムシロコレハ…ナンデモナイ、ワスレテクレ。タブンキノセイダトオモウ」


 ナイトメアの言葉に気にはなったもののそれ以上語ろうとしないので諦めてそれ以上追及はしない事にし、別の話題へと切り替えた。


「あの、ところで自分たちは今何処へ向かっているんでしょうか?多分最初のルートからはかなり外れてしまっていると思うのですが」


「ソレナラバモンダイナイ。コノママススンデクレレバダイジョウブダ。コンカイワレワレノイライノモクテキデモアル『サクソウ』。ソシテソレラガサイテイルノガ『サンボクザン』ノチョウジョウニアル『ヒーリングエデン』ダ。ソシテソコニイクニハオオキクワケテフタツノルートガアリ、イマススンデイルココモソノルートノヒトツダ」


「ヘぇ~、それならまだ不幸中の幸いって事なんですかね」


 ソウダナ。ホカノルートガナイワケデハナイガカナリケワシク、チョクセツガケヲノボルナドノホウホウデモトラナイトムズカシイダロウカラナ」


「そのサクラソウってそのままでも効能あるんですか」


「アア、サクラソウタンタイデモシボリダサレタエキタイニハカナリノチユリョクガアル。ホカノヤクソウトカケアワセルコトデヨリコウリョクヲハッキスルノハタシカダガ」


「それならメアさんのその足のケガも何とかなるかもしれませんね」


「アッ」


「やっぱりご自身に使う事は頭から抜けてましたか。ダメですよ、ちゃんと自分のことも省みないと」


(コノコハ…)


「ソウダナ。ソノチュウコクハアリガタクウケトッテオクヨ」


 フードのせいで表情は見えなかったがその声色はどことなく嬉しそうに感じられたのは気のせいではないだろうと思い大河も彼女に見られないように前を見ながらほくそ笑むのだった。


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