155話 ナイトさんではなくメアさんでした

 洞窟入口より差し込んだ日の光が包帯越しに顔を照らし、それらによってもたらされた熱と微かな光によってタイガは目を覚ました。


 ん~朝になったのかな?うぅ、まだ地味に顔面がヒリヒリする。あれ?目が見えな…あそっか、確か目隠ししてたんだっけ。というかやたら体が温かいような。というか何かに触れて…


 ”フニッ”


 フニッ?


「きゃ、きゃぁああっ――!!」


 視界が断絶状態のため触覚に頼って手で辺りを探っていると突然触れている感触が全く別のものとなった。押し込めば簡単に沈んでいくような今までに無い特殊な感触だった。しかしそれに触れたと同時、耳をつんざくような断末魔とも取れる絶叫が洞窟内にこだました。


 耳に入って来たその声は今まで聞いていた機械音の混じったものではなく明らかに女性の声色だった。そしてその女性の悲鳴が聞こえてくると同時に張り手のような感触が大河の頬を襲った。その衝撃によって元より自分の立ち位置すらわからなかった大河は文字通り何処かわからぬ場所へと吹っ飛ばされてしまった。


 しかし突然の事態にそんな些細な吹っ飛ばされた事に気を回す余裕すら今の彼には持ち合わせていなかった。


 い、今のってナイトさん?けど今の声ってどう聞いても女性の。ならさっきの感触って、まさか…


 そこまで考え至ると自分が一体彼に。いや、に何をしてしまったのか簡単に結論が出ると同時に途方もない罪悪感が冷や汗ともに溢れ出した。


 さらに、吹き飛ばされて転げ回った事により視界を覆っていた包帯は解けてしまい、遮るものは消えてクリアとなった視界には一人の人物が映し出された。


 腰よりも長そうな綺麗な黄金色の髪に赤いヘアバンド。羞恥で朱く染まりつつも体の一部から断片的にわかる陶器のような真っ白い素肌。必死に覆い隠そうと組まれた腕の上にある母性を象徴する大きな膨らみ。下を向いているため顔は確認できないもののこれだけの情報を目にしてしまえばどう考えても目の前の人物、ナイトメアが女性である事は勘違いのしようのない事実だと現実を突きつけられたのだった。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「本当ぉぉ――に、申し訳ございませんでしたぁぁ――!!」


 己のしでかしてしまった罪に気付いてから大河はただひたすら土下座して地面に頭を擦りつけて謝罪し続けていた。


「ソノ、モウキニシテイナイカライイカゲンアタマヲアゲテ」


「ナイトさん。いえ、メアさんの…を触ってしまったのもですけど勝手に男と勘違いしていてすいませんでした!!」


「モウイイ」


「しかも絶対に見ないなどと啖呵を切っておきながらあんな…」


「ソ、ソレハオモイダスナァ――!!」


「は、はいぃぃ――!!すみません!!」


「ハアァ~。イイカ、ワタシノコトヲオモウノデアレバサキホドノコトハスベテワスレロ。トクニミテシマッタモノニカンシテハゼッタイニワスレロ。ゼ・ッ・タ・イ・ニ、ダ!イイナ?」


 これまで一切見せなかった得体の知れない圧力に大河は首が吹き飛ばんばかりの勢いで何度も素早く頷いた。


「ソレデイイ。ナラバハヤクシュッパツスルゾ」


 そう言ってナイトメアは素早く立ち上がった。しかしすぐさま体制を崩して倒れ込んだ。


「だ、大丈夫ですか!?」


「ア、アア。チョットコロンダダケダ」


「もしかしてまだ足が痛いんじゃ」


「…ナンテコトハナイ。チョットバランスヲクズシタダケダ」


 痛む足にムチを入れてナイトメアはなんとか立ち上がった。しかし立ち姿から重心が怪我を負っていない左足に集約しているのは明らかだった。


「片足でなんとか踏ん張りを聞かせているだけですね?そんな状態ではとても歩き続けるとは思えませんが」


「シカシイツマデモコンナトコロデコウシテイルワケニモイカナイ。タダッデサエホヨテイヨリオオハバニオクレテシマッテイルウエニショクリョウモロクニナイ。コレイジョウジットシテイテモジョウキョウハアッカスルイップウダ」


「でしたら…」


 タイガは突如ナイトメアに近づくと彼女の前で振り返って膝まづいた。


「俺が背負って行くので乗ってください」


「イ、イヤ。サスガニソコマデシテモラウノハ…」


「先程までのしでかした事に少しでも罪滅ぼしをしたいんですよ」


「シ、シカシ…」


「あ~そうしてもらえた方がさっきの事も早く忘れられる気がするな~」


「ウゥ…」


「それに何処かの方が言っていたように未だに床に伏している重傷者が心配だな~。早く依頼を達成して薬を作って元気にさせたいな~」


 タイガが白々しく言い放ってから暫くするとナイトメアは根負けし、呆れた様な表情で呟いた。


「………ハア、キミハズルイヤツダナ」


「誉め言葉として受け取っておきますよ」


 そう言ってナイトメアをおぶって洞窟の外へと歩き出した二人の顔はとてもほがらかだった。










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