154話 温かいな
ナイトメアが笑い声を上げているのを物珍しそうに見つめていると被っているローブからぽとぽとと雫が垂れている事に気が付いた。。
「ちょ、それ。ずぶ濡れじゃないですか!?」
「ラクセキカラマモナクオオアメもフッテキテシマッテナ」
「早く着替え…は、持ってないでしょうけど取りあえず脱いだ方が…」
あっ…
自分で言いながら大河は途中で気付いた。そもそも何故ナイトメアが全身をローブを覆っているのか。詳しい事情は知らないが考えればその答えは簡単。大方他人に姿を見られたくないから。それに気付くと
「ソノ、シンパイシテクレルノハアリガタイガソレハデキナイ。ワタシナラダイジョウブ、コレクライベツニ…ヘクション!」
「………」
「い、今のは気にしないで…ヘクション!」
明かにバレバレの嘘でも強がって隠そうとするナイトメアの意見を尊重したかったが、これから悪化の一途を辿るであろう事が明白な状態を放っておくのは気が引けた。
「そんな状態だとまず間違いなく風邪ひきますよ」
「シ、シカシ…」
「俺やクエストの事を除いてもモンスターと対峙するであろう道中で体調不良に陥るのは不味いですよ」
「ウゥ…」
ナイトメアは大河の意見が正しいと頭では分かっていても中々割り切ることができず決断しかねていた。
「あの、俺は後ろ向いて絶対そっちは見ないようにしますから!」
「………」
「それに、ほら。都合よく?包帯もあるんで目隠しもするんでこれなら100%大丈夫でしょ?」
大河が正面を向きながら包帯で目を覆ってから背を向けると肩の荷を下ろしながら息を吐いた。
「…スマナイナショウネン」
そう呟いた直後布の擦れた音が聞こえて来たので大河も安心してホッと胸をなでおろした。しかし今度は大河の口から大きなくしゃみが飛び出した。
「フフフ、ソウイエバキミノホウモズブヌレノママダッタナ」
「俺の方は別に大丈…ヘックション!」
「セリフトコウドウガイッチシテイナイゾ。コウナッタラキミモヌイダラドウダ?」
まるでやられた仕返しとでも言わんばかりに悪戯っ子のよう口調で楽し気に大河にも脱ぐよう促してきた。
「いや、それはちょっと…」
2人だけとはいえ今日会ったばかりの人がいる前で半裸になるのはちょっと…
「キミガイイダシタコトダロウ?ヌレタママデハカゼヲフクト。ワタシモオナジクヌイデイルノダシハズカシガルコトナカロウ?」
「ローブを外す事と服を脱ぐ行為を同列に考えないで頂きたいのですが」
「ワタシトキミトデハテイコウカンガマルデチガウダロウ?キミトワタシデハセイベ…イロイロトチガウノダカラ」
よくわからないけど何かそれズルくないですか?
そんな事をおもいながらも大河は上着を脱いだことにより服が張り付く気落ち悪さからは解放された。すると再び
始めは気にしないようしていたがそれからも一定置きにくしゃみを続ける様に流石に大河も黙っていられなくなった。
「あの、やっぱり上着の方も脱いだ方がよくないですか?」
「………」
ナイトメアは答えなかった。肯定も否定もしない様からそれはまた自身の中で葛藤しているが故の事だと察した大河は再び口を閉じた。すると沈黙が訪れてから5分程するとナイトメアは今にも消え入りそうな小さな声で聞いて来た。
「…ホントウニ。ホントウニソノ、ノゾイタリシナイカ?」
かなり警戒されているな。ローブを着脱する時よりも抵抗感が強いように感じられる。つまりこの人にとって素肌の方にもっと知られたくない秘密があるって事か?
「ええ、決してこの目隠しは外したりしませんし、絶対に見ないと誓いますよ。そもそも同性の肌なんて覗いてもなんの得もありませんから心配しないで下さい」
「………そうか。そうだな」
あれ?なんか声に若干怒りを感じるんだけど。気のせいか?
大河が言葉の違和感を気にしていると大きく息を吐く音が聞こえて来た直後、微かに布の擦れる音が響いた。それは一分、二分と経っても聞こえ続け、余程ためらっている事が明確に伝わった。そして3分以上経った頃、布ズレの音が途絶えと同時にベリャリと彼女の纏っていたであろうずぶ濡れの衣服が脱ぎ捨てられた音がはっきり聞こえ来た。
今の音からして多分俺の服よりも…ありがとうナイトさん。
彼女がどれだけ豪雨に晒されたのか。そしてその中で自分を助けるために片足の中で奮闘してくれたのかを理解し心の中で改めて心の中でお礼を言うのだった。しかしそんな感謝の気持ちに浸っていると今度は肌を擦る音が耳に届いた。
「あの、もしかしなくても寒いんですか?」
「ス、スコシダケ…」
『少し』などと強がってはいるもののナイトメアの方から聞こえて来る音はどんどんと大きくなっており、その行動がいかに彼の体から体温が失われているのかを語っていた。
雨でかなり熱を奪われてる。恐らく俺を助けようとして余計に…このままだと本当に体調不良に陥りかねない。それに多分この人…ここは多少強引でも!
大河は音を頼りにナイトメアに近づいた。そして彼は寒さから目が見えない状態の大河がこちらの方に向かっている事にすら気付かずにいると突然何かが自分の腕に触れるのを感じ、驚いて小さく悲鳴を上げた。
「きゃあっ!ナ、ナニヲスルンダトツゼン!?ビックリシタゾ!」
あれ?一瞬普通の声に聞こえたけど…裏返って元に戻ったとか?それとも聞き間違えか?まあいいや。
「キイテイルノカ!?マズテヲハナシ…ヒャァッ!ナ、ナンデハナセトイッテイルノ二ハナレナイドコロカダキシメルンダ!?」
「いや、だってこうすると人間ホッカイロみたいな感じで温かいじゃないですか」
「ダ、ダガヤハリコノタイセイハ…」
「いいじゃないですか。ナイトさんも寒さで震えて多っぽいし、俺も寒いんですから。それにどうせ男同士」
「~!キ、キミㇵオモッテタヨリカッテナコダナ!モウシラナイ!」
流石に怒られたか。けど無理矢理ほどこうとはしない辺り俺の気持ちを汲んでくれたのかな?にしても、こうして触れてみると意外と華奢だな。ローブの下はもっとこう全身筋肉質かと思ってたんだけど。
彼の予想外の体つきの驚いていると小さな声が漏れた。
「アリガトウ」
「お礼を言うのはこっちの方ですよ。散々助けられましたし」
「タスケラレタ、カ。ドウダロウナ。ホントウノイミデスクワレタノハムシロ…」
添う途中で言葉を遮るとナイトメアはそのまま黙ってしまい洞窟内は静寂で包まれた。しかし一緒にクエストをやり始めた時の沈黙に比べてその静けさに気まずさではなく心地よさを互いに感じていた。
「ナア、ショウネンノナマエハナントイウンダ?」
「え、今更ですか?」
「ソウダナ」
「イマムラタイガです」
「『イマムラタイガ』カ。ズイブンカワッタナマエナノダナ」
「貴方にだけは言われたくないのですが!?」
「ソレハ…マア、キミノイウ『オナカマ』ッテヤツダ」
「前言撤回してもいいですか、それ」
「フフフフ。アッタカイナ、タイガ」
「そうですね…温かい、です…ね……」
「タ、タイガ?」
大河の言葉が突然途切れて心配すると自身の肩に彼の顎が乗りかかって来た。
「ネムッタダケカ…マッタク。ヒトノキモシラナイデキモチヨサソウニネチャッテ。シカモコンナタイセイデ。ホントウニヘンナヤツトヘンナコトニナッテシマッタナ」
そんな愚痴を溢しながらも彼女はどことなく嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「デモ、ワルクナイキブンダナ」
そう言って彼女も瞼を閉じて眠りに落ちるのだった。
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