153話 お仲間
最初に耳に入ってきたのは耳をざわつかせるざあざあ降りの大雨だった。いつまでたっても鳴りやむ気配の無いそれが目覚ましの役割を果たし、大河は目を覚ました。
目を開いて視界がはっきりしてくるとそこが洞窟の中である事を理解し、辺りを見渡すとナイトメアの姿が目に入り、あちらもこちらの視線に気付くと同時にタイガの意識が戻った事に安堵したのか胸をなでおろしてこちらに声を掛けて来た。
「ヨカッタ、メヲサマシタミタイネ」
「ああ、心配をお掛けしまし…!」
大河が反射的に起き上がろうとしたその時、彼は突如として襲って来る激痛によって自身の異変に気付かされる。
痛っっ――!!な、なんだこれ!?顔中から火傷でもしたかのような強烈な痛みが!そ、その中でも特に…
大河は恐る恐るといった感じで自身の鼻を軽く掴むと先程までとは段違いの激痛が走り言葉にならない痛い身で悶え苦しんだ。
っ~!これ絶対鼻骨折れてるだろ!?だって何故かこの一カ所だけ痛みの度合いが桁違いなんですけど!?
「ダ、ダイジョウブ!?」
「だ、大丈夫だけど大丈夫じゃありません!?」
落下した事を加味すれば確かにこの程度で済んだのは幸いかもしれないけれどやっぱり痛いものは痛い!
「あの、俺どっか強く打ったのか、崖から落ちた後の記憶無いんですけどあの後どうなったんですか?」
大河が飛ばした疑問にナイトメアは少し言いにくそうな感じで口を開いた。
「ガケカラオチタアノアトワタシハナントカブジデ、アナタモカロウジテイシキガアッタミタイダッタンダ」
ん~なんだか記憶にあるような無いような…
ガ、ソノチョクゴニナンコカイワガワタシタチノ…トイウカキミノホウニラッカシテキテ」
あ、確かに薄っすらと黒い何かが降ってくるような光景を見たような気が…
「シカモ、ソノ…チョウドアオムケニナッエイルジョウタイノキミノズジョウニラッカスルカタチデオチテキタカラ…」
顔面石抱の刑かな?
「アノコウケイヲモクゲキシタトキキミニハワルイガハショウジキソクシダトオモッテチノゲガヒイタヨ」
でしょうね。俺も今その光景を思い浮かべて血の気が氷点下まで降下しています
「ソレデセメテイタイダケワタサイノチカラデハナカマノモトヘトオクリトドケヨウトイヲケッシテイワヲドカシテグチャグチャニナッタデアロウキミノナキガラヲオガンダラナントキミノガンメンハゲンケイヲトドメテイタンダ。アノトキハホントウニオドロイタヨ。ラクセキシタイワノオオキサカラカンガエテマチガイナクアトカタモナクナッテイルトオモッテイタキミノカオガナニゴトモナカッタカノヨウニソノママアッタノダカラ」
立場が逆ならきっと俺も同じ感想を抱いたと思う。よく生きてるな、俺。ステータス云々の存在しない前世なら100%ミンチだよ。痛みを感じられることの状態にすら感謝を覚える。これも修行による成果何度もボロ雑巾のようになるまでボコボコにされた事による賜物…なのかな?まてよ、もしかして…
自身の中である疑問が過り慌てて左右の瞼を閉じたりなどして確認するも痛みは感じられるが両目の視力が失われていない事実に安堵した。
良かった、両目をとも無事みたいだな。よくこの程度で済んだな。まあ鏡で見たら顔がコッペパンみたいに凹んでるかもしれないけど。
そんな事を考えているとようやく相手の方に気をやる余裕が出てきたのかナイトメアの方を見ると違和感を覚えた。道中ではローブによってまるで見えなかった足元が膝を曲げずに足を真っすぐに延ばした状態にしていた事により、その足先に嵌っている赤い靴がこちらを覗かせていた。
これまで共にして来た事で大体予想はついていたがこうして直にそれを見た事で改めてナイトメアが二本の足がある二足歩行の生物である事に安心した。そして同時にその体勢に疑問が脳裏を過る。
「あの、足どうかしたんですか?」
「ああ、大した事はないのだが着地の際の足を捻ってしまってな」
よくその状態で俺をここまで運んでこれたなこの人。
「いや、本当になんてお礼を言えば…」
「イイヤ、ワタシニオレイヲイワレルシカクナドナイ。ムシロワタシハキミニシャザイセネバナラナイ」
道中からここまで諸々助けられっぱなしなのですが?一体どこにこの人が謝る要素があるのだろうか?
「クルトチュウデハナシタコトヲオボエテイルダロウカ?ワタシハムカシカラワザワイヲヨビコンデシマウタチダトイウコトヲ」
そう言えば不幸体質だのなんだの言ってたな。気を紛らわすための一種の冗談なのかと思ってたけどこの感じ、本当の話っぽいな。
「コンカイモンスターノカズガフダントクラベテヤタラソウグウリツガタカカッタダロウ?アレハワタシノセイナンダ。ワタシノスキルニマモノガヨビヨセラレテ」
確かにモンスターのエンカウント率がやたら高いとは思っていたけどそういう…
「シカモコンカイハフンダヨリモサラニオオクワイテデテキタ。モシカシタラワタシノコノワザワイノチカラガツヨクナッテイルノカモシレナイ」
なんだろう、おもっくそ心当たりがあって胸が痛いのですが。
「ガケノテンラクモオソラクワタシノ…」
「ああ、その。言いずらいんですけどモンスターとの遭遇率が高かったのもこんな事になってしまったのも貴方だけのせいじゃないといいますか、寧ろ俺の責任の方が大きいと言いますか…その、俺の方も貴方のような所謂不幸体質持ち?みたいなものなんです」
「フフ。ドウチュウデノコトトイイ、キミハホントウニヤサシイナ」
…どうやら全く信じてもらえていないらしい。これをするのはどうかと思おうけどここまでの事態に巻き込んでしまった上に助けられてるんだ。それにこの人なら多分大丈夫だろう。
大河は自身のポケットから冒険者カードを取り出してロックを外し、ステータス画面を開くと彼女に見えるように差し出した。
「コレハ…」
ナイトメアは驚きの声を発すると大河のカードを受け取りしばらく呆然と眺めていた。
「ドウヤラホントウノコトダッタノダナ」
「ええ、だから一夫的に責任を感じなくていいんですよ。変な言い方だけど俺らは所謂『お仲間』ってやつですから」
「ナカマ、ナカマカ。プ、ホントウニヘンナカンケイノナカマダナ」
そう言ってナイトメアはこの日の初めて楽し気に笑い声を上げた。そしてその感じからタイガはナイトメアが抱えていた柵から一時でも解放されたような思えて安堵するのだった。
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