152話 結局こうなるのかよ

「トコロデサッキカラズットキニナッテイタコトガアルノダガ」


 目的地に向けて橋を渡っている最中に突然ナイトメアが口を開いた。


「何ですか?」


「何故さっきからずっと敬語を使って喋っている?」

「ナゼサッキカラズットケイゴヲツカッテシャベッテル?」


「いや~だって仮にも先輩冒険者ですし、敬意を払いませんと」


「ワタシハソンナコトハキニシナイゾ?」


 そちらがそうでも俺が気にするんです!


「ワタシモソンナニボウケンシャレキガナガイワケデモナイシナ」


 その中身がまるでわからない風貌では得体の知れない感じから歴戦の強者ぐらいしか想像できませんけどね。


「ダイタイワタシトキミモハオソラソコマデネン…」


「ねん?」


「イヤ、ナンンデモナイ。キカナカッタコトニシテクレ」


 何を言いかけたのだろうか?気にはなるけどあまり深く追求しない方が良いよなこの場合。


「そうですか。けどやっぱり俺はこっちの方が気が楽なのでこのままにします」


「ソウカ。ソレナラキミノスキニスルトイイ。マア、ボウケンシャニナリタテノコロハケッキサカンデヨクブカイモノヨリモケンキョナモノノホウガナガクツヅクカラナ。ソノホウガイイカモシレン」


 うんうん、セーブデータのあるゲームと違って一回きりのリアルだからね。冒険者はなるべく危険な橋を渡らないように謙虚な方が良いですもんね。別にこの人の素顔がイカツイヤクザのお兄さんだった場合の時の保険のとして怒らせないよう敬語を使っているわけじゃないよ、うん。


「シバラクコノイワバヲトオリスギレバモクテキノバショニタドリツケルダロウ」


 そう言って先を進むナイトメアに続くように石橋に足を踏み入れるもそれはしっかりと作られており、壊れる気配どころか橋板が軋む音すら聞こえてくる感じすら見受けられない事に疑問を感じていたら。


いつものパターンであれば今にも崩壊しそうな古びたオンボロ橋を泣く泣く渡らざる得なくて、でも結局橋が保たなくて板を踏み外して落下。そのまま激流に呑まれて死にかける。そんな風になりそうなものなのだが…


 それに仮に橋が無事だったとしても渡り始めてから橋の前後にモンスターが現れて逃げ場の無い挟み撃ちに遭って結局落とされる。なんて展開もあるだろう警戒しているのだが…やっぱりそんな感じにならなさそうな平和な空気。正直あまりに順調すぎて肩透かしを食らっている。


 いや、別にそんな地獄絵図のような体験をしたかった訳では断じてないよ、うん。ただ単純に大きなシコリと言うか違和感が残るんだよな~。このローブさんと行動を共にし始めてからというもの、モンスターの出現頻度が高いという事以外には別段不幸イベントが発生していない。勿論発生しないに越したことは無いが何か不気味だ。


 もしかして朝の件で俺に纏わりついている不幸成分がエネルギー不足となり、一時的に幸運が一般的な数値に回復したのだろうか?けど最初はこの得体の知れない人と行動を共にする事を拒絶していたがいざクエストに同行すると不運でもなんでもないしな。もしかしたら幸運値マイナスの影響って俺自身が嫌だと思う展開に進んで行くようになるだけで、実際その展開になった時に俺の身に不運が舞い降りるかどうかは別問題なのか?


 う~ん、検証できる材料が少ないだけになんとも言えないな。けど今日は普通の安全な冒険を楽しめるって事でこれ以上深く考えないようにしよう。あまりこの事に囚われすぎているとそれこそ変な事を寄せ付けるかもしれないしな。


「そう言えば俺今回のクエストちゃんと把握しきれていないのですが、目的地までは後どれくらい?」


「コノママハシヲワタリオエタアトニマッスグニミチヲススムトトナリガガデハバガチイサクナルミチガアル。ソコヲワタッテシバラクススンデイケバモクテキチニタドリツケルハズダ。ハヤケレバソノマエニタドリツケルカモシレンガ」


 ナイトメアがそう言い終わる頃には二人とも橋を渡り終えていた。そしてそのまましばらく歩くとナイトメアの言っていた道に出た。


「流石にこれまでよりは狭いですけどそこまで慎重に進んで行かないといけない道幅ではなさそうですね」


「ソウダナ。アシモトヲオロソカニスルトキケンダガ、ソレサエツネニアタマニイレテイレバトクニモンダイハナイ」


 ナイトメアは言い終わると上を見上げた後、これまでより少し速足で歩き出した


「ハヤクモテクノモノヲカイシュウシテナルベクハヤクカエッタホウガイイダロウ」


 …急いでいる様に思えるのは俺と一緒だからではなく一刻も早く依頼の品を届けたいからだと思いたい。



 ”ミシッ”


 ミシッ?


 それは崖側を歩いている最中唐突に聞こえてきた。その音の発生源の方へと目をやると小さなひびが1秒にも満たない時間で高速で地面に地図を描くように勢いよく広がっていく。


 おい、嘘だろ。くそっ!


 その危険性を理解した瞬間には反射で慌てて離れるため横に飛び移ろうと地面を蹴ろうとした。


 しかし皮肉にもその足に加えた力によって足場は完全に決壊してしまい飛び移るよりも先に地面は崩れ、そのままタイガとその近くにいたナイトメアは落下していってしまった。


「結局こうなんのかよぉ――!!」


 大河は自分の運命を呪いながら吐き出すように空に向かって叫んだ。











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