151話 ナイトメアと二人旅2

 どこまでも澄んだ青色。長々と続いている森の道。そして時折、と言うか頻繁に奇襲して来るモンスター達。それらを警戒し、退けながら景色の変化を楽しみながら目的地へと進んで行く。


 これが…これが本当の冒険。うぅ…長かったな、これまで。最初はあの猿達の晩飯にされかけたり、戦闘は無いとか言われてたのに予定外の異常事態イレギュラーで凶暴モンスターに襲われたり、迷子になったかと思ったらアホ姉妹が意図的に連れて来た蜂の大群にハチの巣にされそうになったりと。状況を楽しむ余裕なんてほとんど無かったからなぁ。


「ドウシテナイテイルンダ?」


「ああ、いえ何でもないんです。ちょっと普通という名の幸せを嚙みしめていたと言いますか。気にしないで下さい」


 これはあれだな、こんなに平和なのはやっぱりあのハッピーセット×2と一緒にいないからだろうな、うん。こういう淡々と物事が進んで行く感じを予定調和とか順調と言うのだろうな。しかもこの人(?)の安定した強さのお陰でないも心配すること無く安心して見ていられる。


 あれらが一緒だった場合モンスターではなく本来味方であるあいつらの突発的な発言と行動に最新の注意を払いゴリゴリと精神が削られ続けた挙句、やっぱり面倒な騒動に巻き込まれると言った最悪のケースに必然の如く怒ってしまうのだろうな。


 最初はパニックで焦ってしまったが翌々考えてみるとかなり有難い話だな。大きな不安要素が取り除かれて敵以外を警戒せずにいていいのは。ああ、なんて素晴らしいのだろうか。


 …まあ、これを幸福と感じてしまう辺り幸せの基準値が大幅に低くなっている気がしないでもないが、まあそれで幸せと思える瞬間が増えるのであれば良い点が無い事も無いのかもしれないな。にしても…


「よっと!」


「ウガァー!!」


 なんかこれまでの経験上敵の湧きが早いというか、接触率が高いというか。かなりモンスターと遭遇する頻度が多い気がする。ここは元々そういう場所なのだろうか?


 本日何度目かの襲撃をして来たモンスターを撃退しながらそんな事を考えていると顔が俯き気味だったナイトメアが突然頭を下げた。


「スマナイショウネン」


「ど、どうしたんですか急に!?顔を上げて下さい」


 え、何でいきなり頭を下げて謝られてるの?どっちかというと謝罪する立場はお荷物になっているこっちな気がするんですけど!?


「サキホドカラツウジョウトクラベテカナリノマモノトソウグウシテシマッテイルコトニキョウフシテイルノダロウ?」


「はい?」


「ナントモナイヨウナフリヲシテクレテイタミタイダガ、ヤハリアレダケノカズヲアイテスルノハセイシンテキニキビシイモノナノダナ」


「いえ、全然そんな事は無いのですが」


 恐怖どころか安堵すらしていたのですが…


「クワシクハイエナイガワタシハイワユルフコウタイシツトイウモノデサイナンヲヒキイレテシマウコトガオオイノダ。モンスタートノエンカウントリツガタカイノモソレガヒキガネトナッテシマッテイルノダロウ」


 これまでと比べて出現する数が多いとは思っていたがそういう事だったのか。


「シカモナゼカキョウニカギッテイツモヨリモオオクヨッテクルノダ」


 それに関しては貴方の呪いカースどうこうだけでなく俺の不幸体質も合わさってしまったが故の化学反応な気がする。なんというかこっちの方が申し訳ない気分に…


「ソウイウワケダカラキミガノゾムノデアレバコノママヒキカエス。ソシテマタベツノヒニデモ…」


「それは駄目だ!!」


 気が付いたら大河は反射的に叫んでおり、彼の急な変化にナイトメアも相当驚いたのか、呆然とこちらを見つめていた。その視線ではっ!と我に返った大河は急いで言い訳を並べ始めた。


「ええっと…ほら、僕たちの今回の依頼の出来によって理療の進行具合に大きな影響を及ぼすんです。受付のミルナさんもそれを分かっていたから無理を言ってクエストの受諾をお願いしてきたんですよ。そして僕らはそれを受け入れたんです。ならば僕たちは一刻も早く薬の材料を確保して届ける事。多少の困難が立ちふさがろうとも期日を変更などは以ての外です!」


「………」


 大河がここまで必死なのは言葉通り入院患者の容態を案じ、少しでも早く依頼を達成させしょうと躍起になっているから…では勿論ない。心配程度はするがナイトメアの意見を完全否定したい理由はシンプルにパーティーメンバーとこの地を訪れたくはないからである。


 まだちゃんとパーティーが機能するのか確認すらできていない状態。大方全く息が合わずに足を引っ張られるだけだろうけど。そんな風になるのが分かっているのにこの絶賛頼りになる相方と離れ、あれらと再びこの地を歩むなど愚の骨頂。只でされこの付近だけでもかなりの数が襲い掛かって来るのだ。


 あいつらの相手をしつつこれだけの相手を処理する作業など冗談ではない!!


「ホントウニイイノカ?ワタシトイッショデハマタ…」


「全く問題ありませんよ。なんならこれから先の冒険をずっと一緒にしたいくらいですよ」


 割とマジでアリだと思う。あれらと探検するより絶対に楽だ。精神的にも肉体的にも。


 大河が心の中でドヤ顔を決めていると呆気に取られていたナイトメアは突然口元を押さえながら笑い出した。


「フ、フフフフフフフフ!」


「?」


 なんかツボに嵌ったのだろうか?そんな可笑しな事は言っていないと思うのだけど。


「ワタシトイッショニコウドウシタイナドトハ。キミハカワッタヤツダナ」


「冗談がお好きなんですね。自分で言うのもなんですけど僕はこう見えてもかなりまともな人間なんですよ」


「ソ、ソウナノカ?スマナカッタ」


 どうやら俺の今の発言こそ冗談の類と捉えられているらしい。多分この珍妙な格好とあの変人共と同じパーティーなせいだとは思うが…うぅ、何たる不名誉。けれどさっきよりも心の距離が近づけたような気がする。


 フードなどで隠れていて表情は見えないけれど、先程よりも少し柔らかくなった声色からしてその仮面の裏はどことなく笑っているように大河には思え、嬉しさから歩き少しだけ早まったのだった。



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