150話 ナイトメアと二人旅
タイガは突如として偶然鉢合わせた黒ローブのナイトメアと依頼を共にする事になった。しかも出発して数分も経たない内からモンスターの襲来に遭い、それらを退けるも数分毎にモンスターに襲われるといった出来事を繰り返し、今も尚絶賛戦闘中であった。
しかしそんな敵が次々と湧いて現れる状況にも拘わらず大河の顔はこのクエストに行かなばならなくなってしまった時の青ざめた表情と比べて何故か数段顔色の良いものとなっており、モンスターの群れを前に微笑みすら浮かべる奇妙な光景がそこにはあった。
そしてそれに比例するように彼の心境もモンスターを前にしているとは思えぬ程に穏やかなものでもあった。
いや~本日はいい冒険日和だな~。天気の良さに比例してかモンスターの湧きも高い事が気に並んでもないが、それでも肉体的にも精神的にも平和である。え?危険なク
エストに向かっているにも拘わらず何でそんな呑気なのかって?
だってさっき言った通り実に平和、だからである。
「ハアッ!」
タイガの前にいるのは今回行動を共に(強制的に)する事になった黒ローブことナイトメア。その彼?彼女?が、大河の身を案じて前を歩き、グレムリンやコボルトといった出現するモンスターの相手を殆ど務めてくれているのである。
戦闘経験の高さからか、或いは実力差故か。ナイトメアはどこからともなく取り出した刀で一体、また一体と流れるような動作で次々に目の前に現れる敵を切り伏せていく。彼女が敵をことごとく排除してくれるお陰で俺自身はほとんど後ろを歩いて付いて行くだけで済んでいる。
元々率先して先頭を歩るいてくれた辺りから、自分に注意を引かせてなるべく敵は自分で処理してこちらを襲わせないようにという気持ちがその背中からヒシヒシと伝わって来る。勝手によくわからん輩や爆発なんかの脅威を嬉々として持ち運んでこちらに悪びれもせずに被害をプレゼントして来るどっかの誰かさん達とはえらい違いである。
「キィーッ!」
「!!」
まあ、時々こんな感じで背後か隣の草むらから襲ってきたりするのもいるが精々二、三体程度。しかも出現してくるモンスターの強さが想定していた
迎撃に成功し一息ついているとナイトメアが無言でこちらをじっと見つめていた。
「どうかされましたか?」
「…イヤ、オモッテイタヨリモタタカイナレテイルトイウカ。ヤケニアッサリタオスモノダナ、ト」
「そちらに比べれば敵の数は圧倒的に少数ですから」
「リボーンノボウケンシャデソレダケヤレレバジュウブンダ」
「でも単に相手のレベルが低すぎるだけって事もありますから」
「イクラコボルトヤグレムリンノヨウナテイキュウモンスターガアイテトハイエ、テキガイキナリヨコカラシュツゲンシタニモカカワラズタイシテドウヨウスルコトナクタイショシテミセタ。トテモナリタテノタイオウリョクトハオモエナイクライニ」
「偶々ですよ」
グウゼンニシテハデキズギテイル。ココヲオトズレルマエニマモノトノタタカッタケイケンデモタタアッタノカ?
この世界に来てからの魔物との戦い事態は片手で数えるよりも少ないが奇襲されるという意味では両手両足では足りないくらいに充実してしまっているな。スキルによって数多の珍撃に襲われたり、
「恐らく修行の成果、ですかね?ここに来る前にかなり絞られましたから」
柔軟とか言って物理的に絞られた事もあったけど…
「ヨクワカラナイガ、キミノウゴキヤタチフルマイカラジュツジツシタヒビヲスゴシテイタミタイダナ。ショウジキワタシモドウコウスルコトニナッタノガキミノヨウナボウケンシャデアンシンシテイル」
やはり一緒にクエストに行く事には大きな抵抗があったみたいだな。それはそうか、元々あのネジ外れ共のハズレ具合を目の当たりにした上であれらがくっついて来る予定だったのだ。気分が憂鬱になって当然である。
人数が俺だけになったとはいえ、あれらの仲間と思われているのであれば同行者が1人になったとしても警戒されてもおかしくはない。あいつらが原因とは言え現在俺の見た目は包帯ぐるぐる巻きのミイラ状態だからな。外見だけでも一緒に冒険するのを遠慮したくなる理由としては十分だろう。まあ見た目に関してはこの人もどっこいな気もするが。
「コノヨウスダトキミノホカノナカマタチモソレナリノジツリョクノモチヌシナノダロウカ?ガイケンヤクチョウガショウショウトクチョウテキスギルフシガアッタノデヘンケンノメデミテシマッテイタノダガ」
「いや~そんな事はないと思いますよ」
…自爆前提の爆発大好き姉妹+お飾り役職の最底辺以下のステータスセット共である。少なくとも後者に関しては100%偏見なんかではないと断言できる。
「フ、キヲツカッテモラッテモウシワケナイナ」
「全然そういうのでは無いのですが…」
「ソウイウコトニシテオコウ」
本当に違うんだけどな。シンプルにあいつらが戦力的に解雇通知レベルというだけの話なんですがね?まあ、こんな軽い冗談を言い合う事が出来るくらいに穏やかな空気なのは良い事だよな。冒険者としては少々緊張感に欠けている気がしないでもないが普段があまりに過酷すぎるんだから偶にはこういう事があってもいいよな?
そんな事を思いながら再び前を進むかの者の後ろを付いて行くのだった。
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