164話 帰路は彼女に背負われて

「これでいいんですか?」


「アア、モンダイナイ」


 大河はナイトメアに指摘された通りサクラソウの茎を捻り、そこから溢れ出した汁を負傷した足へと垂らしていた。


「けどこれの使い方ってそのまんまというか、思ってたより直接的なんですね」


 当然他にもより濃い成分を抽出したり他の薬剤とかけ合わせたりと様々な使用方法はあるが何の道具も無い外ではこのこんな方法しかないんだ


「それで怪我の方は大丈夫そうですか?」


「コッセツナドノタグイデナカッタノガサイワイダッタ。ケイド、トイウワデハナカッタガソコマデシンコクナジョウタイニイタルテマダッタオカゲデカエリミチヲタドレルクライニハカイフクシソウダ。」


 それを聞いてホッと胸をなでおろしていると大河の持っていた茎を奪い取ると彼の頬に押し付けた。


「ワタシノカラダノコトナンカヨリジブンノカラダノホウヲシンパイシタラドウダ?ドウミタッテキミノホウガジュウショウダゾ」


「いえ、俺なら大丈夫です。まだなんとか…『パシッ!』~~~!!」


 大河が強がろうとした直後ナイトメアが彼の方を叩いた。すると思い出したかのように全身の痛みがぶり返し大河は声にならぬ悲鳴を上げながら地面に横たわって悶絶した。


「ホレミタコトカ。ゼンゼンダイジョウブナンカジャナイジャナイカ。スコシハジブンヲイタワレ」


「け、けどそれ全部使ってしまったらここに来た目的が…」


「ハアァァァ。ソレダケボロボロニナッテオキナガラキミトイウヤツハ…ソノコトナラシンパイスルヒツヨウハナイダカラオトナシクジットシテイロ」


 そう言うとナイトメアはこれまでの不安や不満、道中での怒り等の諸々をお返しするかのようにサクラソウを彼の顔にめり込む程強めに押し当てて憂さ晴らしを兼ねた少々強引な治療を行っていった。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「ヤハリキタナ」


 液切れによってナイトメアの治療という名の八つ当たりが終了して少しすると先程花を渡したラブコングが両腕に何かを抱えて坂道を登り、彼らの近くまで来ると彼らの前に大事そうに抱えていた大量のそれをそっと置いた。


「これって…」


「アア、スベテサクラソウノクキダ。ココノラブコングトニンゲンハイッテイジョウノシンライカンケイヲキヅケテイルノモアッテチャントカレラニハナヲテイキョウスレバコノヨウニワタシタチニトッテヒツヨウナサクラソウノクキヲワタシテクレルンダ。アリガトウ」


 ナイトメアお礼を言うとラブコングも嬉しそうな笑みを浮かべた。そして役目を果たしたといわんばかりに背を向けて帰ろうとした直後、突然彼らの前にやって来てナイトメアと大河を見比べると何かを祝福するかのように『ウホッ!ウホッ!』と声を挙げながら両手を叩き再び去って行った。


「彼(?)らが人間にとって有益な存在である事は理解出来ましたけど最後のアレは何だったんですか?」


「キミハシラナクテイイイコトダ」


「さいですか」


 正直あの奇行が何なのか気にはなるが、メアさんもこう言ってることだし見なかった事にしよう………世の中知らない方がイイ事ってたっっっっっくさん、あるもんね


「サテ、ソレデイクツカツカッテモウイッカイチリョウヲ…」


 そう口にした直後ナイトメアは口ごもって何かを呟きながら何やら考える仕草を見せた。


「スコシタッテモラエナイカ?」


 意図はわからなかったが大河は言われた通り立ち上がろうとするも蓄積されたダメージで中々起き上がる事ができずなんとか体を起き上がらせたものの、立ち上がるので精一杯の体では疲労困憊の肉体を支え切る事は叶わず地面へと転がった。


「フム、ヤハリカ。


 あれあれ?聞き間違いかな。今この方なんとおっしゃられましたかね?治療は必要ないとか言いませんでしたか?


「ナニヲソンナニフシギソウナカオヲシテイルンダ?モトモトヤクソウノザンリョウヲキニシテチリュウヲコバンデイタノハキミノホウジャナイカ?」


 …確かにそうですけど、それは今言った通り今回のクエストの目的であるサクラソウとやらがあるかないかのレベルだったから躊躇していたという話で大量に入手できた今では話が違いうと思うのですが?少なくとも現在進行形で自立行動不可能に近く、今まさに目の前で倒れた同行者に対して口にする言葉でないのですが?寧ろ普通に治療する流れだったと思うんですけど??


 大河が呆気に取られて喉までかかった言葉を吐き出せないでいる内に積まれたサクラソウの茎の山を収納袋に回収し懐に仕舞った。すると突然大河の前に膝を突いて座り込んだと思ったら、そのまま彼を背に抱え込んで立ち上がった。その行動に大河の理解は遅れる。


「…あの~メアさんや、これはいったいどういう事なんですかね?」


「オンブ、トイウヤツダナ」


「いや、そうじゃなくてですね。何故にこの状態?」


「ロクニウゴケソウモナイキミヲソノママニシテカエルワケニハイカナイダロウ。ソレトモナワヲクビニククリツケラレテヒキズラレル。ソンナシュチュエーションノホウガコノミダッタカナ?」


「そんな常識を疑われそうな趣味は無い」


「フフ、デハソウイウコトニシテオコウカナ」


 くっ、これ完全に楽しんでやがる。これは道中での仕返しか?それともずっと背負われていた事による恩返し…なのか?正直前者の方が可能性が高いような気がするのは気のせいだと思いたい…


「ホラ、イツマデモキムズカシイカオナンカシテナイデリラックススルトイイ。カエリハコノママワタシガオブッテイクカラキミハソンブンニヤスミナサイ」


 そう言いながら軽く人差し指で彼の頭を小突くと再び前を向いて歩き始めた。


 やっぱり気のせい…かな。正直この年でこの体勢は結構恥ずかしいけど道中ずっとさせて来ただけになんの文句も言えない、な…こうして触れてるとメアさんの背中、結構大きい、というか高い?ああそっか、多分俺より身長高いもんな。それにあったかい、な…やばい。なんか安心して目が…もう……ね…む………


 ナイトメアに背負われから数分後、これまでの疲労も合わさって緊張から解放された大河は彼女の背に揺られながら眠りに落ちた。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る