117話 タイガVS分隊長ウエルグ 4

「馬鹿が、そんなボロボロの体で向かってくるとは。そんなくたばりかけの体でどこまで避けられるのか見せてもらおうか<眼前の低俗な愚民を甚振り嬲れ>メガ・フレイムウィップ!」


 大河に向かって一直線に伸びる火鞭。しかしその攻撃に対して大河は回避行動を取ろうとはせず、腕をクロスさせてそのまま直進し、相手の攻撃に被弾しながら距離を縮めていった。


「馬鹿な!我の攻撃を防具無しに受けながら前進してくるだと!?チィッ!〈我が豪球に包まれてその身を爆ぜろ〉メガファイアボール・6連!」



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「私のとっておきの一つをマスターしてもらうのが今回の目標だ」


「え?あ、ああ~?あ~っと…さっきまでのやり取りは一体何だったんですかね?」


「さっきまでのはタイガ少年がそれを習得する過程で必要な要素ということさ」


「ああ、成程。だったら最初からそう説明してくださいよ」


「それより少年ボーイ、腕を出してくれないか?」


「こうですか?」


「少しじっとしていてくれ」


「はい」


 シ〜〜〜ン


「あの…」


「えい」


 掛け声と同時に大河の腕には燃えるような激痛が走った。


「痛っ!痛ったあああぁぁっっ‼︎」


「おお、どうやら成功したみたいだな。よかったよかった!失敗したらどうしようかと思ったぞ」


「あっ…嗚呼あああぁぁぁ‼︎(成功!?この激痛状態が成功!?これで失敗でないなら失敗した時どうなるんですか⁉︎というかそんな呑気な顔してないでこの痛みどうにかしてもらえませんかね⁉︎)」


「いいかい大河少年ボーイ、その感覚を忘れないようにしっかり刻みつけておくんだぞ。いつでも思い出せるようにな」


「〜〜〜‼︎(治療してもらえないことはよおおぉぉぉくぅ分かったのでせめて説明くらいしてくれませんかね⁉︎)」


「その感覚こそがこれから教える力を引き出す為のカギとなるだろう」


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「なっ、あの連続魔法攻撃を受けても突っ込んで来るだとぉ!?」


「あと少し!」


「くっ、来るな!


よし、完全に間合いに入った!そして魔法を撃った直後の今なら詠唱が間に合っても呪文を唱える間に打ち込める。いっそこのまま…


 大河が確信した直後、今まで使わずに下ろしていた左腕を上げてニヤリと笑った。


「なっ!」


「<燃えよ>ギガフレイム!」


 ウエルグの手が光った直後、大河の体は至近距離で大きな業火に包まれた。その光景にウエルグは薄ら笑いを浮かべていた。


「くっくっく、接近戦に持ち込めたからと油断したな。まさか我が左手に魔力を貯めていたなど思いもしなかっただろう?並みの魔術師であれば一矢報いれたであろうに相手が悪かったな。クックックッ…!」


 自身の勝利を確信し、嘲笑っていたウエルグの目に衝撃の光景が目に入った。立っていた。自分の上級魔法を、それも至近距離で直撃したにも関わらず未だに倒れることな眼前で立ち続けている大河に身震いした。そしてこちらを見据えながら不敵な笑みを浮かべているようにすら見える大河に恐怖を抱いた。


「ば、馬鹿な!かなり詠唱を省略したとはいえあの攻撃をモロに受けて貴様何故!」


「…じゃなかった」


「何だ?」


「あの時受けた攻撃はこんなもんじゃなかった」


「はあっ?貴様何を言って」


(王都で仮面の男から受けた衝撃もブライトさんから受けた愛の正拳とやらも。意識が飛びかけるくらいやばかった。確かにキツイけどあれに比べたらキツイ止まりだ!何よりも…)


「何よりもよ…女が命張って必死に戦ってんのに、男が先にくたばる訳にはいかないんだよ」


「‼」


「それにこの勝負、俺の勝ちだ」


「ふ、ふん負け惜しみを。戦闘不能になっておらぬだけで貴様の体はもはら誰がどう見ても瀕死の状態ではないか。そんな奴が何を言おうとも虚勢にしか聞こえな…」


「そうやってお前が勝利を過信しきって追撃してこなかったお陰でこっちの準備は整ったぜ!」


「な、何だと?」


 一度大きく息を吐くとブライトからもらったある言葉を思い出していた


『叫べ少年ボーイ!己の魂を奮い立てるように‼』


「ファイヤアー ‼」


 掛け声と同時に大河の拳は自身が腕から放出した火に包まれた。


「なっ!<その絶壁であらゆるモノを弾け>」


「これで決める!バーニング…」


「ギガ・ウォール!」


 再び大河の拳が敵の障壁魔法と衝突し、周囲に轟音が鳴り響いた。


「ふ、さっきも壊せなかったのを忘れたか。しかも今度は先程よりも魔力込めて張った障壁だ。そんなエセ魔法を纏ったところでこの障壁にはヒビ一つ入れる事すらできず今度は貴様の拳が砕け…」


 ”パキ”


「ひ、ヒビを入れられただと!い、いや。微かなヒビ一ついれらただけにすぎない。寧ろこれはさき程同じ結果になるというだけだ」


「おおおおおおおぉぉぉ‼」


 ”パキ…パキパキパキ”


 冷や汗を吹き出しながらも余裕の表情を浮かべていたウエルグだったが大河の拳によって生じた亀裂が徐々に拡大していったことで余裕は不安に塗りつぶされていった。そして波紋のように広がり続ける亀裂が障壁の隅々まではしった直後、ウエルグ自慢の障壁は粉々に砕け散った。


「な、なんだと!」


「バーニング!」


「<燃え…グハッ!」


バーニング、フィストォー火の正拳!!」


 障壁を破壊した拳は勢いを緩めることなくウエルグ顔面に直撃。彼の悲鳴と共に彼方へと吹き飛ばした。












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