118話 突然の終戦

「はぁはぁ…か、勝った!」


 吹っ飛ばして立ち上がってこない相手を確認し緊張の糸が切れて倒れないように意識しながら軽く息を吐いた。


あ、危なかった。腕を振り切った直後にはもう放火が止まってた。何とか動作と合わせられたけど本当にギリギリだった!


「やべ、体が」


「き、貴様!」


 少々気が抜けた事で興奮が冷め、今まで体に蓄積されていたダメージが襲いかかりそれを自覚していると、心底憎たらしいといった感じで怒りの表情を向けるウエルグだが、動かせるのは口のみでダメージで足にきているのか下半身はヒクつかせているだけで上半身は顎を少し上げるのみで精いっぱいだった。


「おやおや、所定の場所に現れないから何かあったのかと様子を見に来たらまさかこのような事になっているとは」


 吹き飛ばしたウエルグの更に後ろからフードを被った人物が何処からともなく現れた。


おい、これさっきもあったぞ。まさか新手か?不味いな。正直こっちはもう倒れないように立ってるのがやっとだってのに!


「な、何故貴様がここにいる!?」


「何故?それはこちらの台詞ですね。先程申した通り貴方たちが予定の時刻を過ぎても集合場所に訪れなかったので足を運んだのですがまさか顔を地に付け這いつくばる事態に陥っているとは」


「色々あったのだ!それより早く俺に回復魔法を掛けて手を貸せ!あの忌々しい小僧を今度こそブチのめして…」


「それは賛同しかねますね」


「何だと!何故だ!?」


「それぐらい自分で察せないのですか?」


「そんなものわかるわけ…そうか、貴様俺の出世が妬ましいのだな。俺にこれ以上手柄を立てられたら困るのから俺に力を貸さんようにしておるのだろう!」


「その浅ましい発想。どこから指摘すればいいのか頭を悩ましかねますね。そもそも今回の一件、目的は何だったか覚えていますか?」


「都市を攻め落とすことだろう?そんな事貴様に言われずともちゃんと承知して…」


「余程頭に血が上っていますね。或いは本当に最初からその認識だったのか。どちらにしても呆れたとしか言いようがありませんね。」


「何にを!」


「いいですか、本来貴方に課せられた使命は敵情視察。それも今回は都市側の冒険者と多少小競り合いをした後、戦況がどうあれ必ず撤退するように命を受けていた筈ですが違いますか?」


「た、確かにそうであった。しかし想定していたより敵の戦力が少数であったのでこの機に一気に攻め落とそうとしたのだ。実際あと少しのところでまで追い詰めたし、余計な邪魔が入らなければ間違いなく今頃リボーンは落せていたのだ!これを聞いても今回の一件で俺に落ち度があったとでも言いたいのか!?」


「ほとほと情けないですね。何故戦況に関わらず『必ず撤退』という指示が出されたと思います?今回の作戦は不確定要素が多く、何が起こるかわからないから万が一が起こらぬようにする為そのような指示が出されたのですよ。だというのに貴方ときたら…はあぁ」


「くっ!」


「それに今回の貴方の役割は偵察以上に陽動の役割が大きいのですよ」


「俺はそのようには聞かされていないぞ!」


「恐らくあの方は貴方な成長の為に自分で考え、気付いてほしくて敢えて言わなかったのですね。しかしまさかそれがこのような結果になるとは。力はあれど他はまだまだ未熟ですね。一人称も戻ってしまっていますよ」


「あっ!…か、勘違いするな!今回の事はイレギュラーにイレギュラーが重なった末の偶然の敗北だ!決して俺の実力があんな小僧如きに劣ったわけではない!それに我が軍が敵を圧倒していること事態には変わりないのだ!こ奴さえ消せればリボーンは沈めた同然なのだ!」


「結果がどうあれ最初にイレギュラーが起きた際に兵を引かせずに作戦を続行させ、更なる不祥事を招く可能性を生んでしまった時点で今回の貴方の指揮が愚策としか言いようがないのは確かですよ」


「~!」


「それに息巻いていた割にあちらの戦況も圧倒しているようには見受けられないのですが?」


「何だと!どういうことだ!?」


「それはこちらが聞きたいところですね。貴方の副官が部下を連れて逃げる様にこちらに迫って来ているあの様のどこが圧倒していると言えるのでしょうか?」


「何!?」


 慌ててフードの人物が指さす方向へと視線をやるとそこには青ざめた表情で逃げる部下達の姿と後ろから奇声の笑い声のようなものを上げながら迫るエルノアとクラリスの姿があった。


「あ奴らあんな小娘如きに何をやって…」


 ”バァーーン!!”


「「え?」」


 ”バァーーン!!” ”バァーーン!!” ”バァーーン!!”


「フハハハハハ!!最高だ!最高だあああああぁぁぁ!!」


「何なんだあの女!?自分も爆破範囲だというのにお構いなしに近距離で爆弾を投げ込んでくるぞ!」

「あんな距離で投げ込まれたら避けられねーよ!」

「それに魔法で迎撃しようにもひるまないどころか何故か笑顔で突っ込んでくる。怖え!俺アイツ怖えよ!どうすんだよあれ!?」

「今はとにかく逃げろ!幸い相手も足は速くない。全速力で逃げるんだ!」

「「「りょ、了解!」」」


俺が思ったよりも全然大丈夫そうだな…というかソレW・K・B残ってたんなら先陣切らせた俺に持たせろよ!


「な、何なのだアレは!?と情けないことを…」

「地に突っ伏した貴方よりは立っている分マシだとは思いますがね?」


「喧しい!とっとお…我と部下たちを移動させぬか!」


「そうですね。これ以上の異常事態イレギュラーは御免ですからね」


「小僧!貴様は必ずお、我の手で必ず葬ってくれよう!次会う時まで精々首を洗って覚悟しておくんだな!」


「なんとも情けない捨て台詞。同じ魔王軍の者として憐れみすら覚えますよ。さて、それでは皆さん御機嫌よう」


 そう言い終えると彼らの地面は魔法円マジックサークルが出現するとともに白く光った。そして眩しさから目を閉じ再び開くとあれだけ居た軍勢は跡形も無く姿を消していた。敵がいなくなったことを確認すると張りつめていた糸が切れて地面に倒れた。そして近づいてくる足音と人の声を耳にしながら気を失った。

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