111話 修行の成果

「馬鹿な人間め、これでも食らえ!<焼き払…っ!このダメージでは中級魔法は無理か⁉︎」


「チィッ!だか人間一人相手ならこれだけでも十分だ<燃えよ>フレイム!」


「危ね!」


前方から放たれた火を咄嗟に右に避けた


「避けたか。なら<凍てつけ>フリーズ!」


続く氷結魔法を今度は左に回避した。


「チィッ!こそこそ逃げ回るのだけは上手いな。だがそれも時間の問題だ。戦力の差は歴然。このまま数での攻撃を繰り返し、じわじわ落い詰めていけばいずれ…」


 しかしそれから全体で3度攻撃を畳みかけるも全てかわされて自分達との距離を徐々に詰められていた。


「全体放て!」


「「「<燃えよ>フレイム!」」」


 掛け声とともに数多の攻撃魔法が大河の前方に星のように降り注ぐがそれらを軽々とかわしながら前進した。


「くう、もっとしっかり狙え!相手はたった一人だぞ!」


「そ、そう言われましても」


「な、何故だ!何故当たらんのだ⁉」


 攻撃がことごとく空を切り魔王軍の兵士達に動揺が走る。攻撃を捌けている理由は2つあった。


 1つ目は爆発のダメージによる敵の弱体化。これにより繰り出せる魔法のレベルや魔法の射出速度の低下。同時にダメージの不安定から命中率も低下し、半分近い攻撃が外れていたこと。


 2つ目は敵の攻撃魔法速度がこれまでの経験によって充分対応範囲内の速さであったこと。


これらの理由でタイガは攻撃の嵐の中でも切り抜けられていた。


修行の成果だな



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6日前(指導3日目)

 大河はブライトと組み手をしながら自分の攻撃感覚を掴む練習をしていた。


「せいっ!」


 大河はブライトの拳をかわしながら後ろに下がった。


「やっぱりは動きが全然違うな。見事」


「でも俺特別そういった練習した覚えないんですけど?」


「だがこれだけ咄嗟の状況でも反射的に動けるのは身体に染みついているからだ。練習もなしというのは考えられんのだがな」


そう言われてもそもそも転生してから戦闘訓練なんてものはここに連れて来られてからしかしてないからな


「何か別の訓練で…ナイフやら凶器を投げられながら追いかけられるようなリアル鬼ごっこみたいな訓練はしなかったか?」


「そんな狂気じみたものはした覚えが…あっ」


 その瞬間大河の脳裏に王都に来る前のあの日々が浮かんだ。クソスキルによる狂気


そういえばあったなそんな事も凶器も何度も飛んでくる日々が。まだ一週間も経ってないのに随分懐かしく感じるな…と、思い出話みたくあの日々を振り返れる辺り結構染まってきてるな、この世界に


「どうした?突然固まって」


「…似たような経験をしたのを…思い出しました」


「そうかそうか、実に良い事だ」


良い事なのだろうか?まあ、思わぬ副産物が生み出されたと思えば確かに有意義な時間だったと言えなくもない…のか?


「だがな~、う~む」


「どうかしましたか、ブライトさん」


「これまでのタイガ少年ボーイの動きを見ていて気付いた事があってな」


「何ですか?」


「君は無意識だろうが回避する時に基本的にという事だ」


「何か問題が?」


「うむ、実に重大な問題なのだが…」


「………」


「私の愛の正拳突きラブリー・フィストがなかなか当てられないのだ」


「………はい?」


「いや~、タイガ少年ボーイのスピードに合わせて加減して動いているのもあって攻撃の度にバックステップで後ろに下がられたのでは中々当てずらくてな」


「…それがどう問題なのかイマイチ理解できないのですが?」


「なんていうか、その~拳を叩きこむことによる弟子とのコミニケーション…みたいな?そいうのをやってみたかったのだよ」


「…手加減していてもその体格から繰り出されるパンチをまともに食らったら無事じゃすまないんですけど」


「でもそれも愛の鞭ってつやじゃないか?」


駄目だこの人


「おい、やっぱりあの人致命的に教えることに向いているとは思えないんだけど」


「その内当たらないストレスでスピード緩めずに吹っ飛ばされるタイガ君の姿がありありと目に浮かぶわ」


「…まあ、大丈夫だろう?…多分。今は無事みたいだしもう少し様子を見て見守ろう」


「悠長ね」


「既にどっちを見守ってるのかわからなくなってきた」


(同感である。助け船なら早めに出してほしい。俺の方もかわすのギリギリだし、徐々にスピード上がってきてるし、ボチボチ本当に吹っ飛ばされる結末しか見えないのですが…)


「ああ、それともう一つ」


「今度は何ですか」


(またくだらないことじゃないでしょうね)


「後ろに下がることそのものが問題だ」


「?」


「あ~、今の君の攻撃手段はなんだ?」


「パンチですかね………あ」


「そう、つまりそういう事だ」


「「どういう事?」」


「何でお前たちがわからないんだよ」


「「アイタ!」」


マルグレアは2人の頭部を軽く小突いた。


「お前らが敵に距離を詰められたらどうする?」


「そりゃ距離とるわよ」


「何故?」


「そんなのこっちが不利になるからに決まってるじゃない」


「そうだ。使用する魔法にもよるが基本的に長距離。最低でも中距離以上から魔法を放てる魔術師がわざわざ距離を詰める理由がない。魔法戦士でもない限り基本魔術師に接近戦の心得などないし、多少あっても距離をとって戦った方が強いのは違いないしな。相手が自分以上の遠距離手段を持っておらず相手の距離に持ち込まれなければ一方的に攻撃出来るのが魔術師の強みだからな」


「そうだな。それで?それがブライトの言った事とどう関係してくるんだよ?」


「おい…嘘だろう?」


「あんたね、今の説明で私ですら気付いたってのに」


「あっん!?」


「簡潔に言えば攻撃手段が拳のみの接近戦しかできないタイガ君が後ろに下がってもメリットがないって事よ」


「ああ、なるほど」


「後ろに下がることが絶対に駄目だとは言わないがあくまで最終手段だな。理想は前進しながら回避する事。最低でも横に避けて距離を開けないようにしていけなければ魔法の使えないタイガ少年ボーイでは近距離戦…いや、武器すら所持できない今のタイガ少年ボーイだと拳が届く範囲の超至近距離戦でなければそもそも勝負にすら持ち込めないというわけだ」


「だから本当に必要な時のみ下がる動きを身に付けなければ冒険者としてはやっていけないだろう」


「と、いう事で…」


「「何でこっち見てんの(すか)」」


「いや~2人にも協力してもらおうかと」


 その笑みに謎の恐怖を感じたギャレンとカナリア冷や汗を流した。そしてそれから数日、特訓に付き合う形で巻き込まれていくのだった。



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