112話 反撃開始

あの修行でも色々あったもんな〜本当に。でも、そのお陰もあってこの程度の攻撃なら…


 タイガは不敵な笑みを浮かべながら次々と飛んでくる魔法攻撃をかわしていった。


「な、何なんだよアイツ!」


「低級魔法とはいえこれだけの人数で攻撃を仕掛けているのに」


「う、狼狽えるな貴様ら!アイツは所詮逃げ回っているだけにすぎん小物だ。中々捉えきれんのは癪だが、わざわざこちらが崩れてやることはない。このまま攻撃を繰り返せばいずれ…」


 その後、ボイラムの言葉が続くことはなかった。何故ならいつの間に目の前に接近していたタイガに殴られて後方に吹っ飛ばされていたからだ。


「今のは…ハズレだな。やっぱり練習と違って実践でタイミング合わすの難しいな」


「き、貴様いつの間に!いやそれよりも、さっきまで逃げ回ることしかできなかったくせにどうして⁉」


「いやあ~、この状態でどれくらい動けるのか把握しておきたかったのとお前らの魔法射出速度を確認したくて様子見していただけだ。ただまあ、


「「「な、なんだと貴様‼︎」」」


 この挑発によって魔王軍側の殆どの者の思考が大河への怒りで染め上げられた。


「奇襲による攻撃がちょっと成功したからって調子に乗るな‼︎この距離でさっきみたいに逃げられると思うなよ!お前ら、やってしまえ!」


「避けられるもんならよけてみな<燃えよ>フレイ…グヘッ!」


「何でこの距離で避けると思ってんだ?普通に殴って詠唱や呪文止める方が早いっての」


「この<燃えよ>フレイム!」


 左右から同時に放たれた攻撃。しかしそれもかわす。そして空を切った攻撃はそれぞれ反対側の見方に着弾した。


「お前らさぁ~これだけの近距離で囲って攻撃してるんだから同士討ちの可能性考慮しなよ。馬鹿なの?」


 全ての魔族が大河の如何にも小馬鹿にした物言いに腹を立てた。


 当初は魔王軍側は威力偵察が目的で多少の戦闘をした後離脱の予定だった。しかし予想を大きく上回る形でリボーン側の戦力が少数で、魔王軍側が圧倒。少々予定と違うがそのまま進行を続行。そしてあっという間に敵戦力を全滅寸前まで追い詰める結果となっていた。


 この時点で魔王軍側は完全に油断していた。防御に徹するのがやっとでまともな反撃もない相手の冒険者達たちに自分たちが脅かされることは無いと。少なくともすぐにどうこう覆ることはなであろう現状に戦闘中にも関わらず緊張感が皆無だった。


 そんな時、予想だにしない事態が起きた。部隊の中心部に発生した謎の大爆発。皆が事態を把握できず起き上がったものの、何が何だかわからないままで不安が広がっていった。


 しかもその爆発後に無謀としか思えない一人突撃をかましてきた人間に振り回され、挑発された上にかなりの人数差をもってしても討ち取れずにいた。混乱さめやらぬまま畳みかけるように起きる出来事と敵からの侮辱によって冷静さを欠き、簡単に頭に血を登らせてしまっていた。


「<燃えよ>フレイム!<燃えよ>フレイム!<燃えよ>フレイム!<燃えよ>フレイム‼︎」


 連続して魔法を放つも軌道がブレブレでまともに大河の付近に飛ばす事すらできていなかった。


「一体どこに向かって撃ってるんだよ?当たってないどころかそもそもまともに俺に向かって撃つことするできてないぞ。どうやったらそんなに雑な連射…いや、周りを巻き込んだ乱射まで精度を下げられるんだ?はは~ん、さては普段の憂さ晴らしをしたくてワザと標準をズラして撃ってたんだな」


「「「なっ‼︎」」」


「貴様、何を言って…」


「この機に乗じて目障りな連中に嫌がらせして、あわよく亡き者にしようとしていたんじゃないのか?」


「な、なんだと!」


「お、お前…」


「い、いや。俺は決してそんな事は…」


「いや~流石魔王軍の猛者達は考える事が違うな~。俺には仲間を狙って攻撃なんてとてもできないな~」


「こんの、裏切り者がぁー!」


「だ、騙されるな俺はそんな事を思っては…」


 言い切る前に大河が目の前に現れた。突然大河が目の前まで接近してきた事で追い払う様に詠唱する。


「<燃えよ>フレ…」


 しかし呪文を唱えている途中でタイガは忽然と姿を消した。


「イ、ム!」


 なんとか止めようとするも時すでに遅く、自分の放ってしまった魔法攻撃フレイムは自分の前方にいた味方に向かって飛んで行ってしまい、対象になってしまった者は突然の事でパニックになってしまい身動きがとれず、訳が分からないまま被弾してしまった。


「て、てめー!バレて堂々と狙い撃ちとはどこまで腐った野郎なんだ!」


「ち、違う!アイツが目に前に現れたから咄嗟に…」


「それを利用して狙い撃ったんじゃねーのか?」


 魔族達が仲間同士で混乱している隙に一人、また一人と奇襲して攻撃していった。


「ええい!仲間割れしとる場合か⁉兎に角まずはあの小僧だ!一刻も早くあの小僧の討ち取れ!」


(((そうだ、まずはアイツを!!)))


「「<燃えよ>フレイム!…ギャアー!」」


「ど、どこ狙って撃ってるんだ!」


「そっちこそ狙って撃ったんじゃねーのか⁉」


「なんだと!」


「うわ~両方ともびっくりするくらい下手、下手過ぎる。幼児の方がまだ命中率高いだろうな~」


「「こ、この野郎~!」」


「上官が頼りないとやっぱり部下も駄目駄目だな~。歯ごたえなさすぎてつまね~な~」


「言わせておけば貴様~!」


 やっきになった魔族達は是が非でも当てまいと怒りのままに魔法を連発するものの元々爆発のダメージで制度の下がっていた魔法攻撃は更に命中率を下げる事になった。その上、四方八方から怒りのままに撃ち合うものだから、連続の同士討ちを巻き起こし、味方同士でどんどんと数を減らしていってしまった。


 煽って嘲笑うように挑発していく大河。一見舐めてかかっている行動に見えるが、その実本人は全く油断などしていなかった。寧ろそんな余裕は彼にはなかった。


ふぁ〜相手を挑発して引っ搔き回す。策といっていいのかすらわからない単純な作戦が成功してよかったぁ〜!流石にこの数だし、まともにやってたら流石に勝てないからな多分


 敵軍を前にし、攻撃の雨に晒される中、真っ向勝負では厳しいと判断した大河は圧倒的不利を覆す為、まだ爆発の混乱が残る中で敵軍を焚きつけて判断力をを奪いにいった。結果、冷静さを欠いた魔族達は荒れて、大河は精神的アドバンテージを獲得し、戦いの主導権を握ることができた。


 だが、大河が真っ向勝負が厳しいと感じた理由は数の差以外にもう一つあった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る