71話 才能(タラント)


 数分して思考はある程度平時レベルに回復しつつあるものの、心のモヤモヤとした感じは払拭しきれなかった。


(マイナスって何?マイナスって。いくらサブとはいえあんな使えないユニークスキルがチート枠とかいうとんでもないハンデ背負わされてるんだから、その他ぐらいは優遇してほしいとは思うけどそんな贅沢言わないのでせめて常人レベルの数値にしてください)


「でも運気って冒険者にとってそこまで必要な数値では…ない…とされていますから気を落さないでください」


 マイナは大河ブツブツと唱え続ける姿を見てられずなんとか励まそうとするものの何とも歯切れの悪い感じを大河は見逃さなかった。


「本当のところはどうなんですか」


「えっ?」


「ここまで来たら気を使って嘘をついてもらわなくても大丈夫ですよ。後々分かってから落ちるか今落ちるかの違いだけですから」


「そ、そうですか。しかし決して嘘をついていたわけではなく世間的にはそこまで必要ないと囁かれているのは本当の話なんです。実際戦闘で必要となってくるのはメインステータスの5つが基本ですから。ただギルドの系統データによりますと…その…」


 マイナが言いうかどうか躊躇しているとしびれを切らした大河が少し強めに言い寄った。


「何ですか?」


「運気の低い方は依頼中にモンスターの大群に出くわしてしまったり、想定以上の格上のモンスターと遭遇してしまったり、他にも色々と不幸なことが起こったりとして…言いにくいのですが運気の低さに釣られて冒険者に危険が増す傾向があると申しましょうか」


「つまり冒険者家業をやっていく上で他の冒険者よりも危険が付きまとい、予想外の出来事に巻き込まれやすいという事ですかね?」


「まあ…そういう事になりますかね」


 気まずそうに奥歯にものが挟まったように言いながらマイナは目を反らす。


「ぶっちゃけると他の冒険者より死亡率が高いってことですよね」


「そんなこともないような気がしなくもないような…」


 マイナは視線を泳がせながらどうしようかと悩んでいると目があったエルドに助けを求める視線を送るも、視線を晒されてしまった。


「で、ですけどデータ上でそういうケースが多くみられるというだけでして必ずしもそういった結果になるとは限りませんし」


「でも俺の運気は過去最低数値なんですね。普通に考えると他の数値の低い冒険者と同じ末路を辿らない方がおかしいと思うのですが」


「うっ」


「いや寧ろそれ以上の悲惨な結末を辿る方が妥当だと思うのですが」


「で、でもタイガさんとても新人とは思えないくらいにステータス高いですし、才能タラントやスキル次第でいくらでもカバーできると思われますから元気出してください」


「………そ、そうですよね」


(他は優れてるみたいだし気にしないようにしよう。それに謎も一つ解けたしな)


 大河はこれまでの己に身に起きた事を回想した。


(完全ランダムとはいえ何故あそこまでマイナス効果に偏ったものしか引き当てられなかったのかようやく分かったよ。しかし最初に使い始めた辺りは割と平均的と言うかそこまで不平等じゃなかったと思うんだが何故なんだ?)


「それじゃあ才能タラントの方を見て…え?」


「どうかされましたか?」


「いえ…才能タラントが4つ以上あるのに驚きまして。思っていたよりもかなり多かったものですから」


「そうなんですか?」


「それはそうですよ普通は1つ、多くて2つ。3つ所持されてる方なんてかなり稀なんですから」


「経験を積まれて後からスキルを会得しておられる方はいくらかおりますが文字通り才能タラントを数多く所持しておられる人はあまりいませんからね」


「様々な冒険を通じて自身の奥深くに眠っている才能タラントが発掘されたり、したりすることも稀にありますが、冒険前で2つ以上。つまり複数の才能タラント所持は充分将来性があることの証明でもあります」


(何それやったー!またしても神のズボラな性格が発揮されたおかげでバランス調整でもミスったのだろうか?まあ他が崩壊しまくってるんだからそれくらいはあってもらわないと…)


「あっ、でも…」


「?」


「いえ、何でもありません。とりあえずめぼしいのは剣士Aと…格闘家Bですかね。剣士Aは剣の切れ味を増し斬撃の威力が1.25倍になります。格闘家Bは両手に何も装備していない時肉体の強度が上がり防御力が1.25倍になります」


(おおー!ようやくまともぽい効果が…あれ?でもこの才能タラント同士って…)


「ある意味かなり珍しいですね剣士と格闘の両方の才能タラントを持っておられるのは」


「やっぱりそうなんですかね?」


「ええ、まあ。説明の時点で大体お察しだとは思いますが正直なところこの才能タラント同士は効果の制約上重ね掛け…と言うより同時発動が出来ません」


「ですよね~」


(剣を装備している間は剣士の効果が適用されるけど同時に剣を手にしてしまっているから格闘が発揮されない。逆に格闘の効果が発動している時は剣を握っていないわけだから剣士が発動しない。なんてマッチポンプ。でもまあ…)


「二重効果が得られないのは残念ですけどまあ仕方ないですよ。本来ならそもそも複数所持している事がそもそもないみたいですし、そこは贅沢な悩みと割り切ることにします」


「そうですか。他は…調才能タラント


 まるでさっさと終わらせたいと言わんばかりに早口言葉でまくしたてた。それを見て大河も何も聞かずに次の項目に移りたかったが今後の為に尋ねる事にした。


「聞いた感じ戦闘系の才能タラントには全く思えないのですがどんな効果があるんですか?」


「…料理Aは自らが調理した料理に経験値を付与するもので、調理器具Eは調理器具を所持している際に速さが2倍になる才能タラントで清掃Bは掃除道具使用時の除菌力アップなどでして…中々珍しい才能タラントですよ」


「……」


(まあ、良くて2つなのに文句を付けるのもアレなんですがね、後半部分の才能タラントのはオマケというか、もし冒険者が上手く行かなかった時の為の保険なんですかね?

そう思わずにはいられないくらいにチョイスが…)


 珍しいと言われれば聞こえはいいが『そもそもそも冒険者にどれほどの需要があるのか?』と大河心底考えさせられた。


「ということはやはりモンスターと対峙した時には必要性のない才能タラントなんですね?」


「で、でもいつかお嫁に行くときには必ず役に立つギフトかと」


「俺は男性なんですけど」


(一体どんな人物の元にに送り出されるですかね?)


「あ、まだ他にもありますね」


(完全に話反らしたなこの人)


「……」


「?」


(何だ?顔色が…)


 マイナが次の才能タラントに目をやってから何も喋らず固まったままで、表情が若干青ざめている様にすら感じられた。気になって才能タラントを確認しようとした。


____________________

才能タラント

剣士A:剣を装備している時に攻撃が1.25倍になる


格闘B:両手に何も装備していない時に防御力が1.25倍になる


料理B:自身が完成させた料理を口にした者 に料理の美味に応じて経験値を付与する


調理器具E:調理器具を所持している際に速さが2倍になる


清掃B:掃除道具使用時の除菌力がアップする


……

____________________



 しかし


________________________________

 ●才能タラント

 ●耐性

 ●スキル

 …

________________________________


 マイナがの才能タラント欄を再度押した事によって収縮し、目にする事が出来なかった。


「…これ以上は見ない方がよさそうなので次に進めましょうか」


「…そうですね。そうしましょうか」


(さっきのものと同等か、或いはそれ以上に需要のないスキルだったんだろうな。それなら俺もこれ以上見たくないから飛ばさせもらおう)


 大河はこれ以上変なものを視界に入れるのを嫌い、特に深く考えずマイナの提案通り閲覧しない事にした。

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