66話 定例会議後

 会議が終了しお偉方が一通り王城を出た後国王、大河、隊長の残った面々が運ばれてきた紅茶を口にしていた。


「今回の定例会議は早朝に行うことになってしまい色々と大変でしたが何とか無事終えることができましたね」


「え?今回の集まりって異例な事だったんですか?」


「ええ、王城が集会場所なのはいつも通りなのですが普段であれ朝ではなく夜に集まっていただき晩餐会と同時進行して行うものですから。皆様立場的にもご多忙の方々ばかりでございますから」


(結局ご飯は食べながら行うのね)


「それにしても色々と凄い集まりでしたね」


「初めての定例会議は楽しんでいただけたかな」


「会議を楽しむとか斬新なワード初めて耳にしましたよ」


「貴重な体験はできたのでは?」


「…珍しい体験は出来たと思います」


(必要な経験だったとは思えない…とは言えないか、特に終盤部分の情報が)


「まあこの経験がきっと役に立つ時が来るだろう」


(そんなありもしない未来は訪れないでしょうし訪れてはならない。何故ならその時は俺が苦労の絶えない生活によって廃人と化して、過労死する末路が明確に見えるので…と普段なら思えたんだけどな)


 大河は悟られないように心の中で溜息を漏らした。


(俺の事情を知るよしもない陛下かが特別深い意味で仰っているわけではないと思うけどさっき俺の失態によって必要性のない責務を無駄に負担させまくっている事が判明した後だと『己の行った事に対して責任を感じているのなら娘を娶って今回の件を活かして挽回してくれ』と言っているうに感じてしまうんだよな)


 当然国王がそのような意図で口にしたわけでないことは大河も頭では理解はしていたが自分の行動によって無駄に背負わせてしまった業務の数々を考えると罪の意識から責任を取らねばと考えてしまいありもしない妄想に思考が捕らわれそうになっていた。


「そういえばタイガ殿は今日はどうされるのだ。予定がなければリリカとルルネに案内してもらい城の中を自由に探索するのも面白いとおもおうぞ」


「お気遣いいただき感謝いたします。しかし本日は予定もありますのでそれはまた別の機会にさせていただきます」


「そ、そうか。ところで予定というのは?」


「少し冒険者ギルドに用があって」


「ほう、中央のギルドにかね?」


「えっと、確か…南の方のギルドだったと思います」


「その様子だともしかして王都にはまだ馴染んでいないのかね」


「はい、実は昨日王都を訪れたばかりでして」


「そうだったのか」


 少し考える素振りをすると提案してきた。


「それならば隊長に王都を案内してもらうのはどうだろうか」


「流石にそこまでお手間をかけるわけには…」


「別に気にすることはない。君のお陰で結果的に隊長も無駄な仕事が減って助かっていることだしな」


(その無駄な仕事とやらは王女様方の逃走癖を指しておられるんですかね)


「ええ、そういった付き添いであれ喜んでご案内いたします」


「そうですか。そうおっしゃっていただけるのなら…」


「お待ちください!」


 話がまとまろうとしていたところをいつの間に大河の後ろで待機していたメイド姉妹が口を挟んだ。


「そういったことは私たちにお任せくださいませ」


「だがお前たちは王城に勤務してそこそこ経ってはいるが都市を案内にできる程詳しくは…」


「大丈夫です。王女様方を捜索する時多方面を走り回っておりますから嫌でも把握しております」


「でもタイガ殿は確か冒険者ギルドに用があるのであろう?案内という意味では隊長の方が何かと良いのではないか?」


「で、ですが連れ歩くならやっぱり新鮮ぴちぴちな可愛い女の子の方が男性は嬉しいじゃないですか」


(新鮮ぴちぴちって人に対して形容する言葉じゃないと思うけど…というか自分で可愛いって言ってるし)


「うぅーむ、タイガ殿どうだ?どちらを連れて行きたい」


(正直メイド姉妹を連れて行って絡まれるのは御免だからな。ここは…)


「それなら隊…」


 タイガが言い終える前にリリカとルルネが左右から袖を引っ張られた。そして耳元で囁かれた。


「お願いします連れて行ってください!残ってしまっては最悪タイガ様が帰ってこられるまでまたクラリス様やエルノア様のお相手をせねばなりません。それだけは避けたいのです!」


「決して邪魔はしないと誓いますからお願いします!」


(どうしようか)


 大河は少し悩んだ。正直今朝や機能の仕返しとして置いていってしまいたいところではあったが、ここで断って2人の機嫌を悪くするとそれはそれで帰ってきてからが色々面倒だと思った大河は2人への仕返しよりその後の自分の平和の方を取ることにした。


(仕方ないか)


「静かにしてもらえるのであれば自分はどなたでも構いませんよ」


「それなら3人に案内してもらえばよいだろう」


「流石に3人も案内していただくのは…」


「お任せください陛下。洗練されたガイドをご覧に入れます」


「やります!ぜひやらせていただきます!」


「ええっと…まあ私は元より構いませんよ」


「…隊長に異論がないのであれば自分も問題ありません」


()


「そ、そうか。タイガ殿がそう言われるのならそうしたまえ」


((何も起こらないといいけど))


 王様も大河もそれぞれ思うところはあったが敢えて口にはださず言葉をのみこんだ。こうしてリリカ、ルルネ、隊長の3名と共にギルドに向かう事が決定した。



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