67話 ただギルドに行くだけなのに…
「メイド長、悪いが4人を目的地まで送ってあげてくれ」
「かしこまりました。皆さん手を繋ぎあって輪を作ってください」
大河は言われた通り近くにいたルルネとリリカの手を掴んでエルド隊長を含めて円になった。
「タイガ様申し訳ありませんがもう少し2人の手を強く握ってもらってよろしいでしょうか。そして頂かないとタイガ様が即死してしまわれれうかもしれませんので」
「はい、分かりまし…すいません、今サラッととんでもなく不吉な事おっしゃりませんでしかた?」
「…申し訳ありません。今のは私なりの軽いジョークでございます」
「全然軽くないのですが!」
「すいません。表現が大袈裟過ぎましたね」
「まったくですよ」
「色々あってご自身の腕とお別れするかもしれない程度の些細な問題だというのに私の勝手な感覚で誇張な言い回しで誤解させてしまい申し訳ありませんでした」
「ごめんなさい。俺が悪かったので腕がなくなるかもしれない一大事を『些細な問題』だなんて軽い出来事みたいに軽んじるのはやめてくださいお願いします」
(腕とバイバイするかもしれないって俺一体何させられんの!?)
王城勤務のエルド隊長やメイド姉妹が一緒の時点でそのような危険なことが起こる筈がないと頭では思いつつも自分の体の一部とサヨナラするかもしれないといった恐ろしい重大事項を定期報告でもするかのように顔色一つ変えずに軽々しく口にする彼女に恐怖を抱かずにはいられなかった。
「そうなのですか昨日のクラリス様への対応を見る限りは自分の命もいとわない。自殺志願者と思えるほど己の命に執着のない方なのかと」
ある意味禁句に近いその話題に触れられたくなかった大河はなんとか話を晒そうとした。
「えっとこんな感じで握ればいいですか?」
「いえ、もっと最愛の恋人とのデート直後に家に帰るために別れなければいけないけど別れたくないみたく愛情を伝えるようにもっとギュッと握ってください」
「その表現は必要なんですかね?」
「愛情を伝えるためには時として言葉ではなく行動で示す必要もあるのですよ」
「何の話をしてらっしゃるんですかね!」
(どのような形で彼を知りませんけど恐らくは移動する為に必要だから行っているであろう
「それはそうと…少々失礼いたします」
メイド長は大河の背後に回ると彼の背中に手を置き、何かを確かめるかのように触り始めた。
「あの、何をされてらっしゃるんですかね」
「タイガ様のボディーラインをチェックしているのです」
「それって必要なことなんですか」
「当然必要なことです。他の皆さんはよく知っておりますし慣れているので必要ありませんがタイガ様は初めての上に情報不足ですのでいろいろ把握しておかねばなりませんから」
「はあ、そうなんですね」
「それに先程までエルド隊長を起点として指定テレポートを行おうと思っていましたが安全を考慮して大河様を起点とすることにしました」
「それならさっき言っていた腕とさよならする事はなくなったってことですか?」
「はい。十が一、失敗したとしても腕が消滅する事はなくなったと言っていいでしょう」
失敗確率が10%と言う現実的に普通に起きてしまいそうな数字を口にされたことに思うところはあったものの最大の懸念事項であった身体的消滅がなくなったと本人の口から聞かされたことによって大河は安堵した。が…
「失敗時のリスクが腕の消滅からなんやかんやあっての体の爆発に変わっただけでございますが安心されたのなら良かったです」
「ちょっと待ってください!それ『変わっただけ』とかで流せるような軽いものじゃないですからね?大体なんで安全策をとっているはずなのにリスクがさっきより数段跳ね上がってるんですか!」
「失敗の確率を下げるために失敗時のリスクが少しばかり上がっただけでございます。言い換えるなら失敗の対象が腕から胴体。或いは頭部に切り替わっただけでございます」
「それけっこうな違いですからね!一部切断と即死ってかなり違いますからね!」
(ダメだ。このままここにいてしまっては爆弾処理班の失敗後みたいなことになってバラバラ殺人も真っ青になるくらいのパーツ死体が完成してまう)
浮かび上がってくる恐怖心から大河は無言のまま部屋を去ろうとするが発症部屋の外に踏み出した途端に背後からメイド長に肩を掴まれた。
「タイガ様、一体どこに行かれようとしてるのでしょうか」
「わざわざ送ってもらうのも申し訳ないのでやはり自分の足で向かおうかと」
「まぁそれはとんでもないことでございます。わざわざそのようなお手間を取らせるわけには参りません」
「その手間のせいで俺死ぬかもしれないリスクを背負わないといけないんですが!?」
「王城に勤務するメイド長たるものがお客様にそのような無礼を働いては陛下の意見に関わりますので」
「腕チョンパや人体爆破がある可能性のものを客人に対して行うことこそが無礼だと思うのですが。他の移動手段はないのですか?」
「タイガ様、王じょ…聞き分けのない幼児の様に我儘を言うのはおやめ下さいませ」
「言うほど我儘ではありませんからね!」
(逆にこの対応に対して注文を付けない人の方がいないでしょう)
「メイド長。そもそもあなたは
「人が起こす行動の中に失敗が0%なんてものは存在しません。だからこそ人は傲慢にならず謙虚でなければならないというのが私の持論で御座います」
(その意見にはうなずける部分もあるけど…)
「だからって何もわざわざ10%にまで引き上げて恐怖心を煽る事はないんじゃないですかね」
「私はとても慎重な性格ですので物事の失敗する可能性は多めに見積もるタイプなのでございます」
「それが悪いとは言わないですけど当事者には正規の確立を提示していただきたいですね。心の平穏の為に」
「それはまだタイガ様の精神が未熟なだけかと」
(イラッ)
「それにこう見えても私もか弱い乙女でございますから」
「それ何処が関係性あるですか?」
「あ、頭の方も失礼します」
「スルーですか」
メイド長が大河の額に手を置いてから僅か2、3秒で閉じた目を開き手を離した。
「個体情報の収集が完了したのでお送りしますね」
(ようやくか)
「情報収集って確か頭を触れるだけで把握出来たと思っていたのですが」
(え?)
「確かにテレポートの為に必要な情報は少し額に手を置くだけで充分です」
「背中とか肩とか触ってたのは爆発しない為にじゃなかったんですか!」
「あれはメイドとしての仕事の為で御座います」
「何ですかそれ」
「タイガ様は体つきは及第点ですが、身長は後15センチから20センチ程
欲しいところですね。そして筋力を想像しつつ事はもっと柔軟でしなやかな体になることをお勧めいたします」
「えっ?あ、はい」
(何かの助言だったのかな?それともただ適当にあしらわれただけ?)
「リリカ、ルルネ。くれぐれも粗相のないように」
「「心得ております」」
(貴方がそれを言っちゃいますか…)
「それではいってらっしゃいませ」
大河は青白い光に包まれながらまだ出発すらしていなにのに肩に重くのしかかるような倦怠感に溜息を吐くのだった。
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