61話 大河の席は陛下の隣?


 大河は身支度を済ませると直ぐに食堂へと走りながら急いだ。


「タイガ様、廊下を走られては危ないのでよく考えてから行動してくださいね」


「そうですよ。時間がないからといって焦ってはいけません」


「誰のせいで時間がないと思っているんですか!?」


「それは勿論起床が一般よりも遅かったタイガ様が原因だと思われますが」


「ぐっ!」


 言い返したかったが一理ある上にこれ以上口論によって体力と精神を削りたくなかった大河は問い詰めるの止めた。


 メイド姉妹に案内してもらい到着した部屋の扉を開けると漫画やテレビなどでしか見たことのないような真っ白なテーブルクロスに覆い被された長テーブルに料理が蓋をしておかれていた。しかしそんな物よりもエルド隊長と国王が先に着席し着席してしまっていた。人を、それも一国の王を待たせてしまっていたことに多大な恐怖心と罪悪感を覚えた。


「お待たせする形になってしまい申し訳ございません!」


「大丈夫、私もついさっき来たところだ。それに恥ずかしながらまだ我が娘たちがまだ来てないみたいだしね」


「まあいつもの事ですしね」


「そう言っていただけると助かります」


「私より遅かったからとて別に気にする必要はないぞ」


(それは無理じゃないですか?)


「大抵の人はそう言われてもどうしても気にするものだと思いますよ」


「まあそれは置いておくとして、その様子だとぐっすり休めたようで良かった」


「はい、お陰様で」


「昨夜は食事も口にできなかったようだし少し多めに作らせておいた。食べ盛りなんだ遠慮せずに食べてくれ」


「そ、それはそれはお気遣い感謝します」


(テーブルの料理が他の家庭なんかとは比べ物にならないくらい多いのは俺が理由ではありませんよね?王族の食卓故に品数が多いだけですよね?)


 テーブルに並べられた皿は蓋がされているため中こそ見えないが枚数だけで言えば明らかに2桁をゆうに超えるかずが配膳されており、その数に大河は頰を引きつらせた。


(ないとは思いますがこの量が俺を思っての事ならお気持ちは大変ありがたいですがこんなに俺の胃袋には入り切りませんからね?)


 出来れば確認したかったが確認してしまいもし自分の為の増量だった場合は完食せねばならい流れが確定するかもしれないリスクを考えると聞くに引き出せなかった。そんな感じで大河存在しない重圧を感じながらプレッシャーを感じているとそれを察したエルド隊長が声をかけた。


「大丈夫ですよ。普段からテーブルの長さ自体はこんなものですがこんなに料理が置かれているのはタイガ殿の事を配慮しているからではありませんよ」


「そうなんですか?」


「ええ、今日は週に一度の定例会議の日なのです。王都あらゆる管理者や責任者たちが集まる日なんです。なので当然それに比例してテーブルに用意される皿の枚数も増量されているというわけです」


「へ~、食事をしながら会議が行われるなんて変わってますね。ん?というかそれって結果的に私も同じテーブルに着くという事でしょうか」


「まあ、そうなりますね」


「………あの、僕だけ別の部屋で食事をとらせてもらうわけには…」


「別に遠慮などせずともよいのだぞ」


「遠慮はしてませんよ」


(断じて)


「口に合わない品があれば好きに言ってくれて構わないぞ」


「…好き嫌いは特にないので大丈夫です」


(違う!気にしてほしいのはそこではありません。ただでさ陛下と同じテーブルに着くとか場違いでしかないのに更によくわからない権力者が並ぶとか俺別にいる必要ないですよね?)


 そんなやり取りをしているとエルド隊長の言っていた責任者たちが続々と到着し、大河の入ってきたドアから入っていた。通行の邪魔になると思った大河は咄嗟に壁際によって人の行き来がなくなるくのを待っていた。


「おはようございます陛下」


「相変わらずお早いですね」


 訪れた人たちが次々と席に座りだし大抵の椅子に腰が下ろされた頃にようやく自身が出遅れて席を確保し損ねたことにを自覚した。


(やべ!ぼっーとしてる場合じゃなかった。もう後側の席ほとんど着席されちゃってるじゃん。とりあえず前以外で残ってる席に…あっ、ラッキー)


 大河が気付いた時にはすでに遅く、余っているのは4席しかなかった。しかし幸いな事に残されている一席が国王の席から一番遠い位置に置かれておりは安堵しながら駆け寄ろうとした。しかし…


「ああ、タイガ殿の席は私の隣ですぞ」


 非常にも運よく発見できた唯一の脱出口を塞がれるような感じでエルド隊長の一声によって制された。


(よりによってこんなタイミングで。しかも隣って…ほぼ一番前な上に王様の隣じゃないですか。嫌だ―!)


「いや~自分は一番隅っこの方が…」


「こっちの席も一番隅っこですよ」


「いえ、あの…そういう意味で言ったのではなく」


(同じ角の席なのにどこかの高貴な方のせいでその席は微塵も影の薄さを感じられないというか、どうしたって陛下が話をされるとき余計に注目が集まると思うのですけど)


「こういった事はなるべく経験しておいた方が後々役に立つ思いますよ」


(少なくとも普通に暮らしていけばこんな経験することはありませんし、当然こんなよくわからない注目の浴び方をしてしまったことが糧となることもないと思うのですが)


 出来る事なら断りたかったのが山々だったが、着席していた場も知らぬ大人たちからの視線に耐え切れず、タイガは仕方なく前方の席へと足を運び腰を下ろした。


(嫌でも視線が突き刺さるのを実感させてくるなこの席)


「陛下ところでその少年は何者なのですか」


「もしかして陛下の隠し子ですか」


「スポバラッチさん、流石にそれは笑えませんよ」


「それでどうしてこの会議に出席させているのですか」


(それは俺も是非聞いてみたい。そして正当性がなければできる事なら今すぐにでもボッチでもいいから個室に移動させてほしい)


「一言で言えば…婿殿だ」


「「「え!」」」


「はい!?」


 国王の口からサラっと放たれた重大案件にその場に来ていた集まっていたほとんどが眼を点にしながら驚いた。当然大河はそれ以上の驚きと焦りがあふれ出した。


(俺昨日その件は断りませんでしたか!?まさか俺を呼ぶとき殿呼ばわりしてたの罪悪感とかじゃなくてそうなるというか、そうするつもりだったからなんですか?)


「へ、陛下!それは本当なのですか」


「いつ。いつ決まったのですか」


「どの王女様との婚約なのですか」


 陛下の一言によって大混乱となっていた。そして先程とは別の意味で視線が突き刺さり、否が応でも自身がよくわからない状況に置かれ注目を浴びてしまっているのだと思い知らされた。


「あの陛下。私の方は婚約を交わした記憶がないのですが…」


「あはははは!すまんすまん軽い冗談のつもりだったのだが」


「な~んだ。冗談ですか」


「盛り上がって損しました」


「皆さん色々と失礼ですよ」


「本当に冗談なんですか?」


「残念ながら現段階ではそういった事になっていない」


 少し間を置き囁くように、しかしはっきり聞き取れるように呟いた。


「今はまだ…な」


(ちょっと!そんな意味深な後台詞残すのやめてくださいよ!)


「へ~今は…ですか」


「それは楽しみですね」


「もしかしたら王女様も落ち着かれて王都も静けさを取り戻せるかもしれませんね」


(ほら、陛下がそんな言い方するもんだから何でかわからないけど他の方々が期待したような視線があちこちから送られてくるじゃないですか。やだ~もうお家帰りた…くてもいえないんだった。それならいっそお墓帰りた…俺のお墓ってどこに建てられたんだろうか?というかお墓自体建てられたのかな?いや、流石に誰かが立ててくれたよね…多分)


 突然の出来事にパニックになり自身ですらよくわからない方向に大河が考えを進ませて脳内暴走真っただ中のその時、まだ出会ってから一日しか経ってないにもかかわらず大河の中でなるべく会いたくないランキングトップ5に軽々入った王女がやって来た。















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