60話 城の生活は朝からハード?

 窓から差し掛かる日の光によって目を覚ますと見慣れない室内の風景が目に入り、昨夜の事を思い出して王城に泊めさせてもらった事をまだ寝起きで回らない頭ながら理解した。


(うぅ…肩が重い、頭も。まるで二日酔い…よりも症状が悪いなこれは。首が異様なレベルで硬くなってるな)


 昨日の疲れが大きすぎたせいか寝起き早々に全力を使い切った直後のように体の軋む感覚に朝から憂鬱になりそうだった。しかし辺りを見渡すとまだはっきりしなかった意識が一気に目覚める程の光景が目に入った。


「おはようございます、タイガ様」


「ぐっすりお休みになっれたようで安心しました」


 声のする方にそれぞれ視線を移すとそこには昨日見事に大河の中でなるべく関わりたくない・会話したくない人物トップ10入りを果たしたメイド姉妹が視界に映った。同時にいるはずのない人物が自分の部屋のそれも自分の目の前で顔を覗かせていることで驚きあまり一気に目が覚め叫び声をあげた。


「ギャーーー!!」


「キャー!何ですか?何ですか?」


「オバケ?オバケですか」


「オバケなんかじゃなくあなた方の事を言っているんですよ!」


「何だ、びっくりしました」


「早朝から脅かさないでくださいませ」

「その言葉そっくりそのままお返しします。こっちは驚きのあまり心臓が停止するかと思いましたよ。何でこの部屋にいるんですか」


「「?」」


「何で2人して『何言ってるのか意味わからない』って顔してるんですか。どうしてノックもせずに入室しているんですか」


「必要ですかそれ?」


「大いに必要だと思います」


(ここのメイドさんの教育はどうなってるんですかね)


「というか他の方々が宿泊されたときでもこのように宿泊者の了解を得ずに入室しているんですか」


「え?そんな失礼な事するわけないじゃないですか」


「そうですよ。タイガ様みたいな何かあっても問題なさそうな相手にしか到底こんな無礼極まりない行いはできません」


 2人の満面の笑みで語られるおちょくってるとしか思えない内容に大河は起床して早々にフラストレーションが一気に溜まった。


「タイガ様が昨夜私たちの話を途中で切り上げた事を根に持っているからとか決してそういう事ではありませんからね」


「そういう事な顔をされてるのですが?」


(つまり完全な嫌がらせ…というか八つ当たりだな)


「とりあえずこのまま待遇が酷いようなら陛下に頼んで他のメイドさんにお世話してもらおうかな」


 大河の予想外の呟きにリリカとルルネは青ざめて慌てだした。


「な、なんてことを言い出すんですか!」


「そうですよ。どうしてそんな非道な行いを実行しようと思えるんですか!」


(ただ担当替えを頼もうとしてるだけなのにボロクソ言ってくるな)


「今のは貴方たちのいう可愛いジョークというやつですからそんなに心配しないでください」


「だったら最初から人が心配するようなことを口にしないでください!」


「そうですよ!そんなのが可愛いと思っているだなて頭おかしんじゃないですか!?」


「その言葉はのしつけてお返ししますよ」


「あれは女性側がやるから受け取り側が可愛らしいものと思えて許されるのです」


「そうです。男性がやったところで可愛くないどころかウザいだけです」


(実行するのが女性側であってもウザいことに変わりない気がする)


「兎に角これ以上俺をからかおうものなら陛下に頼んで担当を変更してもらいますから」


「はあ、仕方ありませんね」


「戯れるのはこの程度にしておきましょか」


(まあ朝になったら出る予定だからもう関係ないと思うけど)


「それで無断で入室したのは俺をからかうためだけですか」


「ああそうでした、すっかり忘れてました着替えの洋服をお持ちしました」


「今着用されているのは私たちの方で選択しておきます故」


「ああ、どうも」


 そう言われ特に考えることなく手渡された衣服を受け取った。しかし予想外のデザインの物だった。


「あの…なんでロングスカートなのですか」


「え?いけませんでしたか」


「いや、いけないとかそういう問題じゃなく」


「とてもよくお似合いになると思ったのでお持ちしました」


「かなり無理のあるジョークだと思うのですが」


「これに関してはジョークなどではございません」


「ええ、真剣にお似合いになると思っております」


(ここまで満面の笑みで褒められて嬉しくない誉め言葉が他にあるのだろうか?)


「他にちゃんとした服装の物はないのですか」


「そんな、これは貴重な素材で作られた品なんですよ」


「そういう意味で指摘したのではないのですが」


「そうです!クラリス王女様の衣類はしっかりとした最高峰の職人の腕で作られているんですよ」


「ちょっと待てい!なんて物着せようとしてんだよあんたら!」


(もし寝起きかなんかで寝ぼけたまま着て行ってしまって服のことがばれたらもしかしなくても即刻処刑コース濃厚なんですけど!)


「そんなおぞましい物近づけないでください!とっとと別の服を持ってきて!」


「仕方ありませんね。それならかなりサイズは小さいですがエルノア王女様の服を…」


「そっちもさっき物と大して変わらないでしょうが!」


(寧ろ代物的には女装趣味の変態の称号だけでなく幼女趣味の外道までついてきかねないそっちの方クラリスの服がもっとヤバイのですが…)


「そうですよ。流石にサイズが違い過ぎて着用するのは難しいですものね」


「サイズなんかよりも気にするところがあると思うのですが」


「どうしても駄目ですか」


「当たり前です!」


「でもそれだとせっかくお洋服女物に合わせて持ってきた|ウィッグが無駄になってしまいます」


「そうですよ。わざわざ王女様とお揃いになるように黒髪と金髪クラリスとエルノアの同じウィッグを準備してきたのに」


「そんなくだらない物なんかよりもっと準備しないといけない物は他にもいろいろあったでしょうが!」


 大河は必要な準備は皆無なくせに不必要最大限の衣服やらウィッグは用意されていたことで起床して早々に深くため息をついた。


「仕方ありません。世話が焼けますね」


(どっちがだ)


 渋々といった感じでリリカ差し出してきたのは汚してくださいと言わんばかりの真っ白な服のズボンと上着の上下。正直もっと汚れにくい服を用意してもらいたかったが、これ以上何か言おうものなら余計に状況の悪化を辿ることが容易に想像できたのでまともな格好な分いくらかましだろうと妥協した。



「タイガ様。一つ言い忘れていたのですが」


「変な事ならもういりません…」


「陛下が一緒に朝食を取りたいとの事で恐らく今食堂で待っておられると思いますよ」


「最重要事項じゃないですか!何ですぐに言ってくれなかったんですか」


「今思い出したのです。まあ急がないと流石にまずいでしょうからなるべく早く…」


 大河はルルネが言い終える前に服を取って2人を部屋からたたき出し、学校を遅刻寸前で急いでいる学生よりも切羽詰まった感じで迅速に着替えていた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る