56話 何故が国王から娘との結婚を勧められました2
「くっ、ならばクラリスはどうじゃ。あの子ならばお主と歳も同じだし、美人で頭も良く、落ち着いていてスタイルもいい。我が娘ながら非の打ちどころがないと思うのじゃが」
(確かに妹の方と比べて落ち着いているし言動も王女として育てられただけあって丁寧な口調だったな。俺に対してはかなり辛辣だったけど。でも既に精神的に落ち着いている年齢や性格だからこそ俺に対しての扱いが変わる事わないだろうし…)
「色々とそりが合わないといいますか、相性が悪いみたいなので難しいかと存じます」
(大体片方と結ばれてしまうと結果的に結婚とかとは関係なくもう片方がついてきてしまう気がする。特に姉の方が結婚する側でもしない側でも妹から離れない気がする。そんな買い物レシートよりも要らないサービスは御免こうむりたい)
「そもそも婚約にしろ結婚にしろ当事者である王女様を交えないで話していい内容とは思えません」
「そ、それは…」
大河は最初から疑問に思っていたことを尋ねてみた。
「あの、ずっと気になっていたのですがそもそも何で自分と王女様方を結婚させたがるのですか?特別深い仲でも全くないのに。まして私は誤解が解けたとはいえ、元々罪人として連れてこたれた人間だというのに」
「それはのう、君はさっきエルノアに対して頬をつねって説教していたであろう」
(え?何でこのタイミングでその話を今持ってくるんだ?)
「それが理由だ」
「?」
(駄目だ。意図が全く理解できない)
「申し訳ありません。学がない故に陛下のお考えが理解できないので、もう少しわかりやすく具体的に理由を教えて頂いてよろしいでしょうか」
「すまなかった。あまりには完結しすぎたようだ。つまり君のように娘たちが王女と判明しても変わらず接して時に面と向かって自分の意見をしっかりと口に出来る者と結ばれてほしいのだ」
(まあ相手が王女と分かり、仮に婚約者となれたとしても堂々と自分の意見を主張するのは難しいだろうな。特に癖の強すぎるあの2人にはかなりの勇気がいるだろうな。まあそれは別として)
「自分がああいった行動に移せたというか実行してしまえたのは色々あってストレスがピークの時で怒りに支配されてしまっただけでして、決して陛下の望むような成果は訪れないと思われます」
「いや、君ならばきっと…」
「繰り返しになってしまうかもしれませんが、陛下はどうしてお2人の結婚相手にそのような人材を所望しておられるのですが」
「その…親として言いにくいのだがあの子達は、その…少々変わっているところがあるであろう」
「まあ、そうですね」
(少々ではないと思うけど)
「仮にどちらかが私から王位を継ぎ女王となったとして、この国はどうなると思うかね」
「それは…」
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「さあ仕事など後回しにして国民全員で私を、女王である私を鞭打つのです!」
「遠慮や躊躇はいりません。真っ赤になって跡が消えなくなるくらいに力の限り思いっきり鞭を振るいなさい!これは命令です。そう、女王からの絶対的な王命なのです」
「ああ、王族という立場でありながら縄で縛られ組み伏せられながら国民にビシバシ叩かれるなんて。背徳感が溜まらない!」
「ああ、凄い。あ、ちょっと!誰が軽くしてくれと言いましたか。手を抜いてはいけないと言ってあった筈です。これは罰が必要ですね。誰かこの不届き者を捉えて監獄送りにしてきてちょうだい」
「これぞ私の待ち望んでいた景色。私が憧れていた世界。なんて、なんて素晴らしいのかしら」
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僅か数秒の間に大河の脳内にはエルノアらが頂点として君臨し、それによって変わってしまったある意味おぞましい世界が容易に想像できてしまった。
「失礼を承知で申し上げてもよろしいでしょうか」
「ああ、構わない。思った通りに話してみてくれ」
「立場を利用して己の欲望全開に国をひっかきまわし、国の統制や政治やらは破綻している未来しか見えないです」
「ああ。基本は善良な子らなのだが、時折欲望が抑えきれず暴走してしまう時があるのでな。それらによって国が危機を迎えることを案じているのだ」
(さっきの話を聞いた感じだと時折と揶揄できるほど王女姉妹の暴走する頻度が少ないとは思えないけど)
「ですが婿を次期王として迎えいれたら権限的にもそこまで騒動にはならないのでは?」
(まあ今でも十分騒動になっているんだけど)
「じゃがエルノアは気が強いし、クラリスは落ち着きはあるが基本自分の主張を曲げぬ上にエルノアの事となるとすぐ暴走してしまうからのう。我の強すぎるあの子達相手にそこらの男では諫めることは到底叶わんのじゃ」
「だからといって2人に対抗できる点のみに重点を置きすぎでしょう。最低限政治関連を統治できる方でなければ重荷が過ぎきますよ」
「その点に関しては…まあ、あの2人を更生出来るほどの技量を持つ者なら何とかなると思っておったのじゃ」
「思いっきり丸投げじゃないですか。2人をコントロールする術も一国を纏める程の統率力も全く持ち合わせていないのですが」
「とはいえタイガ殿の言う通り確かに私は焦りすぎていたのかもしれん。急にこんな申し出をされても困るだけだというのにな。すまなかった」
「いえ、こちらこそわざわざ選んでいただいたのに何度もお断りしてしまい申し訳ありません」
「私もできる事なら娘たちを信じてあの子たちが選んだ相手と共にこの国の未来を託したいのだが、近年のあの子らの問題行動は看過できないレベルだからのう」
(まあ自ら盗賊とかに捕まりに行く王女とか聞いたことないしな)
「だが貴族の跡取りでは娘たちの容姿に惹かれ尻すぼみしているというか、何でも従ってしまうといった感じでな。いざという時正面切って反論したり娘らの暴走を阻止できる程の度量を持ち合わせた者はおらんからのう。年齢的にもボチボチ婚約相手を決めねばならぬ年齢なのだがどうしたものか」
(この人もこの人で後継の事で苦労されているんだな)
「まあ結婚相手は生涯の伴侶ですし、お2人がそれぞれ心に決めた方にするのがやっぱり一番じゃないですかね」
(あっちの世界でも身近で政略結婚をさせようとするお家の事情的なものがあるくらいだから階級制度があるこっちは尚更そういうのがありそうだけど、やっぱり互いが惹かれた相手の方がいいもんね。別に俺があの2人と人生を共にすることに苦労やら絶望し抱けず何としても添い遂げたくないからとか言った個人的思惑が理由では断じてない。ホントだよ?)
「その相手が国の事を思って娘に対立してくれると思うかね」
「…まあいざとなったら行動してくれるとは思いますよ」
(そうしてくれるはずだ。多分…きっと)
大きな不安を抱きながらも大河は自身と陛下に大丈夫だと言い聞かせた。
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