50話 悟りからの復活

「さてブルー君。先程答えを聞きそびれたので今一度問おうか。何故己の過ちを正す事を確約してくれないのかな?」


 レッド追い詰められ撃沈しているさまを目の当たりにしていたこともあり、これから自身も同じ道を辿るかもしれないと思うとブルーに緊張が走った。


「隊長殿。私は達成出来るかわからない事を出来ると嘘をついてはいけないと思っているであのように返答しておりました」


「つまり口では善処すると言っていたが本心ではそもそも改善していこうと思っていなかったという事かね?」


「いいえ、決してそういう事ではありません。99.9%達成可能な事でも現実的に100%達成可能でない事を安易に可能として確約することが私にはできないだけです」


「つまり実際では99.9%可能だが、実際に起こり得るかもしれない0.1%のイレギュラーの可能性を考慮すると確約できないと。しかしそれにしては君の言う0.1%ととやらのイレギュラーを引き当てる確率は寧ろ逆すら上回っているくらい異常に高いのどういう事なのかな」


 レッドほど表情の変化は激しくないが先ほどよりも多量に吹き出ている汗が動揺具合を表していた。そんな中1人の兵士がエルドへと話しかけた。


「隊長のお気持ちは私もよく理解できますが、辺りも暗くなりもう遅い時間帯ですし、何よりクラリス様とエルノア様をこれ以上待たせるのは如何なものかと」


「そうだったな。2人言い分に血が上ってしまいすっかりここに来た目的を忘れてしまっていたな」


 エルノアたちの方を向き、頭を下げながら口を開いた。


「お2人供ご無事で何よりです。そして失念していましたことお詫び申し上げます」


「いいえ、別に気にしていませんよ」


「私の方も特に気にしていないので頭を上げてください」


「お許し下さり感謝いたします。ただお見苦しい所お見せした後で恐縮ですが、今回のように勝手に外に出られることは皆も心配します故なるべくお控えくださいませ」


「ご心配をおかけして申し訳ありません。すぐ帰ってくるつもりでしたので黙ってこっそり出かけてしまいました。これからはこういった行動は


「私もすいませんでした。


「…そうですか。そうしていただけると助かります」


 隊長は何か言いたげな表情をしているものの特に追及はしなかった。


「それで色々お聞きしたいことはあるのですが、エルノア様が掴んでおられる少年は何者なのですか?もしかしてご友人ですか」


(あ、良かった。ちゃんと普通に耳を傾けてくれる人がいてくれて。とりあえず事情を説明して…)


 隊長の言葉に少しだけ安堵しエルノアの方へと視線を向けるとエルノアはクラリスの方を数秒見つめた後に、大河の方へと視線を移すと何故か不気味な表情でニヤリと笑った。


(なんだこの表情?コイツまさか…)


「聞いてください隊長。実は私達盗賊達の目を盗んで命からがら何とか逃げだせたのですがその道中でこの不審者に捕まってしまったんです」


(どちらかと言えば捕まったのって俺の方だと思うんですがね)


「そしてレッドとブルーの2人が駆けつけてくれるまでこの男に酷い仕打ちを強いられていたんです」


「そうなんです。私もエルノアも罵詈雑言を浴びせられ暴行の限り尽くされ、欲情のままに体を凌辱されて、そしてそれに飽きてはまたしても暴力を振るおうとしていたところにレッドとブルーが駆けつけて助けてくれて、残虐な行いがやっと止まって私…私。うぅ…」


(罵詈雑言とかならコイツら視点だと当てはまるのかもしれないけど暴行やら陵辱やらは何処からどうどう考えても思い当たる節が微塵も無いんだが)


 涙が流れていないため中途半端な演技ではあるものの、それ以外は本物に聞こえてしまうくらい声に熱がこもっており、彼女の今のセリフ的にもに普通なら同情を覚えてしまう内容なのもあって、大抵の人は騙されても仕方ないよなと嘘であることを当然わかっている大河ですらそう思わずにはいられなかった。


「クラリス様、エルノア様…可哀そうに。我々がもっと早く駆けつけていれば」


「くそっ!やはりあいつは俺の手で…隊長!とっととそいつの首をはねちまいましょう」


 嘘泣き姉妹とは違い赤青兵士2人はガチで泣きながら大河に向けて怒りやら殺意やらを飛ばしており、余計に大河が悪者という空気が出来上がっていた。


(どうしようこの状況。本当にマジで弁解できる気がしない。なによりさっきより人数的にも戦力的にも圧倒的に不利になった)


 大河は隊長達兵士の方を確認する。


(スカウターみたいな戦力計られ道具やスキルやらはないけどクマさんと戦った感じあのトンガリヘッドコンビレッドとブルーだけなら恐らく何とかなると思ってたけど、これだけ数いると流石に無理だ。何より…)


 大河はその他大勢の兵士から隊長の方へと視線を移す。


(あの隊長さん。存在感というかオーラがあるというか…ぶっちゃけ今の俺じゃ到底勝てそうにないのが何となくわかる。)


「あのクラリス様、確認したいのですが。お2人を攫ったとされている盗賊から逃げおおせた後にこの少年に捕まって非道な扱いを受けたということですね」


「その通りです。本当に怖くて私、私…」


(意義を唱えたいのは山々だけど、他人でも姉妹に同情してしまいそうなこの状況で、2人の知り合いにどんな言葉を並べても聞き入れてもらえるとは思えん。短い人生だったな…転生してからまだ1週間しか経ってないのに)


 大河は薄っすらと見える星を見上げながら諦めモードに入ってしまっていた。


(二度目の死か…やっぱ早いよな。前だって15歳で死んだんだし、合計しても常人の4分の1も生きてないな。てかあれ?前どうやって死んだんだっけ。確か…えっ〜と、ああそうだった。初登校中に気が付いたら魂抜かれて死んじゃったというか殺されちゃったんだっけ。あはははははははははは…)


「ザッケンナコラー!」


 前世の死因を思い出したことによって先ほどまで理不尽なやり取りな暴論によって削りに削られた精神と覆せそうにない状況に諦めて受け入れてしまっていた大河の心に沸々と途方もない怒りが沸き上がってきた。


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