49話 上司の説教2


「そうかそれは大変だな。ところで話は変わるのだが先ほど君から私の体を労わろうとしている発言があったのだが」


「ええ、隊長クラスになるとそれはもう色々と苦労も多いでしょう」


「ああ、確かに大変だがさっきも言ったようにこの疲労は任務によって蓄積されたものではないのだよ。雑務というか書類整理によって溜まったものなんだよ」


「そ、そうなんですか。僕はそういった類の物を任されたことはないのでわからないですが、やっぱり大変なんですね」


 ずっと追求されていた状況が変わり安心すると同時に、このチャンスを逃すまいとレッドは必死にエルドに媚びようとしていた。しかしエルドは気にせず話を続けた。


「普通の書類整理であれば大した苦労でもないのだがある書類の処理がこれまたとんでもなく重労働でな。ある人物の反省書類なのだが…」


「え?」


「毎日提出されるそれに目を通した上で次からは事態を引き起こさぬようにと上司として問題点や改善点を挙げているのだが、その者が毎日毎日凝りもせずに問題を起こしてな。それも几帳面とすら思えるくらいに毎日必ず、非番の日でさえ私の仕事を増やそうとしているとしか思えないくらい問題を起こすのだ」


「そ、そうなんですか」


「しかもどれだけ指摘し、どれだけ解決できるように改善点を記載して返却しても一向に守られず改善されない状況が続き、『私の書き方や伝え方が悪かったのでは?』と悩んでちゃんと伝わるように内容を簡潔にしたりと試行錯誤を繰り返して、時には何度も書き直したりしているのにも関わらず何故か年を追うごとに問題行動が減少するどころか増え続けた」


「へ、へ〜」


「当然反省書の枚数もそれに比例して数が増していくものだから、枚数の上昇に比例して私の仕事量もあり得ないくらいに飛躍しているのだよ」


「………」


 話が変わるがとか言っておきながら明らかに自分の事だと思われる内容を他人の話として挙げられながら語られ続けるのは流石に呑気なレッドでも堪えるものだった。話が進む毎に自分の首が絞められていくように感じられレッドは背中から冷や汗がどんどん吹き出して始め、鎧の中の彼の上着はぐっしょり濡れていた。


「あ、あの隊長殿。お話はそれくらいにしてそろそろ…」


「ブルー君。心配しなくても君とも後でじっくりと話をするから大人しく待っていなさい」


「!…か、かしこまりました」


 ブルーは状況的にこれ以上はマズイと思いレッドに助け船を出そうとしたが失敗に終わってしまった上に終わり次第自分もレッドと同じ目に遭う事になってしまい石消沈しかけた。


「さて話を戻すとして、ここで上司想いのレッド君に尋ねたいのだがね」


「ナ、ナンデショウカ」


「上司の仕事を何倍にもして迷惑をかける部下を上司思いの君はどう思うかね?」


「い、いや~困った人ですね。隊長にそこまで負担を与えるなんて僕には信じられないですね」


「ほう…君はそんな風に思ってくれるのかね」


「当たり前じゃないですか」


「とこでレッド君。私はその一向に行動を鑑みない部下に対して本格的にお灸をすえる為に罰が必要だと思うのだが君はどう思うかね?」


 本心では罰など必要ないと発言したかったが、これまでの話の流れ的にとてもそんなことを口にできる雰囲気ではなかったので疑われない程度に否定意見を述べることにした。


「そ、その。誠に怪しからん奴だとは俺も思いますがそういった事をしてしまうとその者のやる気が失われてしまう可能性が…」


「実は他の団員達からもその怪しからん愚か者に対して苦情の声が多くてな」


「えっ?」


「『アイツのせいで予定が滅茶苦茶になる』とか『任務に支障をきたす』などの事をほぼ毎日に耳にしていてな。これを本人の前で口にしてしまうとそれはそれでまた新たな問題の火種になるような気がしてならなくてな。口を閉ざしているのだが、このままでは班員の士気に影響を及ぼすどころか士気低下の一途を辿り続け下手するとそれが理由で退職するものすら現れる可能性も低くないのだ。この話を聞いた上でもレッド君はその愚か者にもう少し猶予の時間を与えるべきだと思うかね?」


「い、いいえ。僕が予想していたよりも大分悪い奴みたいですね。それならそんな気を遣う必要はないんじゃないですかね?あははははははははは」


 レッドなんとか苦笑いしながら隊長か目を背けるも、外した視線の先に口でこそ何も言ってこないものの何が言いたげな目線でじっと睨み続けている同僚の姿があり、視線に耐えかねたレッドは更に明後日方向へと目を逸らした。


「それで与える罰についてなのだがいっその事今月の給料ゼロにしようかと思っているのだが…」


「そ、それは流石にあんまりだと思います!」


「何故そう思うのかね?」


「や、やっぱりさっき言ったようにやる気に関わりかねますし、多少の罰は仕方ないにしても給料無しはキツイかと」


「そうか。ところでその愚か者が出す問題によって発生する被害金額が毎度

その月の給料分を優に超えているんだよ」


「へ?」


 聞かされていなかった新たな新事実にレッドは自分の耳を疑った。


「つまりぶっちゃけた話をしてしまうのならその愚か者はこれまでの総被害金額的に今年どころかこれから数年の無償で働かされたとしても文句を言えないという事だ。しかし流石にそれでは君の言う通り本当にやる気に差し障りかねないので様子見として温情を込めて今月分だけ給与無しにして反省の色を伺おうとする私のやり方は非難されるような非道な行いだと思うかね?」


「………」


 レッドは何も言えず只々固まっていた。口元だけはわずか震えていたが何かを発することはなかった。本人としても何とか免れるよう言及したかったがそんなことができる状況では微塵もなく、寧ろそれをしてしまうと罰が1カ月から1年になり兼ねないと悟って発言を控えた。


「何も言わないところを見ると君も私の意見に賛同してくれているみたいだな。いや、良かったよ。もし反対の声が上がるようなら最終手段に出るつもりだったからな」


「ナ、ナニヲナサルツモリダッタノデスカ?」


「愚か者とはいえプライドを考えると少々心苦しいのだが、その者の父君を呼んで三者面談でも…」


「イギャーー!!」


 レッドのけたたましい悲痛な叫び声が周囲に広がった。そしてレッドは光の速さでスライディング土下座をしてひたすらに謝罪し始めた。


「それだけは!それだけは勘弁してください!どうか、どうか父を呼び出すのだけはしないでください!」


「何をそんなに慌てているのかね。私は別に君の事を言っているわけではないよ。何度注意しても全く改善しようとしない愚か者の事を言っているんだ。君にそれらの身に覚えがないのならそんなに怖がる必要はないだろう?」


「ごめんさない!誤魔化そうとした俺。いえ、私が悪かったですから!1カ月。いえ、1年のただ働きでも何でも受け入れますのでどうかその罰だけは勘弁してくださいお願いします!」


「そうか、それはとても良い心掛けだな。それならば次に問題を起こした場合は…言わなくても分かるね?」


「ハイ。ボク、イイコニシマスカラユルシテクダサイ」


 レッドはまさに覇気が消滅した感じで、ロボットのように謝罪し続けていた。


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