51話 2度目の手錠と連行


「そうだよ!何でこんな身勝手な言い分を受け入れようとしてんだよ俺も。クソ神の座標ミスによる上空からの落下だとか、瀕死の状態でモンスターに拉致られたりだとか、転生特典ゆびをふるによって隕石に潰されかけたりだとか、下らないことで何度も死にかけたけど結果生き延びてきた。だからこそここまで下らな過ぎることで死ぬとか今更ごめんだチクショウ!」


 今までの溜まった鬱憤が爆発して解き放たれた大河の叫びは周囲轟いた。


「隊長気を付けて下さい!追い詰められて発狂し訳の分からないことをほざき始めました。やはり危険な奴です」


「黙れ!こちとらお前らの虚言に対して言いたい事が山のようにありすぎるんだよ」


「何と失礼な。我々やお二方が偽りを申したとでも言うつもりなのか」


「言うつもりなんだよ。まず盗賊連中から命からがら逃げて来た割には服が綺麗すぎるんだよ。どんなふうに攫われて、どう逃亡したのか知らねーけど殆ど汚れが見当たらねーじゃねーか!特に姉の服なんてほぼ白一色のデザインなのに真っ白なままとかおかしいだろ」


「心が清純なクラリス様の着衣であればどのような場所、どのような状況でも新品同然の様に保たれているのは当然の事だ。なにも不自然ではあるまい?」


「相変わらず俺の理解の及べない理屈だな。それに俺に凌辱されたにしては衣服乱れてなさすぎだろ。ボタンまでしっかり止められてて全くはだけてね―じゃねーか」


「それは貴様が隠ぺい工作の為に着衣し直すようにと命令したのだろう。悪知恵の働くハナカスめ」


「そんな事言わねーよ」


「犯罪者は皆そう言うのだ」


「確定すんな。それにエルノアの頬の腫れは俺じゃくなくさっきそいつらが言ってた逃げ来てたとか言ってた盗賊連中から俺とここで会う直前にぶたれたときのだろうが」


「ええい、何度も嘘を重ねるな。正直に言え『お2人の魅力に己の疚しい心を抑えきれずやってしまいました。100回死んでお詫びします』と」


「勝手にしてもいない犯行の動機を捏造すんじゃねー!」


「隊長。こいつの発言に何の証拠もありません。うっかり騙されてはいけませんよ」


「あ、ああ」


「それはそっちも同じだろうが」


「エルノア様とクラリス様には貴様と違って嘘をつく理由などない」


「いや思いっきりあるだろ」


「隊長、99.9%あり得ない事ではありますが、仮にこのハナカスの言う通りだったとしてもこいつが不審者であることには変わりありません」


「どういう意味だ」


「武器にフライパンなんかを装備している変人など見たことがありません。間違いなく頭ヤバイ奴です」


「うるせー!ほっとけ!」


(俺だって本当はもっと武器っぽい武器を持ち歩きたいんだよ!)


「隊長、私もレッドと同じく相当な異常者だと思います。何故なら…」


(コイツまで変な事言いだすんじゃねーだろうな)


「何故なら…この男は右足には足枷がはめられているからです」


「「「え?」」」


 ブルーの言葉に釣られてみんな大河の右足に注目する。そこにはスキルゆびをふるによって文字通りの足枷となっていた黒い鉄の塊の存在を皆も視認し、大河自身も指摘されたことにようやく重苦しい物体がが装着されてしまっている事実を思い出した。


(ああ~そういえばあの戦いの最中に付いちゃったんだっけ。というかこれもしかしてずっと付いたままなのか?いや今はそんなことは問題じゃない。問題なのは…)


「いや、これはその…」


(どうしよう?全く言い訳が思いつかねー)


「隊長、コイツはきっとどこかの牢獄から抜け出してきた脱獄囚に違いありません。お2人の件を除いたとしても今ここで断罪するには充分すぎる理由の筈です」


「まだ確定したわけではないだろう。処罰については判断を仰ぐとする。だからとりあえずこの少年は一度連れて行くことにする」


「仕方ありませんね。それならとりあえず手錠をかけるか」


 "ガチャリ"


 一般市民であれば普通一生も聞かずに障害を終えるであろうその独特な装着音を今日だけで2度も耳にしてしまっている事と、覆しようない現状に復活早々絶望しかけていた。


「それとこれは没収だ」


「あっ!ちょ、返…あだっ!」


 レッドに死闘の末にゲットしたフライパンを取り上げられ反射的に取り返そうとする大河だったが右足が前に出ず、バランスを崩して転倒してしまった。


「なにやってんだお前?」


それフライパンがないと歩けねーんだよ!」


「仕方なねーな。目的地にたどり着いたら没収するからな」


「レッド、彼にこれも被せておいてくれ」


「ああ、そうでしたね。イッヒッヒッヒ」


 不気味な笑い声を聞きながらエルドから渡された大きな黒いマントを被せられ、大河はすっぽりと包まれた。


「おいこれは何だ!ていうか俺を何処に連れて行くつもりだ!」


「あん?そんなの見りゃわかんだろ。バカなのか?」


「視界が黒い色で覆われているから何も見えないんだよ」


「それぐらいの事でグタグタ言ってんじゃねーよ。五月蝿いハナカスだな。たく」


「いい加減その変なあだ名みたいなのやめろ」


「行き先はまあお前の墓場というか裁きの場というか、そんな感じのところだ」


(話聞いてねーな。それにしても普段であれば冗談にしか聞こえない言葉でも、冗談に受け取れねーなこの状況だと)


 それから大河は視界が真っ黒に覆われた状態で、何処を歩いているのかもわからない中歩き続けた。


(何で又しても誤認で連行されにゃならんのだ。しかも何度も1日連続で珍しい体験ばかりである意味ラッキーだな。クソが!)


 道中門を潜って街に入ったがマントから全く光が漏れる事なく依然として暗闇の中前を進まなければならなかったが、人々のヒソヒソ声が聞こえてきたり、聞いたことのない大きな機械音を耳にしたりなど見えない分余計に聞こえてしまうい恐怖が大河の心を覆っていった。


(ありないけどマジで三途の川を自ら歩いてしまっている感じがする)


 どんどん精神的に追い込まれそうになった大河は一先ず考えるのをやめて見えない瞼を閉じ、何も考えず見知らぬ道を歩み続けながら削れ切った精神の回復を図った。

これから行き着く先が自分が想像だにしなかった場所に連行されている事など今の大河には知る由もなかった。



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