45話 可愛いは正義?
(ショックを受けたのは分かるけど、でもだからって何で今の返答にそこまで『ありえない』みたいな表情でこっちを見てこれるんだ)
「貴女はこの可愛い妹が喜んでいる姿を見たくないというのですか」
「それは話の趣旨が違ってくると思うのだが」
「違いません!妹はぶたれたり罵られたりしてる時が一番幸せなんですよ。その愛らしい姿を目視することに一見の価値がないと言い切るのですか?」
「いや言い切りますけど」
(虐待されてる少女を見たいと思う事も、ましてそれを嬉々として受け入れて幸福を感じるおぞましい姿を眺めていたいなんて願望はこれっぽっちもないからね。そもそもそれに対しての代償が屍の山でもとかついていけなさ過ぎる)
「貴女は…貴方はまたしても私の事を騙し、裏切ったというのですか」
「別に裏切ってなんかいないんだが?」
(適当に相槌打ち過ぎてしまった感はあるけど…)
「俺には貴方のような特殊な趣味は持ち合わせていないのでね。別に俺はその趣味をやめろとまではいはないがせめてもっとひた隠しにしてバレないとこで個人でこっそり発散してくれ」
「他者の介入なしにどうやって私達の欲望を発散しろとおっしゃるのですか」
「そもそも聞いてる限りでは特定の相手でなければいけないというわけではないのだろう?」
「そうですね私はエルノアさえいれば別に誰でも」
「私も特にないな。男でも女でもそれぞれの良さがあるからな。ふふふふふふ」
「ああ、悪いがそういうのは帰ってからお前の姉にでも語ってくれ。まあ要するにだ、特定の人物でなくていいのならお前ら姉妹でそれぞれ叩き合ったり罵り合ったりするのがベストなんじゃないか?」
大河が提案した直後に姉妹のそれぞれに顔を向けると2人から再度『ありえないわ~何言ってんのコイツ?』といった感じの呆れと軽蔑のこもった眼差しで見つめられていた。
「何その顔?」
「貴女のやり方だとつまり私にエルノアを叩いたり罵ったりしろということですよね?」
「まあそうだが?」
「自分の妹に手を上げたり貶すように推奨するなんて人として最低だとは思わないのですか?そんなことに愉悦を感じたり興奮したりするなんてそれこそ貴女の言う変態じゃないですか!」
(ど、どこからツッコめばいいのだろうか)
大河はどうしようもない怒りで自分の額にくっきりと青筋が浮かび上がるのを感じた。
「一見まともな意見に聞こえるけどな、そもそも妹が他者からの暴力を振るわれることを容認してること事態がそもそも最低なのになんで俺のやり方のほうだけ否定されにゃならんのだ」
「自ら家族に手を上げる事の罪の重さを何故理解できないのですか?」
「そんな風に思いやる心があるのであれば何で家族が手を上げられることを黙認できるのかが謎なんですがね?」
(これまでかなりズレた感覚だったくせに何でこの部分に関してだけノーマルなんだよ!中途半端な変態だけに質が悪過ぎて手に負えない)
「それはいいのです」
「何故?」
「色々と感性が欠けている貴女に素晴らしい名言を教えて差し上げます」
(俺以上に感性やら常識やらが欠如しまくっている人に言われたくねーよ!)
「可愛いは正義!つまり他者から虐められているエルノアは正しくて、それに劣情を抱くのは間違っていないということです」
(駄目だ…コイツが何言ってるのか理解したくないのに何となく分かってしまう自分の頭が悲しい…どうやら短い間だが一緒にいるせいで結構脳を侵食して汚染されてしまっているらしい。勿論気持ちはまるで共感出来ないし、納得もできないけど)
「可愛いは正義!本当に素晴らしい言葉です。
「そんなクソみたいな教え丸めてゴミ箱にでも捨ててしまえ!」
「貴女は世の全ての女性に向かって死ねだなんて最低だとは思わないんですか?」
「何で意味不明な教えを捨てろと言っただけで全世界の女性がカウントされてんだよ!それに俺は死ねだなんて一言も言ってないだろうが」
「ゴミ箱に捨てられるという事は袋詰めにされて後々回収され結果的に死を迎えるので同じことです」
(流石にこじつけ過ぎだろう。そんなもんセットにして考えんな!)
「そしてこの素晴らしい教を放棄するという事は全ての可愛いを、世界の全ての女性に対して発言したも同じ。即ち全世界の女性に死ねと宣言したようなものです」
「なんでそうなるんだよ!」
「何ですか?全世界の女性が含まれるのが可笑しいとでも言うのですか?」
「いや、言うけど」
「つまり貴方は『可愛い』=全世界の女性ではないと?」
(駄目だ。何言ってんのか本格的にわからなくなってきた)
「そして可愛い女性はゴミ箱に捨てられて死んで、可愛くない女性は生存し続けろと?自分がそういった女性が好みだからとそんな発言を口にするとはとんだクズですね。最低です」
「最低なのはお前の行き過ぎた被害妄想の方だ!」
「もうあったま来た!姉上を散々流せた挙句に最低だなんて何様だてめーは!」
もうすっかり日も暮れて、辺りも暗くなり始めている事にも気付かず、我慢でなくなって叫ぶ大河にエルノアが激怒する中、街の方から此方に向かって人影が走ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます