44話 シスコンを受け入れるには経験値が足りません
「そうですね、そうですよね。この肌つやとかきめ細かい髪とか最早芸術品すら超えるレベルの美しさを誇っていますよね。分かります。私もその気持ちは大変よく分かりますよ」
エルノアが褒められた事とそれ関連で他者と気持ち共有出来たと勘違いし、目を輝かせながら嬉しそうに語っていた。
(この重度の
大河が一息つこうとしたが思わぬ言葉が飛んできた。
「しかしそれ以外にももっと思う所があった筈です」
「………」
「さあさあ、早く早く」
嬉しさからテンションが上がり少しだけ口調が子供っぽくなるクラリスに対してもうこれ以上は下などないくらい降下しまくっている気分が無理矢理下げさせられていくような感じ全身を駆け巡った。
(これだけは言いたくね~)
こうなるとクラリスが欲している言葉が『可愛い』であることは想像がついたが、大河はこの言葉だけは口にしたくなかった。
彼の中では『綺麗』だと大抵は容姿を褒め称えていることが多いイメージだが、可愛いだと見た目以外にも言動や行動などで使うイメージの方が強く、まるで彼女にもそれらが該当するみたいに思えてしまって仕方なかった。この場をやり過ごすための一時凌ぎだと頭では分かっていても中々納得できなかった。
更に彼女に溜まった鬱憤などの理由以外にも、目の前の身長100㎝にも満たなさそうな少女というより幼女という言葉が当てはまってしまいそうな
(流石に
「貴女の恥ずかしがる姿などまるで需要がないのでさっさと言ってください」
大河自身の気持ちと葛藤していると彼のそんな苦悩など微塵も知るよしのない彼女は痺れを切らせて迫ってきた。
「か…」
「か?」
「かわ…」
「かわ?」
「かわい…」
ようやく自分が待ちに待った言葉が聞けると思いクラリスは顔が緩んだ。が…
「…くなる可能性はあると思います」
自分の求めていた言葉が来ると思った直後にカウンターのように予想外の言葉がついてきてしまったせいでクラリスは強烈なショックを受けた。
(やべ、つい我慢できず口が滑ってしまった)
大河もこのやり取りを早く終わらせたくて己の思いを必死に抑えながら言うべき言葉を口にしたつもりだったが、彼の中の何かがそれを口にすることを拒み、まるで拒絶反応のように余計な言葉を付き足してしまった。
やらかしたと思いながら恐る恐るクラリスの方へと視線を向けると地面に膝と付きながらまたしても泣いていた。
「そんな…それでは貴女はエルノアが可愛くないというのですか」
「それは…えっと」
「…そうですか。つまり貴方はエルノアが家畜にも劣るほど醜く超が付くほど不細工で公共の場所で顔を晒せないくらい可愛さからは程遠い女の子だと言いたいのですね」
「あんたの被害妄想は本当に激しいな!」
(確かに今の俺の言い方だといい方に聞き取れないのは当たり前だが、言葉の捉え方があまりにも極端すぎる)
「お前!これでもう3回目だぞ!しかも私が人前に出せないくらい醜い顔だと?随分舐めたこと言ってくれたな。あぁん?」
「俺はそこまで酷い事言ってねー!それに今のは顔じゃな
くて性格が可愛くないって意味で…」
「それってつまり私の性格がゴミカスって事だよな!」
(びっくりするくらい姉妹揃って悪い方に捉えるな)
「こんな天使の様に見た目も性格も愛くるしいこの子のどこが可愛くないと言うのですか?」
(め、めんどくせ~。もういっそ色々流すか。適当に煽てたり褒めときゃ何とかなるだろう)
「あ~すまん。何でか俺が勘違いしていたみたいだ。よく見なるとまるで天使みたいに見える。凄ーい」
大河はさっさと終わらせる為に頭からっぽにして思ってもいないお世辞を並べた。普通なら問いかけを無視して今こんな言葉を口にすると反感を買われる可能性もあるのだが…
「そうですよね!そうですよね!やっぱりエルノアは世界一可愛いですもんね!」
「へへへ、まあそんなこともあるけどさ」
大河の予想した通りほぼ覇気のない感じで褒め称えているにも関わらずそこにはまったく興味を示すことなくクラリスは食い付いてきた。
(チョロ過ぎる。妹の事となると浮き沈み激しすぎだろこのブラコン。そしてウザすぎるドヤ顔をかます妹の方を今すぐにでも蹴り飛ばしてやりたい)
「我が妹ながら他に肩を並べられる者がいないほど可愛らしいですよね」
「そうですね」
「エルノアの笑顔は国宝級ですよね」
「そうですね」
「他の女性たちが可哀そうで同情してしまいそうになりますよね」
「そうですね」
「この子の笑顔の為ならどんな事でもしてあげたくなりますよね」
「ソウデスネ」
(いつまで続くんだこの妹自慢は?)
「その為だったら犯罪行為も容認されるべきですよね」
「ソ、ソウデスネ」
(何する気!この人一体何する気!?)
「それで例え屍が100や200くらい積み重なってしまっても仕方ないって思えてしまいますよね」
「………」
(何言ってんの!この人本当に何言ってんの!?)
「貴女にもこの気持ち、理解できますよね」
(なんでさも当然みたいに問えるのだろうか?)
「いや、わかりませんよ。微塵も」
「なん…ですって」
(しまった!つい本音が)
大河はさっと手で口元を覆った。
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