36話 知りたくなさ過ぎる姉妹の過去
「あれはまだ私が幼い頃の事、その日はエルノアが7歳の誕生日を迎えたとてもめでたい日でした」
(あ、良かった。
いまだに疑っていた大河だったがエルノアが登場したことで少しだけ安心した。
「ああ、なるほど」
何かを察したのか、或いは単に思い出しただけなのかエルノア幸せそうな、且つゆるゆるなデレ顔になって笑っていた。
「私はエルノアに誕生日のサプライズをする為、私の用意した部屋に連れて行こうと一緒に階段を下りていました。しかし途中でを踏み外してしまったエルノアは体勢が崩れて階段から頭や肩などを打ち付けるように転げ落ちてしまいました」
その時のクラリスはとても心配そうな表情で語っていた。
「酷い落ち方をしたのもあって私はとても焦りました。『エルノアが怪我をしてないか?』と、とても心配になり急いで階段を降りようとしました。ところが慌てていたせいでバランスを崩した私はエルノアと同じように足を踏み外しエルノアの隣に転げ落ちるように階段から転落してしまったのです」
「そうでしたね、そうでしたね」
楽しそうに相槌を打つエルノアとは対照的に彼女のその姿を見ていた大河は怪訝な顔をしながら引いていていた。
(え?幼い頃に階段から転げ落ちたって話だよね?しかも自分の誕生日の日に。なのに何でそんな幸せな一時みたいな思い出に浸ってる様な顔できるの?…怖いから深くは考えないようにしよう)
「頭を打った衝撃で頭部に響く鈍い痛みと体中から感じるズキズキとした痛みを感じ、見上げると階段があり、私はようやく自分が転落してしまったのだと理解しました。体を動かそうとすると激痛が走り、そのまま寝転がっていたい気持ちにかられましたが、先に落ちてしまったエルノアが私と同等かそれ以上に苦痛にもがいているかもしれないと思うといてもたってもいられず私は近くにいるであろうエルノアを探し始めました」
「姉上がそこまで私の事を思ってくださっていたなんて…うぅ」
クラリスはポケットから取り出したハンカチで涙を拭き、エルノアはクラリスの心情を知って感動していた。だがそんな彼女らの姿を見て大河大きな違和感を感じていた。
(普通過ぎる。ここまで話を聞いている限りだと不注意により2人が階段から落ちて大変な目にあったみたいで無事だったか心配になりそうになるけど、重要なのはそこじゃない。一見まともに見えるこの清楚モドキが昔の思い出話とやらを始めてから特に変な事を言っていない事が問題だ)
話の流れ的に普通であればこの辺で話の趣旨が『いかなる時でも家族や友人を思いやり大切にする』といった感じの事を訴えている内容なのだと察するのだが、このクラリスがそんな普通にいい話に聞こえてきそうな平凡なものをチョイスするとは大河には到底考えらなかった。
その上に話の序盤でエルノアが自身の誕生日の事と聞いた際のお茶の間や親戚には見せられないレベルの気持ち悪さを含んだユルユルな表情の崩れ方から考えても少なくともその日にエルノアにとって嬉しい何かがあり、これまでの話の流れから整理するとそれを予想するのはあまり難しくなく、それはつまりこの話の落ちが大河にとって聞きたくない部類であろうことが察せてしまい、やはり一刻も早くここ場から立ち去った方がいい事を結論付けた。
(ダメ元だけど今ならもしかしたら…)
大河は2人が思い返して浸っているを確認して物音を立てないようにしてそーっと抜け出そうとしていた。
「待つのです。これから一番いい所なのにどこにいこうというのですか?」
「いや~ちょっとトイレに」
「トイレぐらい我慢しろよ。貴様は5歳児か?」
(自分の欲望を制御できない奴に言われたくねーよ)
「大丈夫ですよ、あなたが漏らされても私は構いませんから」
「いや、俺が構うんだけど?」
「心配しないでください。貴方が年不相応にも尿意を我慢してきれず情けなくも天下の通り道で醜態を晒して漏らしをしてしまったとしても私は貴方の事をトイレまで我慢できないション便クソ野郎としか蔑んだりしませんから安心してください」
「今の発言のどこに安心する要素があったんですかね?」
(というかさっきの解放云々ってまさかこのことを指してるわけじゃないだろうな?)
「それでは話を再開しますね」
(やっぱりトイレに、もとい逃走は許してくれないらしい)
大河は強引にでもこの場を立ち去ってしまいたかったが先ほどからエルノアに襟元を掴まれ偶然にも足の重りに付けられているチェーンを踏まれていることもあって逃げようにも逃げられずにいた。
「それで私が満足に動けない中、必死になって辺りを見渡してエルノア姿を探して見つけたときでした。この子はどうしていたと思います?」
「…苦痛にもだえ苦しみながらあまりの痛みに声も出せず泣いていたんじゃないですかね?」
「半分正解、半分不正解ですね。あなたの言う通りあの子は泣いていました。でもそれは苦しみによってではなく感動によって涙を流していました」
「………」
「エルノアは両手を顔横に当てながら頬を赤く染め、まるでほっぺたが落ちそうなくらい美味しい物を味わっている時の様な、或いは恋のトキメキを覚えた乙女の様な愛らしい表情をしており、その時私もこの子のあられもないと同時になんとも愛くるしいその表情に心奪われました。そして私は子の笑顔の為に全てを捧げようと決心しました」
(いろいろツッコみたいところだらけだけど、とりあえず頭の打ちどころが相当悪かったようで目覚めてしまった特殊趣味を恋のトキメキと誤認してしまうくらいに脳内をやられてしまっているらしい。文字通り手遅れなレベルで)
大河は目の前にいる人の姿をした人物の発している言葉の意味が自分の脳では理解できないことを理解した。
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