35話 妄想と誤解は止まらない
「あれはまだ幼い頃…」
「それはあんたの話なんだよね?」
大河はクラリスが語り始めて早々に口を閉ざすのを我慢しきれず話の腰を折って尋ねた。
「せっかく人が素晴らしい思い出話を聞かせてあげようというのに。人が喋っている途中で話を遮るだなんて失礼ですよ」
「あんたがわざとらしく『私の幼い頃』って口にしないからな。時代によっては人どころか生物の視点からの話かすらもわからないし」
「貴女は私の生前が無機物だとでも言いたいのですか?」
「ソウカモネ」
(適当答えたけどある意味会話が成立しないとことか種類は違うけど冷たいとことかが可能性を感じる)
「そんな…私の前世が無機物だなんて。うっ…」
(さすがに少し悪いことを言ってしまっただろうか?)
「私が無機物のように冷たい女だと?」
「…ソ、ソンナコトハナイトオモウ…ヨ?」
(確かに似たような意味ではあったけど、いざ面と向かって本人に問われる返答に困るな)
「私が無機物のように他人の気持ちを理解できない最低の人間だと?」
「いやさすがにそこまでは言ってないんだけど」
(でも感覚がズレてて普通の感覚を共感出来ず理解出来ないって部分はあながち間違ってない気がする)
「私が無機物よりもポンコツで役に立たないいらない女と?」
「そんな意味は微塵も込められていないんですけど!?」
(どこまで広がるのだろうか?この被害妄想は…)
「無機物よりも私は女としても人としても劣っていて価値はないと?」
「……」
(無機物より女としても人としても劣ってるって何?)
「いても邪魔にしかならない役立たずだからとっとと死んだほうがいいと?」
「……」
(話がどんどん別の方向にずれていってたけど等々無機物というワードすら出なくなったな)
「何故否定してくれないのですか?」
「えっ?」
「さっきまでなんとか弁明しようとしていたのに何故最期の方は無言だったのですか?やはり口では取り繕おうとしていても本心では私の事をポンコツ無価値な冷徹女でさっさと死んでくれとここの中で蔑んでいたんですか?」
(ええ〜、こっちが必死にフォローしても『私の耳には届きません』みたいな感じで俺の言葉に耳を貸さず自分の世界に浸って散々スルーしてたのにここに来て後半俺が何も言わないのが悪いとかある?め、めんどくさすぎる…)
大河があまりにも予測不可な追求ブーメランが来た事によって唖然としていた。
(俺にどうしろってんだ?あのまま一応反論し続けてれば良かったんですかね?でも多分続けてたら続けてたで俺が肯定してしまうまでずっと悲観的な事を言いつづけてたと思うんだよな〜。それか否定し続けた結果『出会ってたいして経ってないのに適当な事言わないで!』とかなんとか言われたと思うんだよな)
最初はクラリスの問いかけにうんざりしていた大河だったがクラリスが手で顔を覆い隠して泣き声を上げている段々と自分が悪い事をしたような気持ちになりかけた。
「おいお前!何姉上を泣かせてんだよ!」
「……」
(やっぱり俺が泣かせた事になるよね…どうしよう?)
「おい貴様!姉上を泣かせておきながら何の謝罪もないわけじゃないだろうな」
「…ご、ごめん…なさい?」
「ぜーんぜん心がこもってないんだよ!大体何で謝罪が疑問形なんだ!」
(ええ~、正直俺のせいじゃなくない?て言いたいけど俺が適当に答えちゃったのが発端だしな。…その後の飛躍しすぎた被害妄想で傷ついた件は完全に無実だけど)
「俺が悪かったです。すいませんでした」
「ダメダメ、全然なってない。あんた本当に謝罪する気あんの?」
「これで駄目なの?何?頭でも下げろって?」
「当然でしょう!」
(ここで言い争っても話が進まないし仕方ないか)
「俺が悪かったです。すいませんでした。これでいいか?」
「いいわけないでしょう!何で地面に頭つけてないのよ」
「おい待った。そこまでしないといけない事はしてないだろう」
「姉上の涙にその程度の価値もないっていうのあんた!」
「…正直ないと思ってる。少なくともこの状況に限っては」
(だってお前らの涙腺の緩そうな上に条件が特殊そうなんだもん)
「言わせておけば…」
「待ってエルノア。いいのです、彼に邪悪なものに取りつかれていることは分かっていたのです。彼も本来は非道なことを口にする人ではなかった筈です」
(ごめんなさい。普通に
「早く彼を調きょ…洗脳して邪悪な心を解き放って救ってあげましょう」
(だからそれ言い直す必要あるんですかね?そもそも洗脳って解放と真逆なんですけど?本当に俺を救おうと言う気持ちがミリ単位でも存在するですかね?)
大河はクラリスの言動に只々疑問しか感じられなかった。
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