33話 妹(普通変態)と姉(特殊変態)

 大河は混乱していた。の発言が予想外すぎる内容だったため脳内が処理しきれなくなったためである。


(一瞬幻聴が聞こえたような…)


「すまないがもう一度行ってくれないか?何かとんでもない聞き間違いをしてまったみたいなんだ」


「何だと?私達にあれだけのことをしでかした挙句私の言葉をちゃんと聞いていなかったのか!」


「ああ、えっと…ごめんなさい?」


「いいもう一度だけ言ってやるからよく聞いておけよ。お前のせいで私達はあの男達に虐めてもらえなかったんだぞ。頑張って自分から捕まえられるように仕向けたというのに、お前のせいでこれまでの苦労が水の泡だ!」


 エルノアが叫んでからシーンとした静寂のまま数秒時が流れた。そして自分の耳にした言葉が幻聴ではなく本物だったことを知った大河は次第に沸々と怒りが沸き上がってきたのだった。


(どうやら聞き間違いではなかったようだな)


「さあ、今すぐ責任を取って逃げて行ったあいつらを捕まえて再び私たちを襲うように説得し…」


「ザッケンナコラー!」


「なんだ急に叫びだして。奇行になんぞ走る前に己の罪を悔い改めろ!」


「黙れド変態幼女!こっちが真剣に事態を重く受け止めてるのに、助けられたくなかったのが暴行を受けたかったからとかいうクソみたいな理由とありえねーだろ!」


(本当に何であんなに悩んでしまったのかと馬鹿馬鹿しくなるくらいに酷い理由だ。俺も考えを飛躍しすぎてはいたがあんなに必死の形相で訴えられたらどうしたって悪いことしたと思い込んじまうだろあれ。そしてその激怒していた理由がこんなしょうもないこととか…はあ〜)


「だたいたいそっちのやってる方がよっぽど奇行だろうが!お前にだけは奇行云々言われたかないんだよ!」


「なんだと?私の崇高な趣味の為の行動のどこが奇行だというのだ!」


「他人から虐められたいとかいう時点でどう考えても崇高な趣味では断じてねーし、どう考えても奇行以外のなんでもない。というか変態でしかないだろ」


「言葉に気をつけろ貴様、それではまるで私が変態みたいに聞こえるぞ」


「みたいでなくそのものだろ」


「なんて失礼な奴。私はただ他人に叩かれたり蔑まれたり踏みにじられたりすることに興奮を覚えるだけだ。それのどこが変だというのだ」


(逆に何でその状態を正常みたいに思えているのだろうか?コイツの頭は本当にどうなってんだ)


「世間一般ではそれは普通とは言わず、ドMとか変態って言うんだよ」


「そのような間違った偏見のまま育ってしまったとは…はあ、何と嘆かわしい事か」


(いや、どう考えてもお前の知識の方が間違ってんだよ。………間違ってる…よな?まさかこの世界ではこいつのいうことの方が正しいとかないよな?一般論じゃないよな?)


 大河は異世界の文化や価値観に殆ど触れていないが故の知識不足に加えて、スコーンやモヒ・カーンのようなヤバイ発言を連発する連中に関わってしまった事もあり、『この世界は前の世界での頭のネジが外れたような変わり者や異常者こそが普通と言われるのではないか?』などといった事を考えてしまうくらいに疑心暗鬼によって弱った精神が思考を麻痺させ目名前のエルノアという1人の言葉で少しの間洗脳されかけていた。


「仮にお前の言うように人が蔑まれたりすることに興奮を覚えないのが当然なのだとしてもそれは私が間違っている変態のではない。世界の愚民共が間違っている変態のだ」


(こ、この女。サラッと全世界のほとんど人を敵に回すようなこと言ったぞ)


 

 大河はあまりに酷い理由から頭痛のする頭を押さえながら本当に介入すべきではなかったとつくづく感じていた。


(どうやら俺は関わってはイケないタイプの奴に自分からかかわってしまったらしい)


「それであんたも同じく虐められたかったからとかいう理由なのか?」


 大河はこれまでのエルノアとのやり取りを静観していた姉の方に話しを振った


「そんなわけないでしょう。なんで他者からぶたれたりする踏まれたりすることに快楽なんか覚えなければならないのですか?」


(あれ?思ってた反応と違う。姉妹だからエルノアと同じしょうもない理由だと思ってたんだけどな。もしかして無理矢理付き合わされてる感じか?)


「同じセリフを妹さんの方にも言ってくれませんかね?」


「この子はいいのです。特別ですから」


「なんだそりゃ?」


(単なる身内びいきにしか聞こえないのだが)


「じゃあ何でお前は妹の愚行を止めずに付き合ってるんだよ」


「エルノアは虐められている時が一番輝くの!」


(あ、ヤバイ。今まで暴言除けばまともっぽかったのに等々変人じみた発言が飛び出したぞ)


「誰かにぶたれたたり罵られたりして興奮している時の姿が一番可愛いいの。ああいう時のエルノアのだらしなくて、でももっとも愛らしいあの表情は…まさに天使!」


 先ほどの無表情から一転、過去の幸福を思い出してかテンションが上がり嬉々として話すクラリスに対して、大河は比例するようにクラリスの異常な発言によって熱が冷めていった。


(何それ?異常者が特定の相手に暴行を行ったときの言い訳みたく聞こえる。そしてこれほど酷い誉め言葉を初めて聞いた。悪口や冗談にしたって質が悪いのに本気で褒めているのだから始末に悪い)


「そして私はその姿を目にしている時が凄く興奮するの」


「は?」


「そしてそれを見ながら同じめに遭うことでまるで体をシンクロし共感しているようで最高に気持ちが昂るの。あの高揚した状態でエルノアのあられもない表情を見ながら共に味わう暴力。あれこそが快感」


「は?いや…は?」


 大河はクラリスの常人であるのなら決して口からは出てこない衝撃のセリフの連続とその蒸気を逸したような歪んだ性癖暴露に脳の処理が追い付かず混乱した。


(駄目だ…いろんな意味で頭が痛い。こんな聞かれたら敬遠されそうな性癖暴露なんて普通なら間違いなく誰にも知られたくない秘密に分類されるものなのに何で自分の好きなゲームやお薦めの漫画を友人に勧めるみたいな感じで簡単に口にできるのだろうか?)


 クラリスはまるで恋する乙女みたいな表情で頬を赤く染めながら体をくねらせ気分が高揚し有頂天付近に達していた。逆にその光景にドン引きしていた大河のテンションは氷点下近くまで下がりに下がり続けていた。


(駄目だコイツ…妹の方も大概普通の変態だったがコイツは更に輪をかけてヤバい奴特殊な変態だな。見た目が清楚っぽくてて真面目そうに見えるから質が悪い)


 大河はたった1日にして早くも出逢ってしまった2組目の変人コンビ変態性癖姉妹の異常さを目の当たりにして自身の不運を嘆くと同時に置かれた事態に頭を悩ませるのだった。




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